第7話【生まれて初めてのイベント、開始です!】

 PK集団との戦闘から数日後の日曜日。

 遂にイベントの日がやってきた。



「き、緊張する……」



 イベント参加登録を済ませたベリーは、自分のステータスを確認して戦闘準備をする。



「ベリーは目標ある?」



 ベルは両腕を上に伸ばして準備体操をしながらそう聞く。

 ベリーは生まれて初めてのイベントなので、初戦で勝てればいい方だろう。



「で、できるだけ上位を目指すよ……」


「そっかぁ、じゃあもしかしたら最終的に私と戦うかもね」


「ベルには絶対勝てないよー!」



 そんな話をしていると、街中にお知らせのアナウンスが流れる。



『はーい! ではこれより、第二回イベントを開始しまぁーっす!! 進行は謎の高テンションお姉さん。略して謎姉ちゃんでーす!』



 と、やたらとテンションの高い女性がマイクに向かってそう言うと、参加登録したプレイヤーたちが一斉に転送される。

 ベリーもベルも光に包まれ、気付くとそこは沢山のモニターやベンチが設置されている観戦、待機ルームのようだった。



「うぉぉ……凄い!」


「うわ、今回参加者多いな」



 周りには千人は居るであろう沢山のプレイヤーたちが、武器やステータスの最終確認をしていた。

 そして、アナウンスが続く。


『ではでは皆さんご存知かと思いますが! 改めてルールの説明をしまーすっ! まず、プレイヤーの皆さんはランダムに各フィールドに転送され、そこで一対一のデュエルをしてもらいます! 最終的に勝ち残ったプレイヤー、一名には! なんと豪華なレアアイテムをプレゼントします! さらに上位十名のプレイヤーには賞金が与えられますので、皆さん頑張ってくださいね!』



 つまり、一位になればレアアイテムと賞金が貰えるのだ。

 一位にしか与えられないレアアイテム、当然それは全プレイヤーが狙っている。



「アイテムも気になるけど……とりあえず十位以内に入れればいいかなぁ」


「まぁ、ベリーも出来るとこまで頑張って。私はもちろん、ナンバーワンを狙うけどね!」


「うん、ベルなら行けるよ! 頑張ってね!」



 そうしてベリーは十位以内、ベルは一位を目標にする。



『……おっと、準備が出来たみたいですね! それでは! 最初のマッチを開始します! 転送された瞬間からバトルはスタートしますよー!』



 準備は整い、全プレイヤーが光に包まれ、イベント用に作られた各フィールドに転送された――。



* * *



「――う? 砂漠……?」


 ベリーが転送されたフィールドは砂漠だった。

 隠れる場所が無く、もう敵プレイヤーを目視できた。

 慌てず焦らずベリーは弓を構え、敵プレイヤーを狙う。



「………うーん、相手も気付いちゃってるよね……。あれは……《魔法使い》っていうやつかな? それじゃあ!」



 ニッと笑みを浮かべたベリーは、プレイヤーの手前に狙いを定めてスキルを発動させる。



「【煙幕弾】!」



 PK集団との戦闘から数日の間に手に入れたスキル【煙幕弾】は、その名の通り白い煙幕を張る弾、または矢を放つことが出来る。

 ベリーはモクモクと広がっていく煙幕に隠れながら、敵プレイヤーに接近した。


「【開放ノ術】、【絶対回避】、【見切り】!」


 ベリーは【開放ノ術】を発動し、全ステータスを上げる。

 【絶対回避】はもしもの時の保険だ。

 そして、これも数日の間に入手した侍職のプレイヤーは必ずと言っていいほど持っているスキル【見切り】は、相手の攻撃を剣で弾き、攻撃力を上昇させるスキルだ。

 ここで【見切り】を使用した理由は、敵プレイヤーが煙に隠れたプレイヤーを探すために、煙を払おうと攻撃することが多いからだ。



「【ウォータースラッシュ】!」



 予想通り、敵プレイヤーが煙を水の刃で切り払う。

 狙いが良く、煙ごとベリーに攻撃してきたが、それは【見切り】によって弾かれ、ベリーの攻撃力が上昇する。



「くっ……【エクスプロージョン】!」



 敵プレイヤーは高威力の爆破属性スキル【エクスプロージョン】を発動すると、杖から赤い光が集まり、接近するベリーの足下が同じく赤く光ったかと思うと、砂が大量に舞い上がるほどの爆発が起こる。

 しかし、爆発地点から距離が近すぎて、敵プレイヤーは爆風によって後方へ吹き飛んでしまった。


 これはチャンスだ。

 既にベリーは【絶対回避】で爆発を回避しており、その回避行動を利用して一気に敵プレイヤーとの距離を縮めると、太刀を振り上げる。



「せいや! とりゃあ!」



 一撃……三撃……六撃と、スキルも使っていないのに素早く次々と斬撃を繰り出すベリーに戸惑う敵プレイヤーは咄嗟にその場から逃げようとするが、結局間に合わず、HPを全て削られ敗北してしまった。



「ふぅ~、やったぁ! 初戦突破!」



 最初の敵プレイヤーが《魔法使い》で、物理防御力が低かったので比較的楽に初戦を突破したベリーは、待機ルームに転送されて次のマッチをのんびりと待った。



* * *



 その頃ベルは、剣士職のプレイヤーと森のフィールドで戦闘していた。

 敵プレイヤーは防御力の高い盾を装備しており、ベルの銃弾を上手くガードしている。

 プレイヤーの全身を隠せるほどの大きさもあり、なかなかに厄介な盾だ。



「当たらないな……」



 そう言いつつも敵プレイヤーに向けて弾を撃ち続ける。

 弾が無くなれば木の影に隠れ、すぐにリロードを行う……さっきからずっと同じ流れだった。



「このフィールドじゃスナイパーライフルは使えないし……あ、そうだ! これを試してみるかな」



 そう言って武器を二丁拳銃からサブマシンガンに変える。

 しかし、交換している隙に接近していた敵プレイヤーは、ベルに向けて剣を振るう。



「どりゃぁぁぁぁ!」



 隙を突かれた一撃……避ける暇もなかったが、事前に発動していた【絶対回避】により、ベルの身体は自動的に回避する。

 だが敵プレイヤーはベルの【絶対回避】を予想していたのか、全く焦らずに、流れるようにすぐ追撃しようとする。



「お、いい動き。なら……【潜伏】」



 すると、突如ベルの姿が消える。

 【潜伏】は使用者の姿を不可視状態にすることが出来るスキルだ。

 モンスター相手だと気配消しにもなり、囲まれた時に便利だがプレイヤー相手だとそうはいかない……だが、気付かれなければいい話だ。

 足音を殺し、気配を消して、ベルは自分を探している敵プレイヤーの背後に回り――――。



「……私の勝ちだね」


「くっ……!?」



 耳元でそう囁くと、敵プレイヤーの後頭部に突き付けたサブマシンガンのトリガーを引いた。

 弾が何発も連射され、敵プレイヤーのHPが一気に削られるが……敵プレイヤーもただ撃たれているわけにもいかないと、やられる前にベルに攻撃しようとしたが、剣を振るう直前でHPが0になり、無念に消滅した。



「はぁ~、こんな戦闘があと……何回あるんだ? みんな戦闘慣れしてる感じだからかなりめんどくさいけど……絶対一位になってやるからっ!」



 そう意気込みながら、ベルもベリーと同じように待機ルームに戻る。

 こうして二人は、無事に初戦を突破したのだった。

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