第4話【迷ったらクエストが発生しました!】

「はぁ……やっぱり憶えられてなかったなぁ……」



 正樹はぽそりと呟きながら、学校の廊下をとぼとぼ歩く。

 苺にプリントを届けに行ったのはいいが同じ委員会の、しかも委員長なのに名前を憶えられてなかったのにショックを受けていた。



「よぉ正樹! どうだったんだ?」



 教室に戻ると、正樹の友人である大斗ひろとが成果を聞く。


「あぁ大斗。うん、ダメだったよ……」


「やっぱりか、まぁあの八坂だしな~」


 学校での八坂苺は、いつもふわふわした感じで、ふわふわフラフラっと辿り着いた場所で休み時間を過ごしたりしている。

 なので、苺を見かけた生徒達はどこに行ったかを鈴に報告することは、もはやこの学校の常識になっていた。



「うぅ……どうしよう……」


「まぁ地道に頑張れって」


「“バウム”ならもう少し上手く出来るかもしれないのに……いや……昨日女の子のプレイヤーと会話出来てなかった気が……」



 正樹は昨日のことを思い出し、そう言ってため息を吐く。



「まぁお前のキャラ、かなり身長高くなってたしな。なんつーか好青年キャラ?」


「うん、最初は凄く動きづらかったよ……」


「ははは、そりゃあ大変だったな。……そだ、近々イベントあるらしいし、ダンジョン探索でも行くか? 俺、剣の強化素材欲しいんだよな」


「……そうだね、僕も素材集めしたいし、明日辺りに行こう」



 そうして2人はどこのダンジョンに行こうか少し話し合った後、授業に戻った。



* * *



「――よぉーっし、やるぞー!」


 しばらくして、ベリーは気合いを入れて探索へ向かう。

 目的は今より強力な装備の入手だ。

 それか、出来れば新しいスキルも欲しい。

 さすがに【絶対回避】だけでは心許ないのだ。


 ……とは言っても、どこに、なんの装備があるかなんて、ベリーにわかるはずもない。

 とりあえずダンジョンに行った方がいいとベルに言われたので、ベリーはダンジョンを探すことにした。


 大型のダンジョンから小型のダンジョン……それぞれに違うアイテムが配置されている。

 大きいものになるほど規模も難易度も上がるが、それだけレアアイテムのドロップも多くなる。

 しかし、初心者のベリーがソロでダンジョン攻略するのは無謀なので、小型のダンジョンを探す。



「ふんふふーん♪ あっ! ネコちゃんだ!」



 ダンジョンを探す道中……愛らしい黒猫を発見したベリーは、走り去っていく黒猫を追って、森の奥深くに向かった――。



「――こ、ここはどこなんですか!?」



 黒猫を追いかけていると、ベリーはいつの間にか見知らぬ場所に着ていたことに今更気付く。

 転移系のアイテムなんて持っていないので自力で脱出しなければならない。



「べ、ベルにメッセージを……! あっ、ダメだ今日まだログインしてない!」



 あたふたとどうしようか迷っていると、木の影から先ほどの黒猫がひょっこりと現れる。



「あ、ネコちゃん! 私はどこに行けば!?」



 黒猫にそう聞くがもちろん返事をするはずもなく……だが代わりに、通知音と共にクエストが発生した。



「《黒猫の落とし物》……クエストかぁ! うんうん、受けるよ!」



 森で迷っていたことなんて忘れ、目の前に表示された半透明のパネルを操作し、クエストを開始する。



「ニャー、ボクの落とし物を探してきてくれるニャー?」


「しゃ、喋った……うんそうだよ~、何を落としたんだいネコちゃん?」



 クエストを受けた途端に喋りだした黒猫の前にしゃがみ、話を聞く。



「小さい宝石なんだニャー、それがないとお母ちゃんの病気が治らないんだニャー」


「にゃんと……どこで落としたの?」


「多分あっちの古い神社ニャー、お願いだニャー」



 そう言うと黒猫は左の方に手を伸ばす。

 なんと可愛らしい。



「うん、任せて!」



 そう元気よく返事をしたベリーは、早速左の方にあるという神社へ向かった。

 しかし結構長い道のりで、二十分近くもかかってやっと神社に辿り着いた。



「ハァ、ハァ……ここから宝石を探すのかー……」



 と、かなり広い敷地の神社を眺めながら呟く。



「ネコちゃんの為に頑張るぞー!」



 こうしてベリーは宝石を、しかも小さい物を懸命に探し始めた。



* * *



「無い! どこにも無いよ!」



 かなりの時間、敷地内を探したが小さい宝石は見つからなかった。



「こうなったら神社の中なのかな……?」



 そう言って神社に近付き中へ入る。

 するとそこには鬼のようなモンスターが一体だけ、正座していた。

 その横には小さな真珠のような緑色の宝石がある。

 あれが黒猫の落し物で間違いないだろう。



『ほう……あの化け猫が来るかと思ったが、まさか人間が来るとはな』



 ベリーの存在に気付くと、そう言って鬼は立ち上がり、大きな刀を構える。



「戦わなくちゃダメなのか……ここ狭いから戦いづらいなぁ」



 鬼は2mほどあり、神社内で戦うのには少し狭かった。

 しかし場所を移動する隙もなく……。



『行くぞ、人間ッ!!』



 構えられていた刀は真っ直ぐにベリーの元へ向かうが、ベリーはそれを予知していたかのように軽々と避ける。

 初撃の回避に成功し、少し安心しながら鬼の隙を突く。



「はぁぁッ!」



 ベリーは素早く鬼に近付くと、その腹に一撃、太刀を振るう。

 しかし鬼のHPバーは少ししか減っておらず、初期武器の太刀では良いダメージが出せない。



「うぅ……あ、そうだ!」



 ベリーは何か閃き、神社の外へ出る。

 鬼は外まで追って来ない。



「確かベルがクエストの範囲外に出たらモンスターは少ししたら消えちゃうから気をつけてねって言ってたっけ……」



 そう、“少し”したら消えてしまう。

 なのでベリーはその“少し”の時間で鬼を倒そうとしていたのだ。

 武器を弓に変え、鬼を狙う。



「……ふっ!」



 短く息を吐き、矢を発射させる。

 矢は鬼の心臓部に命中し、HPもいい感じに削れた。



「よし、次!」



 さらに矢を放ち、それはまた心臓部に命中する。

 それを繰り返してHPが半分になると鬼は刀で薙ぎ払うと、風が空を切り、神社が崩壊し木片が散らばる。

 どうやらHPを半分削るとフィールドが広がるようだ。



「広くなるならっ!」



 ベリーはすぐさま武器を太刀に持ち替え、蒸気のような息を吐く鬼に素早く接近し、数発の斬撃を叩き込む。



「……ふっ! はぁっ!」



 鬼も負けじとベリーに攻撃を仕掛けるが、全て避けられる。

 それどころか、ベリーは避けるついでに攻撃していた。

 鬼の動きに慣れたからこそ出来る動きで、HPも残り二割になっていた。


 

「これで終わりだぁぁぁっ!!!」



 ――最後の一撃が鬼を斬り、HPを削り切ると鬼は光の粒になって消滅……バトルの結果は、見事ベリーの勝利に終わった。

 レベル差がかなりあったのにも関わらず、ベリーに鬼の攻撃は一度も当たらなかった。



「ふぅ……ん? 何かドロップしてる!」



 ベリーは鬼からドロップしたアイテムを確認して、目を丸くして驚く。



《鬼神ノ太刀・烈火》

 トータル値を+30。

 付属スキル:【鬼神化】【破壊修復】



 ベリーは迷わずこの太刀を装備して、宝石を手に黒猫のところへ戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る