……僧衣に身を包んだボールス・ド・ガニスは、自らの表情を押し殺ししたまま、寝台に横たわる彼に寄り添った。彼は一切の物を口にせず、随分と痩せ細ってしまっていた。

「……あまりにも、私は穢れを負いすぎた」

 虚ろな目をした彼は、ボールスに向かってそう告げる。彼は仲間の全員を呼び出す前に、まずボールスだけを呼びつけた。かつての密かな会話のように、二人きりで話がしたかったのだ。

「最早、私は死ぬしかない。……その時が来たのだ」

 彼の凍えた脳裏には、数多くの過ちと、数多くの後悔があった。彼がブリテンに戻った頃には、王と反逆者は死んでいた。――戦いは、すでに終わっていたのだ。

「私は永遠の罪とともに、この世界を離れよう……。これが、私の最後のおこないだ……」

 彼はガウェインの墓の前で、何日も涙を零した。彼は王妃の遺体の前で、深いため息を落とした。そして彼は、とある寺院に入り、今までの過ちを懺悔した。……そうすることしか、彼にはできなかった。涙はとうに枯れ、彼の胸の中には、深淵のような悲しみだけが残った。

「ランスロット卿」

 彼はボールスの呼びかけに、ほんの少し、顔を動かした。頬をなぞる銀髪が、寝台の上に零れ落ちる。

「貴方がどれほど、深い罪を背負おうとも。私は決して、貴方の名誉を忘れません」

 ボールスは最後まで、彼の良き理解者であった。ボールスは彼に全てを尽くした。そして彼も、ボールスに全ての信頼を置いた。

「人の心というものは、常に新しい物事に惹かれます。貴方にとっても、それは同じ。人々は身近な悲劇を好み、貴方の古き良きおこないを、全て忘れ去ってしまうでしょう……」

 ボールスは彼の手を握り、彼に強く訴えた。今まで過ごした全ての日々と、彼の残した全ての栄誉を、余すことなく思い出しながら。

「……だからこそ、私はここに誓います。貴方の名誉と誇りを、この世界に刻み続けることを――!」

 彼から伝わる体温が、徐々に冷たくなっていく。それを感じるのが怖くなり、ボールスは床に目を落とした。堪え切れなくなった涙が、頬の上を静かに伝う。

「……どうか、泣かないでくれ」

 彼は古傷のついた手で、ボールスの指をゆっくりとなぞった。彼の生きた証を託すように、穏やかに、そしてゆっくりと。

「悲しみを背負うのは、私一人で十分だ……。おまえはどうか、顔を上げてくれ……。そして、最後に、私の願いを聞いてほしい……」

 嗚咽を漏らすまいと、ボールスは必死に努めた。そうしなければ、この世で一番大事な物を失ってしまうようで、怖くて怖くて仕方がなかった。

「私の名誉を重んじるなら……、この世で生きて、そして死ぬまで……、神のために、尽くしてほしい……」

 彼の顔は、実に穏やかだった。それは、遺志を継ぐ者がいたからだろうか。あるいは、ボールスが傍にいたからだろうか。

「再び、騎士になってくれ……、ボールス……」

 ……彼はそう言い切ると、重い瞼を静かに閉じた。これ以上、何も言う事はなかった。

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