第3話 鎮火
「亜美っ…好き。」
健は、セックスのときだけ私に好きだという。
前に横浜でデートをしていたとき、私は幸せすぎて「好きだな〜」と言った。
しかし健から、「そんな簡単に言うもんじゃないでしょ」と言われてしまった。
「セックスは言ってもいい」という謎のルールがよくわからない。愛情表現まで定型的で合理的なのが虚しい。
だから私は、行為中に好きだと言われると、嬉しい反面戸惑ってしまう。
愛情を伴う言葉や表現の、タイミングはいつだって難しいのだ。
恋人なのに、好きだと伝えられないのが、悲しい。
でも、こう思っていることなんて健は知らないし、知ろうともしないだろう。
「もういきそう…。」
我慢している健を見ていると、普段淡白な彼が必死であることに気持ちが満たされる。
その一方で、行為が終わってしまうことに絶望する。
「目的」が達成されれば、健は私に見向きもしないだろう。
スマホを手に取り、自分だけの世界へ行ってしまうだろう。
だから嫌なのだ、サービスタイムは。
長い時間密室にいたって、二人でできることは限られている。
セックスはずっとできるものじゃない。
そんなことを考えていたら、繋がっているのに寂しさが込み上げてきて、それを押し殺すように「いいよ」と言った。
健は動きを加速させた。私の意識は朦朧となり、全身がとろけだした。
相手がいくまでの、激しい快楽が好きだ。悲しいけど、好きだ。
「いくっ…!」
強く一突きされ、健が中で果てた。私にしがみつき、少しずつ腕の力を弱め、動きを止めた。
ああ、火が消えた。
健はゆっくりと起き上がり、丁寧に処理を始めた。私もティッシュを手に取り、自分を慰めるように拭いた。
「ふーーーっ。」
健は私の横に、前から倒れた。顔は見えないけど、満足したことが伝わってきた。
「気持ちよかったねー!」
そう言って私は部屋の明かりをつけ、すぐさまトイレへ向かった。
「寂しい」という表情を見せたくなかったからだ。
面倒だと思われたくなかったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます