第13話 大人の階段

 目の前には大人の雑誌のカラーページが開いている。

 雑誌は地面に落ちていた。ページが開いた状態で。女の人の裸だった。しゃがんだ後ろに頼人と英麗玖が立ってのぞきこんでくるのがわかった。アスカちゃんがいなくて幸いだ。こんな雑誌を凝視しているところを女の子に見つかっては困ったことになる。男だけならゆっくり鑑賞しても問題ない。

 今日天使はピアノのレッスンの日だとかで、自宅でピアノのおさらいのあと教室でレッスンを受けるらしい。アスカちゃんはどうしているのかしらない。幼稚園にこなかったというから風邪でもひいたのだろう。それで、頼人と英麗玖をつれて遊ぶことになったのだ。マーくんはよくわからない。冬は家で過ごすことが多いみたいだ。ゲームでもしているのだろう。

 冬になって足が遠ざかっていた空き地に視察にきた。たまにこうして現地にやってこないと、なわばりを他人に荒らされることになりかねない。そうして空き地で大人の雑誌に出くわしたのだ。

 ふたりが左右にすわりこむ。

「次のページに行くぞ」

 返事がないけど、頭をうなづかせているらしい気配がある。長い髪の女の人がおっぱい丸出しでこちらを見つめている写真におさらばして、次のページへ行く。それが写真であっても裸の女の人に見つめられると、裸見たいの?と問いかけられているようでやましい気分になってしまう。早くめくりたかったのだ。新しいページにあらわれたのはベッドに膝立ちしている女の人で、裸だけれど今度は顔だけ横を向いている。ありがたい。腕をうしろで組んでいて、おっぱいがツンとすまし顔で上を向いている。部屋の中が明るく、爽やかな雰囲気。どこかのリゾート地のホテルで、部屋の窓を開け放っているような。

 ちょっと不思議だ。写真の女の人には、軽く開いた股間にちんこがついていないのだ。女の人なら誰だって同じだ。そんなことは当たり前に知っている。でも、普段お風呂に一緒にはいるのはお父さんとか頼人とか男ばかりだ、男の裸に慣れている。おっぱいが大きいのは裸にならなくてもわかるから女の人の裸に大きなおっぱいがついていても不思議に感じないけれど、ちんこのあるなしはというか、ちんこのついていないことは、裸にならなければわからない。それで股間にちんこのついていない裸を見ると、なんだか不思議な感じがしてしまうのだろう。

 股間を押さえる。いや、なくなっていないか心配になったわけではないけれど、なんとなく確認だ。

 あまりないことだけれど、お母さんとお風呂にはいったこともある。やっぱり不思議な感じがした。股間に毛が生えているのはお父さんも同じだけれど、あるべきところにあるべきものがないような。いや、あるべきではないのだけれど。のぼり階段があると思って足をあげて降ろしたときに、やっぱり階段がなくてスカッとしてズッコケてしまうような。いや、なに言ってるんだろう。

 女の人と言えば、アスカちゃんも女の人だ。小さい子供だけど。アスカちゃんにもちんこがなかった。子供のうちはあるけれど、大人になると消えるとかぽろっと取れるとかいうわけではない。女の人には生まれたときからちんこがついていないのだ。なんでそんなことを知っているかというと、一緒にお風呂にはいったことがあるからだ。アスカちゃんの家にはちょっと豪華なビニールプールがあって、呼ばれて一緒にプールで遊ばせてもらったことがある。プールのあとみんなでお風呂にもいれてもらったのだけれど、お風呂から出てアスカちゃんがお母さんに体を拭かれているとき、タオルに隠れていない股間に目がいった。たまたま目にはいったのだ。一筋の線が股間に刻まれていて、ちんこはなかった。

 男には股間にデッパリがある。女にはない。むしろヘコミがあるのだ。デッパリとヘコミはちょうどピッタリはまるにちがいない。男と女はセットでひとつなのだ。デッパリとヘコミをはめた状態が完全な人間ということだろう。そのあとどうなるのだろう。もう取れなくなってしまうのだろうか。それともちんこが取れて、男も女も股間が平らになるのだろうか。ちんこがなくなってしまったら立ちションができない。嫌だ。完全な人間なんかになりたくない。

 ページをめくり終わって、となりにしゃがむ頼人の股間をさわる。

「ちんこ立った?」

「オシッコ」

 なんでか知らないけど、ちんこが立つとオシッコしたくなる。

「勝負するか?」

「する」

 英麗玖は勝負と名のつくものが大好きなのだ。道路に背を向けて用意。

「一番遠くに飛ばしたら勝ちな」

 年中のふたりに負けるわけにはいかない。勝負は非情なのだ。ふたりのちょぼちょぼと流れ出るオシッコを尻目に、本気を出してびゅーっとオシッコを飛ばす。

「タイちゃん、すごーい」

「あ、こら。前向いてやれ、おれにオシッコかかるだろ」

 ふたりのオシッコの流れがふらふらとこちらに近づいてきていた。

「なんであんなに飛ばせるの、タイちゃん」

 すでにオシッコを出し切ったちんこをのぞきこんでくる。英麗玖は好奇心旺盛な男の子だ。

「ちんこの先に皮が余ってるだろ?」

 ちょっとひっぱって示す。ふたりも真似している。

「これをこうすると、なかから赤っぽいちんこの中身がでてくるな」

「いたっ」

「バカ、やりすぎだ。この中身の先っぽからオシッコがでるんだ。先っぽがでてくるまででいいんだよ。皮が邪魔してるからじょぼじょぼになる。先っぽが出てればビューっと飛ばせる。それだけ」

「わかった、もう一回勝負」

「いましたばっかで、もうオシッコ出ないだろ」

 頼人も英麗玖も早く試したいけど出るものがない。ちんこをしまって、勝負はお預けだ。

「この本どうする?」

「どうしよっかな。そのままほっとけばいいか。あんましキレイじゃないし」

 少し日に焼けているし、雨にも降られたらしく全体がよれてしまっている。一度見てしまえば、また見たいとは思わない。

「女の子には本のこと言うなよ?嫌われるからな」

 うんうんとうなづいている。女の子に嫌われることは重大な悲劇だと思っているのだ。それは、そうかもしれない。

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