第90話 ちょっと待った
~ 前回のあらすじ ~
森羅万象ありとあらゆるこの世の事象を「ホモだから」で説明するアンセ・クレイマー。
彼女の目的はいったいなんなのか!?
――――――――――――――――
「私の目的はね、恋愛における垣根を全て取り払って、もっとホモゲフンゲフン、もっとみんなに自由な恋愛をしてもらう事なの」
「……俺の事を……応援してくれるのか?」
ゾラの縋るような問いかけに、アンセさんは大きく頷いた。その瞳には、迷わぬ者の強い意思。対照的にアルグスさんは血の気が引いている。
ゾラはその目に決意の光を宿し、ノスタルジックな赤い夕焼けの光の中、アルグスさんに正対した。
「なんでこんなことに……」
アルグスさんの目が本当に死んでる。死んだ魚の方がもうちょっと生き生きした目をしてると思う。
「アルグスさん! 俺と!! 付き合ってください!!」
そう言ってゾラは上半身を折る様に深くお辞儀をして、右手を差し出した。アルグスさんはもはや死んだような目というか、白目をむいている。これなんなの。どこが終着点なの。
「ちょっと待ったあ~ッ!!」
おっと、ここで「ちょっと待った」コールだ。コールの主は……え?
「私だってアルグスへの気持ちでは負けてるつもりはないわ。あなたにアルグスは渡せない!」
アンセさん? ええと……んん??
どういうこと? なんなのこれ? ゾラを応援するんじゃなかったの。散々応援しといて告白したら急に止めるとかどういう事? 二重人格なの?
「お、お前……俺の事を応援してくれるんじゃなかったのか!?」
当然ゾラも困惑顔だ。そりゃそうだよね。意味が分からないよね。私も分かんないもん。しかしアンセさんの表情が崩れることはない。本当にこの人二重人格なんじゃないのかな。アンセさんは大きく息を吸い込んだ。
「それはそれ!!」
まるで衝撃波が発生しているかのような強い圧。まさしく今この場の空気はアンセさんが支配している。
「これはこれ!!」
強い。
この人のメンタルも、また鋼なんだ。
やっぱり
「ど、どっちを選ぶんだ、アルグス!!」
「え?」
真剣な表情でアルグスさんの方に語り掛けるゾラ。しかしアルグスさんの方は完全に脳が追い付いていない感じだ。
……っていうか、聞くまでもないのでは?
この状況でアルグスさんがゾラを選ぶという選択肢が存在するとでも? もし私が恋愛小説読んでてそんなオチになったら破り捨てるわ。
当然それの分かってるアンセさんは余裕の表情。
というか、アンセさんからすればアルグスさんが自分を選べばそれで問題なし。ゾラを選んだとしてもそれはそれで妄想が捗るというどちらに転んでもダメージの無い状況なんだろうか。
「そ、そこまで!!」
え? クラリスさん? いつの間にかドラーガさんの頭の上によじ登ったクラリスさんが唐突に大きな声をあげた。
「こ、ここは公平に、両者が闘って、勝った方が愛する人を手に入れられるという古式ゆかしい魔導決闘をて、提案するわ!!」
な、なんだってー!!
「ぐっ、ぐふふふふふ」
クラリスさんの下でドラーガさんが口を押えて爆笑している。くそっ、なんか変な事吹き込みやがったな。話がどんどん変な方向に進んでいく。
「ふんっ、いいでしょう、ジゲン流免許皆伝の業前を見せてやるわ!!」
「いい度胸だ。七聖鍵最強の魔導士の力ってもんを味わってみるといい」
「勝手に僕をトロフィーにしないで欲しいんだけど」
どうすんのこれ、もう収拾つかないよ。でもまあ、前のフービエさんとの決闘みたいに実際に相手に当てない戦いなら平和的に解決もできるしまあいいのかな。
「ヘルファイア!!」
「キャアッ!!」
と、思っていたが二人が正対する前にゾラの方から攻撃を仕掛けてきた! ゾラがアンセさんに向けた手のひらからは巨大な火球が現れてアンセさんに直撃した。
しかしどうやら魔法障壁か何かで咄嗟に防御したようで、大分ダメージは受けてはいるようだけれど、消耗しているように見える。
「くっ……決闘の作法ってもんをしらないの……ッ!!」
「てめえら人間が勝手に決めた作法なんて知ったことかよ。ジゲン流も新陰流も、俺から言わせりゃ二流のおままごとだ。俺の前にあるのは闘い、ただそれだけだ。力で手に入れろってんなら分かりやすい」
突然のブック破り。ゾラの表情が以前の「狂犬」に戻っている。ゾラは言葉を止めると、右手の人差し指と親指だけを立て、狂気に歪んだ笑みを顔に浮かべて、その手をアンセさんの方に差し出した。
― シュートサイン
― 人差し指と親指だけを立て、他の指は全て折りたたんでその意思表示とする。
― 市民と術者の安全のため高度にルール付けをされた魔導士同士の決闘。だがそれを意に介さない者も当然いる。
― 通常整えられた決闘のルールをブック(台本)と呼んで蔑み、殺し合いにこそ真の魔導があると信ずる者達。彼らがその意思を表示するためのサイン、それがシュートサインである。
「上等コいてんじゃないの……! アタシ相手にブック破りかまして生きて帰れるとでも思ってんの!?」
なんかアンセさんの様子がヤバい。完全に目がイッちゃってる。大丈夫なのこれ。
「炎の精霊サラマンダーよ、我が血の契約の下にその姿を現し給え!!」
アンセさんがそう叫んで両手を上げると辺りが炎に包まれた。私達も含めて直径20メートルほどの炎の輪が周囲を走る。これはまさか、召喚魔法!?
そうだ、アンセさんの
気づけば私達は精霊の集団に囲まれていた。契約した精霊って、一体じゃないの? それに爆音もどんどん大きくなっていく。耳をつんざくような音。両手で耳を塞いでもまだ爆音は私達の耳を容赦なく蹂躙する。
トカゲの形のサラマンダー、角の生えたイフリート、巨大な羽を持つフェニックス、火の玉、ウィルオウィスプ、炎に包まれた人影バルログ。他にもよく名前の分からない炎の精霊たちがたくさんいる。
精霊は二つの車輪がついた金属製の乗り物に乗っていて、その乗り物が凄まじい轟音を上げているようであった。
というか、なんか私達まで輪の中に入っちゃってるんですけど、これもしかして巻き込まれちゃったんじゃ?
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