第89話 小さな恋の唄
「とうとう自分の正直な気持ちと向き合う気になったのね! ゾラ!! いいのよ! その気持ちは決して忌諱すべき物じゃないわ! むしろ男と男の恋愛は男女の物よりも純粋な愛……」
「ちょっと黙っててくれないか、アンセ、そういう話じゃ……」
「そうだ」
!?
いつものアンセさんの腐女子としての暴走が始まった。ただそれだけだと思ったんだけど、ゾラの口からは意外な言葉が漏れ出た。
「あれからずっと、考えていたんだ……この俺の中のもやもやした気持ちはいったい何なのか、と」
「ちょっちょっちょっ、ちょっと待って下さい? ゾラさん?」
アルグスさんが両手を出してゾラの言葉を止める。っていうか、私も待って欲しい。理解が追いつかない。何なのこの展開。
「なんだ?」
「いやおかしいですよね? 闘いが好きで、強敵を求めて僕と闘いたい、っていう話でしたよね?」
そう。確かそうだったはず。それが何故ホモの話に? もしかして淫紋がなにか悪影響を与えているのでは?
「俺は……恋という物をしたことがない。
だから分からなかったのかもしれない……この、胸の奥に熱く湧き上がる気持ち、これはもしかしたら『恋』って奴なんじゃないのか? と……」
ええ? 何これ? ええ~? ど、どうす……ええええ? どうすんのコレ?
「この間、アンセに『その気持ちが恋だと気付いていないだけだ』と言われて、その時からずっと考えていたんだ」
考えすぎて深みに嵌まっちゃってるじゃないですか! どうすんですかアンセさんこれ!! 何やってくれちゃってるんですか!!
「その通りよ」
ああくっそ! この人にバトン渡しちゃいけないんだった。
「いい? ゾラ、アルグスの事を考えると胸が苦しくなって夜も眠れなくなるでしょう? さっき、カルナ=カルアにアルグスをとられると思って怒りが沸き上がったんでしょう? それは間違いなく……」
いやアンセさん本当にやめて欲しい。ほんのちょっとでいいから自分の発言がどういう影響を及ぼすか考えてから口に出して欲しい。
「恋よ」
ヤメロってんだよこの行き遅れ。
「男同士でウコチャヌプコロしても、何も生まれないわ……」
出たよ、イリスウーフさんのウコチャヌプコロ。
「やっぱりそうだよな、俺は……おかしくなってしまったんだろうか」
なってますよ! イリスウーフさん、もう一押し! ゾラをなんとか説得して下さい!
「それは違うわ、イリスウーフ、ゾラ。ウコチャヌプコロとは、互いをよく知ると言うこと。それは、いらぬ闘いを避けることでもあるわ。
つまり、アルグスのリトルアルグスがゾラのスイートダリアに挿入されることによって、二人の闘いは回避されると思わない?」
どうやらアンセさんの中ではアル×ゾラらしい。強気受けは基本ですね。
「そ、そうだったの……まさか、私の求める『争いのない世界』はウコチャヌプコロによって実現される……?」
気をしっかり持って下さいイリスウーフさん。あなただけが頼りなのに。
「俺は……自分がもう分からない」
私もあなたが分からない。ゾラは両手で頭を抱え込んでいる。とても「狂犬」と呼ばれた人物の姿とは思えない。
「悩まなくていいの、自分の気持ちに正直になればいいのよ!」
アンセさん本当に話の終着点をどこに持って行こうとしてるんですか。これはもう、私が出てきて軌道修正をするしかないんじゃないのかな。
「ち、ちょっと待って下さい! ゾラさんはアルグスさんと闘いたいんですよね? それはやっぱり恋とは違うんじゃ……」
「おい!」
ところが私がしゃべり始めるとすぐにそれをドラーガさんが止めた。
「今クラリスと相談してたんだけどよ……」
意外にもドラーガさんもまじめに考えてたのか、でも確かに恋と勘違いさせてた方が闘いは回避できて平和に事は進められそうな気がするけど……
「面白いからほっとこうぜ」
何を相談してたんだよ!!
「プフッ、くひひひ……」
よく耳を澄ませばドラーガさんの懐からクラリスさんの笑い声が聞こえる。くそっ、こいつらには何も期待できない。
「いい? ゾラ。ホモは決して悪いことでもなければ異常な事でもないわ」
ああ、アンセさんのターンが始まってしまった。
「男は誰しも、心の中にホモを飼っているのよ」
なんだと。
「誰しも?」
「そうよ」
訝しげな顔でゾラが訪ねるがアンセさんは相変わらず訳知り顔で堂々と答える。この人の言うこと本気にしたらダメですよ。
「ガスタルデッロとデュラエス、見たところ随分仲がよかったわね……」
まさか……
「あいつらは不老不死を得る前からの友人で、共に人間と戦っ……」
「ホモだからよ」
「なんだと!?」
ちょっといい加減にしましょうかアンセさん。ゾラさんも「なんだと」じゃないですよ。そこは怒りましょうよ。
「テューマはやたらメッツァトルに絡んできて、人間を裏切ってまでアルグスを罠にはめようとしたわね……」
「あいつらはセゴーとともにオクタストリウムの支配者になろうと……」
「ホモだからよ」
「何だって!?」
ホントにこの人ヤバいぞ。ゾラさんの方じゃなくてアンセさんの方が。
「誰もが心にホモを飼っているの。多くの女の人が男性と恋に落ちるのも、心の中のホモ性が活動した結果にすぎないの……」
ん……? え? なんだって?
「何故ハチが花から花へと飛び回るか分かる?」
「そ、それは、花の蜜を集めるためで……」
「ホモだからよ」
……まいったな、本格的に分からなくなってきたぞ。
「蜜蜂は体を花粉まみれにして飛び回るでしょう? 花粉というのは人間で言えば精子よ。これはもう『ホモだから』以外の理由では説明が付かないわ」
誰かお医者さん呼んで。
「ひまわりが太陽に向かって花を咲かせ続ける理由が分かる?」
「まさか」
「ホモだからよ」
ゾラはその場にがくりと両膝をついた。
「なんと……なんということだ。
世界はこんなにも、ホモにあふれていたというのか……」
いやな世の中だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます