第63話 玄室の中の饗宴
~ 前回のあらすじ ~
クオスのおちん〇んで魔族を撃退したゾ!!
――――――――――――――――
「霧が……はれて来ました!!」
ようやくクオスさんの目くらましの魔法の効果が切れて、黒い霧が晴れてきて、少しずつ視界が戻り始めた。それにしてもよかった。アンセさんが魔族の襲撃に気付いて引き返してくれたおかげで、何とかその場に居合わせることができた。
どうやら魔族はクオスさんが(どうやってかは分からないけど)一人で撃退したみたいだったけど、アルグスさんがこちらにいたことが大きな牽制にはなったはず。
しかし霧が完全にはれて、視界がクリアになると、事態は思ってもいない様相を呈していることに気付いた。
「ド……ドラーガさん……」
「ひ……」
ドラーガさんが、魔族の一人、この間戦闘した獣王ヴァンフルフの足元にしがみついて足止めしていたのだ。
「くそっ! こいつめ!!」
ヴァンフルフが鋭い爪のある右手を振り上げた。まずい、ドラーガさんが殺られる!! ……と、思ったが、ヴァンフルフの腕は高く掲げられたままそこで止まってしまった。なんだろ?
(ここでこいつを殺して腕を外し、逃げるとする……その後、どうなる?)
腕を振り上げたまま何か考え事をしているヴァンフルフを前に私達は身動きが取れない。下手に刺激すればドラーガさんを殺してしまうかもしれない。
(ボクは今挟み撃ちの状態だ。右にはあのアルグスとアンセ、左にはどうやったのかは分からないけど、カルナ=カルアとビルギッタを撃退したエルフの女……逃げ切れるか? いや、厳しいだろう)
いつまでたってもアルグスさんもヴァンフルフも動かない。そのことに不思議に思ったのかドラーガさんが顔を上げてヴァンフルフを観察している。
(コイツ……この身のこなし……まさか!!)
ヴァンフルフは高く掲げた右手を下ろしてこちらを見る。
(どうせ捕まるなら……アルグスの仲間を殺してたかどうかで……大分心証が違う!)
「抵抗しないのか……その方が賢明だな」
臨戦態勢だったアルグスさんは剣を腰に提げてる鞘に納めながら冷静にそう言った。足にしがみついていたドラーガさんが手を放すと、ヴァンフルフはこちらに向かって両膝を地に着いた……まさか。
「ごめんなさいいいぃぃ! なんでもスラスラペラペラ喋りますんで!! どうか命だけは!!」
「やはり……こいつも
なんなのゲザーって。
「なら、一緒に来てもらおうか……先頭を歩け、ヴァンフルフ」
アルグスさんが静かにそう言うと、不気味なほどにヴァンフルフはおとなしく従い、私達が向かおうとしていた通路の奥に向かってゆっくりと歩き始めた。
「逃げようなんて思うなよ? 妙な動きしてみろ、クオスのマグナムが火を噴くことになるぜ」
「ちょっと!!」
クオスさんがドラーガさんの言葉に抗議の声をあげる。私まだどんなのか見てないんだよな……
「ね、ねえ、君達、なにしにダンジョンに戻ってきたの……?」
歩きながらほんの少しだけこちらに振り向いてヴァンフルフが問いかけてくる。前にあった時も思ったけど、なんかこの人妙に幼い感じの喋り方なんだよな……
「……テューマ達の救助だ」
「!?」
ピタッと立ち止まってこちらを振り向くヴァンフルフ。もちろんオオカミの顔なんでよくは分からないんだけど、青ざめてる? 目を丸くしてアルグスさんを見つめている。
「まさか……殺したのか?」
「あ……いや……ぼ、ボクは、やってない……」
その言葉で何となく私達は状況を察する。「自分はやってないけど」……つまり、さっき逃げた仲間が殺ったって、事だろうか。アルグスさんの雰囲気が怒気を帯びたものに変質していく。
「あ、アルグスさん……その、もうすぐ例の玄室ですし、とりあえず目的地に着いてからでも」
「そうだね……イリスウーフ」
そう答えて冷静さを取り戻したアルグスは通路の先に視線をやる。前回私とドラーガさん達が目の前にしながらも(ドラーガさんの駄々により)結局たどり着くことのなかった玄室。その扉はもはや目と鼻の先にある。
「気をつけろ、イリスウーフ、アルグス」
ドラーガさんが小声で二人に話しかけた。
「気をつけろって……なにを?」
イリスウーフさんが聞き返すと、ドラーガさんはしばしヴァンフルフを見つめてから答える。
「奴は……
だからなんなのゲザーって。アルグスさんはドラーガさんを見つめ、そしてちらりとヴァンフルフを見てから口を開く。
「……お前みたいな奴ってことか?」
「さあな? 忠告はしたぜ」
「私は……戦いが、嫌いです。ドラーガみたいに戦いを避けて、争いを治めようとする人なら……きっと彼とも分かりあえるのでは? たとえモンスターであろうとも」
「それもお前次第、あいつ次第だ。重ねて言うが忠告はしたぜ? あとはお前らで考えな」
このときまだ私達は想思いもしなかった。この扉の向こうで、
その鉄製の扉には依然と同じままに「私有地です 入らないでください」という呪いの文言が張り付けられたままになっていた。ゆっくりと扉は開けられ、血なまぐさい風が滲み出てくる。私はその匂いに思わず顔をしかめた。
それは「惨状」といって差し支えの無いものであった。
部屋の奥にある祭壇。それを守る様に両側にしつらえられた篝火は簡素ながらも人の手の入った部屋であることを主張していたが、しかし床にはボロボロになった数人分の死体。
まだ殺されてから日がたっていない。それはそうだ。ほんの二日ほど前に、彼らは私達と対峙していたんだから。腐敗臭は放っていないものの、思わずえづきそうになるほどの血と内臓の匂い。
アルグスさんは一人、その死体の海に進み出て悲しそうな、しかし怒りの感情を孕んだ表情をしている。
「テューマは……僕が初めてこの町に来た時に天文館の場所を尋ねた人物だった。
……少なくともその時はまだ、尊大な態度ではあったけど、善良な、一冒険者だったんだ」
アルグスさんは胴体と泣き別れになっていたテューマさんの生首を持ち上げて、その顔と正対した。
「……どうしてこんなことに」
自業自得、といえば多少は気が晴れるだろうか。
しかしアルグスさんにとっては一度は自分に刃を向けてきた「敵」であろうとも、ともに夢を語り合った「仲間」であったのだ。
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