第34話 黄金の疾風
ダンジョンの中ではぐれた場合。
当然起こりうるシチュエーションであり、その時はよほどの事情がない限り外か、もしくはアジトにまで帰って落ち合う手はずとなっていた。
だからまあ、ドラーガさんの「帰りたい」ムーヴも別に全く見当はずれの行動というわけではなかったんだけれども。だからといってあんな意味ありげな扉の前ですぐ引き返すのもどうかとは思うんだけど……
「とにかく、全員無事でよかった。いろいろと気になることがあるし、今回はもう一旦アジトに戻ろう。最近短期の探索ばっかりで申し訳ないけど」
アルグスさんの言葉もあり、私達は一旦アジトに帰ることになった。アルグスさんに聞くと、このパーティーはサバイバルに特化しており、長い時になると1か月ほども戻らずに食料、水を現地調達して探索を続けることもあるらしい。
しかし今回の探索は中身が濃かった。いろいろな出来事があって状況をまとめる必要がある。私達は道々簡単な状況報告と確認をした。
先ず今回明らかになったこと。やはり「闇の幻影」とギルドは繋がっており、私達を陥れようとしていた。結局目的は分からず仕舞いだったけれど。もし向こうでテューマさん達に会ったら、ギルドに何か仕掛けられたら、どうしたらいいのか……
「んなもん知らんぷりしてりゃいいんだよ。こっちにゃ非はねえんだ」
ドラーガさんはそういうけど、私は絶対顔に出ちゃう。それに向こうが敵対的っていう事は今後どんな妨害をしてくるのか………
「それにしても『闇の幻影』って……フフッ、笑っちゃうイタイ名前ですよね。格好いいと思ってつけたんですかね?」
「それについては……ボクも人のこと言えないからな……」
私の言葉にアルグスさんが少し落ち込むように答えた。どういう事だろう。
「いや、実は僕もこのパーティーに『黄金の疾風』って名前を付けようとしてたんだ」
「だぁっっっっっっs……あ、すいません!」
「ダサいよね……そうだよね……」
思わず出そうになってしまった私の素直な感想にアルグスさんは申し訳なさそうな顔を見せる。
「でもよかったです。そんなダサ……あ、独特なセンスの名前じゃなくて。もしそんな名前のパーティーだったら私家族に就職先言えなかったし、きっとメンバー募集にも応募してなかったです」
「そこまで……? 」
いや実際そこまでだと思いますよ。名前って大事です。
「このパーティーはね、長い事パーティー名がなかったのよ。そこで名前を付けるってことになったんだけれど、全員がアルグスの案に大反対して、最終的にドラーガの提案した『メッツァトル』に決まったの」
アンセさんがそう解説してくれた。なんと、ドラーガさんの案だったのか。どういう意味なんだろう? メッツァトルって。
「この地域じゃ伝統的にオオカミが恐れられている生き物でな、しかしその真名を呼ぶとすぐさまオオカミがやってくるという言い伝えがあって、複数の隠語で呼ばれてる。『メッツァトル』ってのはその一つで、オクタストリウムの古語で『森の生き物』って意味だ」
くそっ、格好いい。竜とか獅子とか不用意に強いイメージを使わず、闇とか黄金とか中二病が好きそうな単語も使わず、その上で地域に根差したチョイス。この人本当に体裁を整えるのだけは上手いな。
話はそれてしまったけど、問題は闇のプッ、闇の幻影だけじゃない。彼らは魔族とも結託していた。
「やはりダンジョンに何かあるんでしょうね。今回怪しい部屋を見つけてますし、場所も覚えてます。次来るときにはそこを中心に探索しましょう」
とは、クオスさんの言。彼女の脳内マッピングは崩れようのない確実なものらしい。視覚、聴覚、嗅覚、それに魔力の残滓を追ってどこまでも目的の物を追い詰める
それともう一つ、『キリシアの七聖鍵』
前日、ギルドの出口で偶然に七聖剣の一人、“十字架の”ガスタルデッロに出会った。その時は接触だけで特に何かあったわけじゃないけれど、ダンジョンの中で脱出の途中出会ったもう一人の七聖鍵“狂犬”ゾラ。
このカルゴシアに七聖鍵のメンバーが二人もそろうなどという偶然が果たしてあるだろうか。
「狂犬ゾラが? 戦闘狂で頭のおかしい魔導士と有名なあの狂犬にか? よく無事で戻ってこれたね……奴がここにいると知っていれば迎えに行っていたのに……」
アルグスさんが真剣な表情でそう呟いた。まあ、それはですね。不本意ながらとある人物の大活躍によって難を逃れたわけなんですけれども。
一方でドラーガさんの事を凄いと思いつつも、同時に「この人に憧れちゃだめだ」と心の中で叫んでいる自分もいるわけで。なんともアンビヴァレンツな感情が発生していて混乱しています。
そう言えばイリスウーフさんの事も気になる。
いつの間にか姿を消してしまったけれど、彼女は一体何者だったんだろう。
フービエさんが逃げてきた部屋からふらふらと出てきたその姿は、とても危険な人物には見えなかった。彼女は一体あの部屋で何をしていたのか。そしてなぜ姿を消してしまったのか。謎は深まるばかり……
「七聖鍵といえば……もう一つ、あったな」
アルグスさんの言葉に私は疑問符を浮かべる。何かあっただろうか。ガスタルデッロもゾラもすさまじいインパクトだった。あんな人達に会っていたとしたら、忘れているはずなんてないんだけれど、何があったっけ?
アルグスさんは歩きながら答える。
「キリシアの人形使い……」
そうだ。遠隔自立型で複雑な行動をできるゴーレム。今回の探索でもゴーレムは出て来たけれど、でも今回のは単純に襲ってきただけだった。
いやそもそも、前回のゴーレムがその七聖鍵と関係があるというのはかなり無理筋な繋げの方ような気がするけれど。
「ぬりかべ~……」
誰の声?
その声がした瞬間、アルグスさんが前方に駆ける。
しかし、それを遮る様に周辺の草木を吹き飛ばしながら土壁が地面からせりあがってきて彼の行く手を阻んだ。
「!? 何が!!」
そして次の瞬間私達の後ろにも同様に土壁がせり上がる。まさか!
「ぬりかべ~」
今度は左右だ。そのまさかだった。私達は土壁に四方を塞がれ、閉じ込められてしまったのだ。
「んひひ、か、かかった」
少女の声。
「竜の魔石と、い、イリスウーフをこっちに、わ、渡してもらうわよ、ふ、ふひひひ……」
いつの間にそこにいたのか。
姿を現したのは、ストレートの黒髪にやけに短い前髪、目にクマのあるかなり小柄な少女だった。妙な笑い声をあげながら上目づかいでこちらを興味深げに見ている。
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