部活オリエンテーション

第1話 テレポート・エクスプレスで学院へ

 ソリシャンが導いた転移の加護は、ハイパーループのようなチューブ列車の空間比喩メタメタファである。流体力学的なシミュレーター計算により、地球上では工学的に実現不可能と結論づけられていた真空宙のハイパーループ。たが、そもそもが物理法則に従わない加護の世界にそんなことは関係ないらしい。それに、ハイパーループは、令和のメタバース世界では既におなじみの移動手段。僕が見知った空間比喩メタメタファを用いることで、移動の時間を安らかならしめようというソリシャンの配慮なのだろう。

 僕が中学の頃に試運転中だった東海リニアの車内を微妙に未来風にしたチューブ列車の座席に座る。そして、僕はソリシャンから部活動オリエンテーションの最終レッスンを受けた。

 なんと、本日の部活動オリエンテーションが、アトラに住む人々との初対面なのだ。今までの学習生活は全てがバーチャルに行われてきた。そのことを僕は特に不思議と思っていない。これまでの学びの全てはメタバース内で事足りていたのだから。


 魔導の名を冠する学院の部活がどのようなものか、僕はまだ知らない。ただ、リアルの場に集う必要がある活動なのだろう。令和の頃に通っていた中学でも部活はリアルの場で行われていたわけだし、魔導の加護ある未来世界がそのようにある理由を求める気にはならないね。どうせ僕の頭じゃ理解できないのだろうし。

 そんなことより大事なことがある。各部の先輩方の過半が、人類史の記憶を有している転生者であるとのこと、だ。


 100万年を越える人類史。その歴史は、現生人類であるホモサピエンスのそれと、プレサピエンスのそれとに区分されている。

 僕からもっとも遠い存在はプレサピエンスの歴史を生きた人々だ。ヨーロッパの古白人種として著名なホモネアンデルタール。インドネシアのフローレス島の猿人フロレシエンシス。四国より少し小さなフローレス島の小人として有名だ。その他各地のプレサピエンスの人々。なんと、彼ら彼女らはこの未来世界で亜人さんとなっているのだとか。僕たちとは記憶の仕組みも違う彼ら彼女らだが、確たる神話を持っていた。この未来世界で、彼ら彼女は神話の中の存在と一体化しているのだとか。今はまだ、ソリシャンから聞いた知識に留まるのだけれど。亜世界テイスト満載であろう人々とお会いすることは楽しみだ。

 そして、僕たち、ホモサピエンス。産業革命以降、爆発的に人口を増した種族である。歴史人類の総人口においては完全に多数派である。その歴史は数万年前とはいえ、多様性に富んでいる(プレサピエンスの皆さんを滅した黒歴史を持っていたりもするらしい)。古代や中世の人々が、どのように生きどんなことを考えていたのかは、興味深いところだよね。


 ✧


 チューブ列車の空間比喩メタメタファが切り替わり、アルベルト魔導学院の門が見えてきた。僕はメタバース世界のお約束通り、スムーズに門の前に立っていた。僕の他に人はいない。新入生が僕だけということはないはずなのだけれども。

 ソリシャンに導かれ、僕は学院に入り中廊下を進む。すると、学院長の講話なる声がサマライズされて届いてきた。話の中身は、令和には存在しなかったミクロ物理と魔導との関係についてだった。部活動を通じ、ミクロ世界を通じた魔導のありがたみがわかることを期待するといった内容だった。


 ✧


 そして、魔導学院の中庭へと入った。白いテントが並んでいる。各部のものなのかな? 何名もの人々が僕の方に向かってきた。先輩方なのだろう。中にはエルフっぽい耳を持った人やコビット感あふれる人もいた。

 

 おお~っ、と僕が思った瞬間だった。

 「アジャパオ~~ン」

 突如、大音量の女声が鳴り響いた。

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学窮都市のボーダーライン(②アジャパー✧昭和と令和はアトの祭りよ、物活部 編) 十夜永ソフィア零 @e-a-st

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