学窮都市のボーダーライン(②アジャパー✧昭和と令和はアトの祭りよ、物活部 編)
十夜永ソフィア零
序 昼休み
物理学と魔導学、午前の授業2科目が終わった。
遠未来の学窮都市アトラのエリート校であるアルベルト魔導学院。僕は今月からそこの新入生だ。講義は、全てオンラインのメタバース空間で行われる。そのほとんどを自室のベッドの上で毛布に包まれて聞いた僕は、昼休みになってようやくに学生服に着替えた。
昼食はゼリー飲料で済ませる。ゼリーのぶどう味を舌で感じながら、僕は百科事典の日本古代史の項目へのランダムアクセスをしていく。
『縄文貝塚』 縄文石器時代の人々が食した貝の貝殻が積み上げられてできた遺構。アルカリ性の貝殻が土壌の酸性を中和することで、貝殻以外の動物の骨も酸に侵されることなく残るのだとか。温暖化して海水面が上昇していた頃のものと思われる貝塚が、北関東など、関東内陸部で多く発見されている、と。貝塚についての記載は、古くは奈良時代の風土記に遡る。常陸の国は水戸に住まう巨人が貪り食った貝が山をなした塚と考えられていたのだとか。
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『アラハバキ』 宮城県は多賀城の
貝に巨人に黒石に蛇木……古風なイメージが圧縮学習機を通じ次々と流れ込んでくる。令和生まれの記憶を持つ僕には馴染みがなかった
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今はアルベルト魔導学院の新入生である僕は、令和元年生まれの令和日本からの転生者。
そんな僕がなぜ、古代日本史を学んでいるのか。理由は、午後の部活オリエンテーションで、古代日本からの転生者である先輩方に会うことになるらしい、ため。そう、僕の導士ソリシャンが言っていたがための予習だった。
導士とは、学習支援AIみたいなもの、と言えばいいのかな。遠未来というだけあって、21世紀の日本よりも明らかに進んだ技術を持つ学窮都市アトラ。一方で、僕が元いた令和の常識からすると、なんだかカルト宗教っぽいところもあったりもする。魔導学を
ともあれ、僕用の学習支援AIである導士ソリシャンは今の僕に合わせてパーソナライズされている。僕が理解しやすい言葉を話すAIというか、僕が令和に住んでいたままであったならばこうなっていく、という人格が反映されているのだとか。
そういうわけで、僕の分身体っぽいところのある、導士ソリシャンの正式名は、「ソリューションアーキテクチャ・アーティシャン・まどかマドカ」。ソリュー……シャンあたりを略して、ソリシャン。
何、その微妙に厨二っぽい名前。最後のマドカが、僕、
ともあれ、登校の時間だ。
令和の記憶を持つ僕には、太古の人がどんな風に生きていたのか、そして、この遠未来に転生してどう感じているのかを、想像することは難しい。小学校低学年の頃から、令和ヒトケタの子供向けのメタバースを経験してきた僕。この遠未来視点からするとおもちゃじみたものであったとしても、仮想な世界の類には親しみがある。コンピュータも電灯がない時代の人の生というものが僕には想像がつかない。
導士ソリシャンが駆動する転移の加護にくるまれ、僕はアルベルト魔導学院へと向かう。
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