もちんとあいのほし

名波 路加

 


 綺麗な花が咲き乱れる庭に、小さな星がプカプカと浮かんでいる。手にとれるほどの、小さな星。一人の男の子が、その星をいろんな角度から覗き込んでは、頭を抱えていた。男の子は、ママに言われた通りの 『せかい』 を創ろうと奮闘していた。


「これ、もちん。いつまでやってるの。早くしないと、どんどん宇宙がひろがっていくよ」


 ママは小さな家から出てきて、もちんに声をかけた。ママの仕事はいつも早い。先週も、何万個もの太陽系を創り、また一つ新たな銀河が誕生したのだ。一方、もちんはとても素晴らしいモノを創った。ママでも創ることが難しい、『いのち』を創り出すことに成功したのだ。それは意図的に創ることができなくて、『あい』とやらが必要らしい。その『あい』が上手い具合にもちんが創った『せかい』と触れ合い、そこに『いのち』が生まれた。


「ママ、ぼく、とっても嬉しいよ。『いのち』ができたから。でもね、せっかく創った『いのち』たちは、お互いを傷つけ合うんだ。これじゃあ、いつか、『いのち』は消えちゃう。『せかい』も消えちゃう」


 ママは、もちんの頭を優しく撫でた。もちんは、とうとう堪えきれずに涙を流した。


「『いのち』は、『あい』があるから生まれたんでしょう?『あい』は優しいのに。それなのに、どうして傷つけ合うの?みんなが争わないように手を伸ばしても、声をかけても、誰も気付いてくれない。ぼくが創った『せかい』なのに」


 もちんは、小さな星に生きる『いのち』に手を差し伸べようとしていた。でもそれは不可能だった。小さな星の『いのち』は、三次元の『せかい』に生きている。もちんのような高次元の存在は、彼らには認識することができない。もちんにできることは、『せかい』を創ることと、観察することだけだ。もちんが今手にしている小さな星は、ママが創った太陽系に存在している。もちんは高次元の存在だから、太陽系に存在している星を、こうして手に取ることができる。



 ママが創った『せかい』は完璧だった。どの星も独自の豊かな自然があり、『いのち』も誕生した。ママの星で生まれた『いのち』は、誰も傷つけ合うことなく、優しくて、輝いていた。それなのに、ママは少し寂しそうな表情で、もちんに語りかけた。


「ママの『せかい』で生まれた『いのち』は、そのほとんどが消えてしまったわ。生き残った『いのち』は、もちんが創った『いのち』と同じように、傷つけ合い、悲しんでいるの」


もちんは驚いた。完璧な『せかい』と『いのち』が、なぜ消えるの?ママは、もちんの涙を指で優しく拭った。


「最初から完璧なモノなんて、あり得ないの。どうして『いのち』が尊いものだと思う?よく考えてごらん」


「…わからないよ。どうしてなの?」


「『いのち』は、儚いの。傷つくし、すぐに消えてしまうの。それを理解するためには、痛みや悲しみを知らないといけないのよ。ママが創った『いのち』には、お互いに傷つけ合わないように、始めから優しさを与えた。でも、彼らは消えた。彼らは優しいけれど、『いのち』の重みを知らなかった。知る術がなかった。だから『いのち』を繋ぐことができなかったの」


もちんは、まだ泣いている。


「それでも、傷つけ合うのは見てられないよ。悲しんでいる姿も見てられない」


ママは真っ直ぐに、もちんを見つめて言った。


「痛みを知る事。悲しみを知る事。それは、『いのち』の重みを知り、『いのち』を繋ぐために必要な事なの。そこで得られる本当の優しさが、繋がっていく『いのち』を温かく包んでくれるのよ」


ママは、もちんが創った小さな星にそっと両手を添えて、ゆっくりと手繰り寄せた。


「よく見てごらん。傷ついた『いのち』たちは、今度はお互いの手を取り合ってる。まだ喧嘩してる子たちもいるね。彼らは今迷っている。考えている。お互いの尊さを、理解しようとしてる。辛いけどね、もう少し待って。彼らはちゃんと学ぶのよ」


 もちんは、暫く星を眺めてみた。『いのち』たちは、お互いの尊さを学び始めたようだ。笑顔も見え始めた。そして、繋がり始めた。星が、輝きはじめた。

 もちんは、小さな星を優しく抱きしめた。抱きしめた『いのち』と『せかい』が、ゆっくりと『あい』で満たされていくのを感じた。もちんの腕から、光が漏れた。



 もちんが創った『せかい』には、今日も新たな『いのち』が生まれている。

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