第7話


                  7 


 伊奈家のキッチン。



「姉ちゃん」

「なんだ?ジュン」


 普段の伊奈家での休日、朝食中の

姉弟の会話。


「姉ちゃんもそろそろ結婚だろ?」


「ブハッ!」


 いきなりの純一の先制攻撃に、姉の陽香が焦ってコーンポタージュスープを吹き出しそうになった。

 マグカップを持ちながら、その光景を見ている純一。

 

「なんだよ、いきなり!」

 ティッシュペーパーを数枚引き抜き、口周りを拭く 陽香。


「だって。もう浩一さんと付き合ってから4年くらいになるだろ? だから、もうそろそろかな~って...」


 長谷川 浩一(はせがわ こういち)。 純一の姉の陽香が大学の時から付き合っている同学年だった彼氏だ。

 とにかく優しいのだが、ココ一番の時になると、とても頼りになる男性だ。若干だが、ガサツな陽香にとっては、もったいない位の彼氏である。


「まあ...、なんだ......。その...。け、結婚は......、って言うか......」

「あれ?あれれ? どうしたのかな?」

「く...、純一。お前、私をからかっているのか?」


 攻撃的になる陽香に、純一は 更に追い打ちをかけた。


「焦ってる、焦ってる」

「こっっのぉ~!!」


 陽香が純一に掴みかかってきた......、が。

 純一は それを軽くかわし、避けた。

 そして。


「まあまあ......。でも、オレたちだってじきに結婚するだろうから、姉ちゃんも幸せになってくれよって意味なんだ」


 この言葉に、陽香は動きが止まり、純一に話しかける。


「純一......」

「姉ちゃんもオレも、早いとこ親を安心させようよ。それが今まで育ててくれた親に対する恩返しだと思うからさ」

 純一の言葉に、陽香は何か胸の奥から込み上げてくる感情が湧いてきた。


「早くしないと、オレ達が先に “初孫” が出来ちゃうぞ、姉ちゃん。 死んだ父さんの為と、今の母さんを早く安心させるために......、な?」

「純一......」


 親に苦労を掛けた姉弟だからこそ、お互いに気持ちが通じ合う。 そんな母親を早く楽にさせてあげたい気持ちは、一緒だった。




  ● 一年後 ●



「とうとう行っちゃったな」

「そうだね」

「ま、美成もコレで幸せになるんだろうから、これで良かったじゃないかな」

「そうだね」




 純一、美菜、陽香、逢の幼馴染組が現在居るところは、空港である。


 あれから美成はインターネットで、彼と順調に交際を続け、とうとう今日この日に、彼と一緒に暮らすために、国際線で旅立って行ったのだ。


「ベトナムかぁ~、結構遠いし、大丈夫かな美成...」

「でも、二人で一緒にいられるなら、何があっても乗り越えられるよ」


「そうだね」


 美菜が不思議そうに純一を見つめる。


「ん!?なに?美菜」

「う~ん......。さっきから純一ってば『そうだね』しか言わないから、どうしてかな~と思って」


 美菜に言われた言葉で、さらに気落ちする純一。


「うん? どうしたんだ?弟よ」

 陽香にも気にかけられる純一。

 なにか、いつものテンションとは違う事に、女子組三人が純一の変化に気を使う。

 

「なんかさぁ......、って言うか、何て言うんだろうな......、ちょっと寂しいって言ったらいいのかな......」

「美成が離れて行った事?」

「うん......」


 そんな純一を見て、逢が。

「まさか、今になって我が妹の事を、もったいなかった...、なんて、思っちゃったのかな?」


「な!!......」


 逢の言葉に、美菜が素早く反応した。


「本当なの?純一!!」

 少々だが立腹気味だ。

 だが。


「違う違う!そう言う意味じゃなくって......、う~~ん、何て言うか、今までずっと5人で居たのに、こうやって実際に美成が離れて行くのを見ると、何て言うか...、どう言ったらいいのか......」


「寂しんだよな? 要するに」

 陽香が純一の心境を代弁した。

 

「そうなの?純一」

 さっきとは違う美菜の声色だ。


「姉ちゃんの言う通りだ。今まで一緒にいた美成が離れて行って、何処か寂しいって気持ちがあるのは本当だ。でも、アイツも未来に向け進んで行ったんだから、そこは祝福してやらなきゃな、はは......」


「ありがとな純一。 美成の事をそんな風に思って居てくれて。 ま、一緒に居る時間が長かった分、身内が離れて行ったって事が、寂しく感じられるのは、私だって一緒だ。実の妹だからな。それでも、アイツはその道を選んだんだ、褒めてやろうと思うな、私は」

「そうだよ。 お姉ちゃんは好きな人の所へ行ったんだから、祝ってあげようよ」


 そう言われて、純一は新たな気持ちになり。

「そうだな。美成には祝ってやらないといけないな、ゴメンみんな。変な事言って」

「いいんだよ。それだけ美成が私たちから大事にされていたって事だ。ま、どうせ結婚式の時には二人で帰国する訳だし、それもそう遠くない事だからな」


「そうだね」


「あ。今度の『そうだね』はさっきとはあきらかに違うね」

「はは、明るい『そうだね』になったな、純一」

「そう、かな...?」


「あはは。なぁんだ純一、照れてるぅ」

「そんなんじゃ......」


 幼馴染一同は、空港のスカイデッキで大いに笑った。



「さ、みんな行こうか」

 純一が幼馴染女子軍に帰宅を促すと。


「弟よ、このまま帰宅するのはもったいない。 帰りがてら、何処かでご飯を食べて行かないか?純一のおごりで」

 陽香からの提案だ。

「あ!賛成!!」

「私も陽香の意見に賛成だ。 せっかくだから、このまま何処かで食べてから帰ろう」


「あはは......、分かった......」


 家路途中での純一の奢りご飯が満場一致で決定した。と言うよりも、すでに決定事項になっていた。


「え~っと、それは何処ですかぁ~......」

「それはもちろん......」


「「「おすしぃ~!!」」」


(あ~ぁ。やっぱりな)

と、純一は思ったが、すでにこのメンバーでは、何処となく分かっていた事なので。


「へいへい。分かりやんしたよ~」

「よおし、行くぞみんなぁ!」


 そして、スカイデッキから駐車場に帰るまでの通路で、一人の男に美形の女子が絡みながら囲んでいる状態を、周りからジロジロと見られながらの移動となるのだった。


(な、なんか、ハズイな~......(純))




        □ □ □



 最後までお読み下さりありがとうございました。


 本年初の投稿でしたが、いかがでしたでしょうか?


 仲良しな5人の幼馴染のちょっとした恋愛事情を書きおろしてみました。


 相変わらずの 辻褄 が 曖昧と言う所は変わっていませんが、何とか読める程度には出来たと思っています。


 

 お付き合い下さり、ありがとうございました。


 今年も拙い作品を投稿してまいりますので、本年もよろしくお願いいたします。





 雅也。





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