第6話


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「そっか......、美菜か......」


 美成の 仕方がないなぁ みたいなため息混じりの言葉に、両家の長女たちが。


「しょうがないな、美菜じゃぁなぁ~......」

「はぁ......、美菜だからなぁ~......」

 長女たちは先ほどは違い、戦意喪失気味な言い方をしてきた。


 そしてその後。


「あ~ぁ。 美菜じゃ、しょうがないか......」

と、美成まで言う始末。


「まあみんな知っていると思うけど。まあ美成も、数ヶ月前まで、彼氏が居たんだけど、彼の事情で別れたんだよな。 でも、流石に寂しいから、何処か出会いが無いかなって思って居た時、そう言えば 純一が居るって事になったんだよな」


 実は美成には約一年半ほど突き合っていた社会人の彼氏が居たのだ。だが、その彼が海外勤務になる事になり、止む無く別れたのだった。

 その海外勤務の期間が最低2年以上はあるという事で、そう言う事にしたらしいのだ。


「だったら、美成もついて行けば良かったんじゃないのか?」

 純一の言葉に、美成は。


「だって、社会人一年生なんだもん。 内定決まってて、いきなり退社だなんて......」


 確かに聞こえは悪いが、何も別れる必要は無いんじゃないかと、純一は思った。


「今なんて、インターネットでコンタクトなんか、普通に出来る時代なんだから、何も別れる必要は無かったとオレは思うけどな。 二人、苦渋の判断だったとは思うけど、好きだった彼と別れる必要は無いと思うな」

「でも、最低二年は海外だって言ってたし......」

「じゃあ、取り敢えず一年は美成も会社員しながら交際を続けて、それでも二人の気持ちがそのままなら、美成が彼について行けばいいじゃん。ダメか?」


 今更別れた彼に、再び交際を申し込むには、何とも言えない感情が出てくると思うのだが、止む無くという事で別れたものなら、その純一の意見を聞いてみるのもいいかもしれないと、美成は思った。


「うん。 わたし今からでも彼に聞いてみる」

「おう。そうした方が良いと思うぞ」


 そう言った後に、美成はスマホを取り出し、そのまま純一の部屋から一旦出て行った。


「そうか。そう言う判断もあったんだな」

「だって、オレだって好きで今まで付き合っていた相手と別れるって、ケンカじゃないんだから、可哀そうだよ」


 そう言って、純一は美菜の方を見た。


「なに?純一。今の言葉の後に、私を見るなんて、ちょっと照れるじゃない」

 美菜は照れからか、少し俯いてしまった。


 こんな二人を見ていた美成が。


「あ~あ。こんな仲のいい二人、羨ましいな~...」


 陽香が純一と美菜の今の様子を見ながら言う。さらに。


「こんな二人に美成を無理やりくっ付けようとしていたなんて、知らなかったとはいえ、なんか悪かったかな」

「本当だ。 済まないな純一、美菜。 私達、美成が最近しょげているのを見て、居たたまれなくなって、私たちが美成のためにやった事なんだ。済まなかった」


 改めて、長女二人に謝られて、純一と美菜は少し恥ずかしいような、照れるような素振りになった。


 

 そうしていると、連絡が終わったのか、美成が再び部屋に入って来た。 何処かしら、嬉しそうな表情をしている。


 そして......。


「純一、ありがとう」

と、言ってきた。


「上手く言ったのか?」

そう聞くと。

「うん。 さっきの純一の提案の事話したら、OK してくれたよ。 で、最後に彼がね......」


 何か言いにくいような、恥ずかしいような素振りで美成は。


「『良い幼馴染たちが周りに居てくれてよかったな』だって言ってくれたんだ。 本当に純一には感謝だよ。ありがとう。それに......」

 何か言いにくい様だ......、が。



「昨日からごめんね。 なにか押し付けるように迫ってしまって。それに、美菜にも不安にさせてゴメンね。あなた達の事知ってなかったとはいえ、不躾だったよね、本当にごめんね二人とも」

「いいから。 でも、良かったじゃん、元に戻れたんだろ? それが一番いいかなと思って、何となく咄嗟に思いついた事だったんだけど、結果オーライだったって、良かったな。コレから遠距離でたいへんだけど、コレからの身の振り方は自分自身が決めて、しっかりと彼氏をサポートしてやれよ」


「うん!」


「お姉ちゃん。これからも彼と幸せにね」

「ありがとう、美菜」


 どうやら解決できたみたいだ。



「いやぁ、どっちも丸く収まって、チーム長女たちは嬉しいぞ。うんうん...」

「本当だ。一時はどうなる事かと思ったが、まあ、上手く終息がついたと言う事で、良かった良かった」


 丸くまとめようと思っていたチーム長女たちが、立ち上がろうとした時。


「ちょっと待った、姉ちゃん達」

 純一が止めた。


「あのさ。 何か終わった感満載って思ってるんだろうけど、昨日からのオレに対する謝罪は無いの?」


「「 ぐ!!............」」


 チーム沈黙。


 そして......。


「で...、では、私から謝罪と言う意味で、ジュンと美菜には、近いうちに昼ご飯をご馳走しよう。コレで許してくれるかな~......」

「はい了解!......で、逢さんからは?」


「ぐ!」

 逢は一瞬黙ってしまったが、すぐに。


「じゃ...、じゃあ、私は今からみんなで、バーガーショップのセットメニューを食しに行くと言う事で、許してくれないか?」


 一瞬 ニマリ とした純一は。

「はい決定! まだ9時半だから、皆支度して、オレの車に15分後集合!」


「オイ待て! 私たちはうら若き女子だぞ。15分で支度なんか出来るかいな」

「だって、モーニングタイムって確か10時半までだったよ。だから良いよね。 では、よ~いドン!!」


 純一のスタートの掛け声で、一斉に美菜以外の女子が散って行った。



「はは。 みんな蜘蛛の子を散らす勢いで散って言ったな」

「もう! 純一......」

「まあ美菜は来る前にちゃんとメイクしていたからな」

「計画的なんだからぁ......」


「おかげで一気に二人きりになったぞ」

「ホントだ」



 と、言うが早いか、純一は美菜を抱き寄せ、素早くキスをしたその時。


「お~い純一。 私のスマホ............って、失礼しましたぁ」


 純一の部屋のドアを開けた瞬間に、そのような光景が目に入って、気まずくなったのか、逢はすぐにドアを閉めて、廊下から。


「あのなあ。 ラブラブってのはいいけれど、えっと、その、何て言うかだな......」

「姉ちゃん、いきなりって......、それは無いだろ」

 純一が言い返したその後ろで、美菜が頬に手を添え真っ赤になっている。


「知らんわ! 今度は良いか?」

 二人が少し離れ。


「いいよ」

 と言うと、逢がスマホを取りに入って来た。


「悪いな、お取り込み中に」

「いいから......」


「で、私はこのままで良いから。後は川本姉妹待ちだな」

「そう、なら待ちだね」



 その後も、ちょっとした話をしていると、時期にその姉妹からのメッセージが入り、3人は階段を下りて玄関を出て行くと、すでに純一のワゴン車の横には川本姉妹が待機していた。



 「じゃ行こうか」



 そう言って、仲良し幼馴染5人組は近所のバーガーショップに向かった。




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