第4話
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「ねえ、昨日あの後、どこ行ってたの?」
昨日の土曜日の午後から、純一の姿が見えなくなり、心配したのかそれとも、それ以外に何か用事があったのか、明けの日曜日、朝早くから伊奈家の純一の部屋へ押し入る 美成の姿があった。
部屋に入り、ノートPCで気になるサイトを閲覧していると、いきなり美成が純一の部屋に入って来ての第一声だったので、正直に昨日、純一が どんな心境だったのかを答えた。
「あんな女子三人に責められて、オレがどんな思いだったか知らないだろう?だから、うまく逃げて、その後は行方をくらましたんだ」
正直に言う純一。
「なんでよ! 昨日の私たちが、純一の気に触った事をしたって言うの?」
(よくもまぁ言えたものだ。 あれだけ迫っておいて。ちょっとウザかったくらいなのに......)
と、純一は思ったが、そんなことを言うとさすがの美成でさえ凹むと思った純一は、若干躊躇し、言葉を選んだ。
「でも、あれだけ1対3で言われ続けたら、男のオレだってさすがに臆するぞ。だが、そんな事より、いきなりなんでこんな早朝から押しかけてきたんだ?」
「そんなの、これくらい早くから来ないと、純一ってば、逃げちゃうかな~って思って...」
「何なんだ。逃げるって」
美成の純一への想いは、真っ直ぐだったが、今の純一はその美成の想いには答えられる筈もなく、そこから来る罪悪感が起き始めていた。
「ねえ、私の事嫌いなの?」
はっきり言ってくるところ、昨日の続きをしたいのか、それとも、その他の何なのか、純一は美成の気持ちを探ってみる。
「美成はオレとどうしたいんだ?」
「付き合いたい!」
即答だった。
「交際って事か?」
「そうだよ」
「............」
「何で黙っちゃうかな。 私の事が嫌いなの?」
「.........」
「返事してよ」
「.........」
このままでは、昨日と何も変わらない、いや、ただ、1対3が1対1になっただけで、内容が一緒である。
そう思った純一は。
「一方的に言い寄られても、引いてしまうだけで、ただ印象が悪くなっていくばっかりだな」
「そ...、そんな......。何でそう言いう事言うの?純一って今フリーなんだよね?」
「............」
ここで黙ってしまうのは、黙認しているのも同然と思い、思い切って打ち明けるる事にした。
「何か今、変な間があったよね。 という事は、もしかして彼女とかいるって事?」
疑いの眼差しで、純一を見つめてくる美成。 コレはもう白状すること以外に美成からは逃げ道は無いと思い、打ち明けた。
「オレ、もう数年前から付き合っている彼女が居るんだ。だから、美成とは付き合えない」
言ってしまった............。
ショックである。
ショックな表情を隠せない美成。
純一のこのまさかの “彼女居る宣言” に、美成は唖然とし、言葉を失った。
「みなる......?」
呼んでも返事が返って来ない。
美成は、目を見開いたまま、暫く固まってしまった。
*
どのくらいの時間が経ったのだろう。 美成は正気を戻したかと思いきや、いきなり純一の部屋から出て行ってしまった。
(切羽詰まったとはいえ、いきなりの宣言がショックだったかな? )
若干の罪悪感が純一の心をよぎったが、美菜との関係もいつまでも黙っている訳にもいかないと思い、相手の名を名乗らなかったのは、咄嗟の判断だとしても、正解だと思った......。などと、先ほどの事を思い起していると、またいきなり純一の部屋のドアが開き、今度は人数が増えて入って来た。
「ちょっと! 純一どう言う事なの?」
ハーフ怒り気味の人物を美成が連れてきた。 とっても厄介な人物である。
「ね、姉ちゃん......」
そう、美成はとっさの判断で、今は一番この事案で唯一の心強い味方をしてくれるだろうと、純一の姉の陽香を呼んできたのだった。
(うわ!こんな時に、一番厄介な人物を連れて来たな、美成......)
そう思った純一は。
(こりゃ、時間が掛かりそうだ)
と、気落ちと項垂れが同時に心身に舞い降りたのであった。
△
「さて、説明してもらおうじゃないか、純一」
姉からの切り出しは、居合並みの殺傷力があった。
「いきなりだな、姉ちゃん」
「昨日は のらりくらりと 躱されたが、今日はそうはいかんぞ。 後に 逢 も来るからな」
「え? 呼んだの? こんな朝早くに?」
(わぁ~、めんどくさいのが増える~)
と、純一は思った。
「当然だ。昨日のうやむやをハッキリとさせたくて、昨日は近いうちにハッキリとさせようって、あの後に三人で決めたんだ。今日は逃がさないからな」
この姉の言葉に、純一はただ溜息を吐くしかなかった。
「分かったよ......。 そっちがどうしても美成とオレをくっ付けたいと思うなら、それが出来ない理由を、正直に打ち明けようじゃないか」
「ほう。どうやら観念したみたいで、今度こそはっきりした回答が得られるみたいだな」
また溜息が出る純一。それを見て、美成が少しイラっとした口調で言い出す。
「何でさっきから、溜息ばっかりつくの? わたし、何か純一の気に触る事した?」
若干の鳴き声染みた表情も混ざる様にも聞こえた。
「すまんな。 いや、多分これから起こる事は、美成にとってとっても辛い事実になるだろう。でも......」
「それって、もう断ってるじゃん!」
辛い事実。 そう答えた純一の言葉に、落胆を込めた美成からの言葉だった。
「純一。お前って奴は...」
姉からの言葉に、純一は済まないと言う、若干の罪悪感を自覚したが、それでも美成からの告白は、受けられない状況は変わらない。
さらに、逢 までもうすぐ来るという事は、まるで昨日の再来になると思い、純一は意を決して、スマホを取った。
「ちょっとまってろよ。今 “オレの彼女” に連絡して来てもらう事にするから」
この純一の言葉に、美成 逢 の顔つきが変わった。
(本当に彼女が居たんだ......)
美成は、今の純一の言葉で純一に、本当に “彼女が居る”という事を確信した。
純一は電話をしに、一旦自室を出て行った。
「そうだな。 一気にこの事案を解決するには、その方がいいかもな。......、な、美成」
そう言い、逢は美成に向かい言った。
しかし、すぐに美成からの返答はなく、暫く黙ってから。
「はい。私もその方がしっかりと結果が出ると思うので、この際キッチリする様なら、その方が良いと思います」
残った二人はそう言いながら、この後の事態が大事になるなどとは、思いもよらなかった。
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