第3話


                 3



 純一と美菜の馴れ初めは、3年前の美菜が高校3年生になったばかりの頃に遡る。



         ◇



 高校3年生になったばかりの美菜は、今だに卒業後の進路に迷っていた。


『将来、一体自分には何が向いているんだろう?』

と、なかなか進路が決まらない美菜は、学校での友人たちの進路が次々と決まって行く事に、焦りを感じていた。


 大学へ行く生徒がが殆どな進学校で、就職と言うのも聞こえが悪いと思い、一応は進学への気持ちがある。だが、今の自分の学力では、そこそこの大学へは入れないだろうと思い、そこのところも含めて、焦り気味で迷っていた。


 そんな中、学校帰りに良く寄るコンビニのフードコートで、友人二人と通例の如く、お喋りを楽しんでいた。

 その中で、美菜は友人たちに今の心境をを伝え、今後の進路について話していた。

 この友人二人は、すでに進学と言う進路を決めていたので、何も決まっていない美菜にとって、焦りは付いて回るのだった。


「美菜だって今からでも遅くは無いから、進学にすればいいじゃん」

「そうだよ。 別に、難関な所を狙うんじゃなく、自分が興味を持っている学部がある中で、探せばいいんじゃないかな。そんな重く考えない方がいいんじゃない?」

「そうは言っても、私に得意分野があるとは言えないからな~......」


「だから、そんなに気負わなくていいから。気楽に行こうよ、じゃなきゃ、悩み疲れちゃうよ」

「そ......かな。......、そうだよね。うんうん、そうだそうだ、もっと気楽に考えようかな」

「まだまだGW前だしさ、十分考える時間はあると思うよ」


 友人たちは、若干焦っている気分の美菜を落ち着かせる事が出来、それ以後もお喋りを続けている。


......、と。


 カーンコーン......。


 コンビニの入口が開き、一人の若い男性が入って来た。


「「あ!!」」


 お互いが何の気なしにフードコートと入口を見合って、声が重なった。


「美菜」

「ジュンちゃん」


 お互いを呼びあった後、美菜の友人から。


「純一さん、久しぶりです」

 そう挨拶した後、美菜のもう一人の友人も。


「こんにちは純一さん。 お久です」


 三人三様に挨拶をしてきた後、純一も返事を返す。

「おう、いつもの三人さん。ちょびっと久しぶり~」


 そう三人を見ると、ひとりの女子が純一に話しかけてきた。


「あの...、純一さん。ちょっといいですか?」

 そう言うと、純一が。

「ちょっと待ってて。買うモノ買ったらソコ行くから」

「あ、ごめんなさい。 はい、先に行って来てくださいね」

「じゃ、後でな」


 そういって、純一は店の奥へ入って行った。


「ねえねえ美菜、純一さんって、とびっきりのイケメンでは無いけど、何かこう......、カッコいいよね。何なんだろうかな、雰囲気って言うか」

「あ、分かる~。しかも背高いし、顔立ちの優しさってところと、一緒に喋っていると、癒されるって感じなんだよね~」

「そうそう。普通にいい男だよねぇ、純一さんって......、って、どうなの? 幼馴染の美菜にとって、純一さんの存在は?」


 幼馴染というワードは、周りを そんな風 に感じさせているみたいだ。その言葉の該当者の美菜に、友人達は 恋愛的 に興味があるみたいだ。


「存在はって言っても、今まで近所のお兄さんとして私たちは接してきてるから、そう言われても、今すぐにジュンちゃんを男として見れていないって言うのが今の心境かな......」

「ふぅん......」


 友人が伺わしい眼差しで見てくる。


 そんな会話をしていると。

「お待たせ、三人さん」

と、買い物を済ませた純一が、いまだにお喋りをしている美菜たち三人を見て声を掛けた。


「あ。純一さん、聞きたい事があります」

 友人の内の一人が、純一に声を掛ける。


「なに?」

「純一さんと美菜って、小さい頃からの幼馴染なんですよね?」

「う~~ん、まあそうなるのかな、一般的に見たら」


 取りあえず当たり障りのない返事をしておき、純一は美菜に目線をあわせて。


「美菜。近いうちにまた 髪 頼む。最近また前髪が鬱陶しくなってきたから、時間が空いた時で良いから、近日中に頼みたいが、予定はどうかな?」


 この純一の発言に、友人二人が少し ポカ~ン とした。


 その友人二人をしり目に置き、美菜はいつもしているように、スクッと立ち上がり、20㎝以上違う身長差を気にせずに、いきなりまるで通常と言わんばかりに、純一の前髪を指で摘んで、長さを確認している。

「本当だ。ジュンちゃん、先回の時から2か月くらい経っちゃっているから、そろそろかなと思って居たんだけどね」


 前髪から始まり、横まで長さを確認している、まるで純一の頭部を美菜が両手で抱えているように見える光景だ。

 この美菜の行動に、友人二人は驚愕しながら、ただ見入るだけだった。


「じゃあ近いうちに前もって連絡するから、おっけ~だよ」

「お~、じゃ頼むな。お礼は考えておいてくれ」

「やったぁ~!」

「じゃ、オレ行くから。お二人さんもまたな。いつも美菜の事ありがとな。それじゃ...」


 そう言って、純一はコンビニを出て行った。



 一連のやり取りを、ただ見ているしかなかった友人二人は、美菜が再び席に着くと、正気に戻った。

 そして......。


「なに?美菜 今のは!!」

 驚きと、その他何かの感情が入り混じった声を出し、それはもう一人の友人にも移ったみたいだ。

「そうだよ美菜。今のアレは一体何なの? まるでカップルみたいなやり取りじゃん」

「しかも、連絡先もお互い知っているなんて、コレはもう......」


「ちょ...、ちょっと待って。今のやり取り、何か変だった?いつも通りなんだけど」


 この美菜の言葉に、友人二人が揃って手を横に振り。

「違う違う。 絶対おかしいって。 普通ならあんなふうに、男子の頭を抱える様な事はしないって」

「え!?(抱える?)」

「だ、か、ら......って、自覚ないの?......、それ、相当なものだよ」


 美菜の先ほどの純一に対する行為が、友人達にとってはカップルに見えて仕方が無いみたいで、それを通常の様に済ませている美菜を、呆れて見ていた。


 そんなやり取りの後、一人の友人が放った言葉に、美菜が反応した。


「美菜。何年も前から純一さんの髪をカットしてあげてたなら、進路なんだけど、美容師ってのも考えてみたら?」

 すると、もう一人の友人も。

「そうだよ。 さっきの純一さんの髪型だって美菜がカットしたのなら、結構センスあるかもよ。結構カッコよく決まっていたし、良いんじゃない?」


 この友人の言葉に、それとなく気持ちが 髪結い師 に向かっていく美菜だった。





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