第2話


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「......でな、全く昨日は生きた心地がしなかったぁ~」



 昨日の土曜日、ゆっくりしようと思っていたところに、いきなりの女子3人からグイグイと言い寄られて、タジタジになった純一だったが、何とか、のらりくらりと躱してその後、逃げきる事に成功した。

 その経緯を説明した純一は、現在は友人である 雄哉 の部屋に来ている。



 相田 雄哉(あいだ ゆうや)。


 純一の小学校時代からの友人の中でも一番仲が良く、困った時などは、時々こうして相談し合う仲だ。





「あ~ははは......」


 大笑いされた。


「おい、こら! 面白がるな。こっちはマジで女子3人にビビッてたんだぞ」



 散々笑った後、雄哉は涙目になりながら、純一の肩を数回叩き。


「ごめ...、すまん。 いやぁ、つい内容が......」


 また吹き出しそうになる雄哉。


「だ、か、ら。 笑うなって。こっちはマジで困ってたんだからな」


 腹いっぱい笑いきった後、やっと治まったのか、話が出来る様になった。


「でも、姉ちゃんまであの一味に加わっているってのが、いちばん厄介なんだよな~。しかも、最後の方は、何かに気が付かれたように感じたんだが...」

「お前の姉ちゃん、結構、洞察的に鋭いところあるからな。それに気づいて何かに感づいていたりして......」

「え!......。まさかバレてるってか?」

「う~ん...、そこはどうなんだろう。何かに気付いたって感じはしてるのか?」

「それはまだ、確信はないが、最後の何となくの素振りでそう思うってところかな」

「長年の兄妹の 勘 ってヤツか」

「そんなところかな」


 純一の姉である陽香の勘の鋭い事は、純一も良く分かっているが、昨日の様子ならばまだ大丈夫だろうと、安心した。


「でも、いつかは公表しなければならないぞ、純一。まさかこのまま 美菜(みな)ちゃんの事、隠し通せるとは思って無いよな」

「それは勿論だが、今この事を発表する時期では無いな。多分いまこの話を公表したら、オレその日が命日になる可能性があるからな......。でも昨日の美成、日ごろの態度とは打って変わって、しおらしくしていたから、オレも驚いた」

「え!? あの、美成が? うっそだろぉ~!」

「だよな。普通はそう思うよな。 日ごろが アレ だから」


 昨日の美成の素振りと言動は、日常のそれとは違い、淑やかなものだった。

 日ごろの美成は純一に対して、常に上から目線の態度が通常で、主導権は自分が握っていないと気が済まない性格だ。 なので、昨日の仕草と言葉使いは、まるで別人であった。


「あんなしおらしい美成、レアだったからな。 動画に残しとけば良かったと今思うな」

「でも、純一の事を心の奥では思って居たのかな?......で、気持ちが抑えきれずに、姉ちゃん同盟に助けを借りて、告りに及んだって事かな?」

「う~~ん、多分そうだと思う......、かな?」

「でもしかし、究極に迫られて、よくも意志とは別に、その流れで首を縦に振らなかったのは、やはり美菜ちゃんの事がよっぽど好きだという証明なんだな。偉いぞ純一。一途な良い男だ」


「照れる~......」

「はは......、そこは照れてもいいところだ」


 純一と雄哉が喋っていると、純一のスマホからメッセージの着信音がした。


 開けてみると。


『今着いたから』

 

と、言いう事だったので。

『今行くから』

と、返信をして、純一は雄哉の部屋を出て行く。


「姫が来たな。早く連れてきてくれ」

「おっけい」


 そうして、2階にある雄哉の部屋から純一は降りて行き、玄関を出ると、そこにはセミロングで、やさしい面持ちで若干だが、華奢な風貌な若い女性が立っていた。


「美菜......」


 純一の呼ぶ声に、美菜と言う女性はいきなり謝罪をしてきた。


「あ、あの...、昨日はごめんね純一。 お姉ちゃん達が......」

 歯切れ悪くそう言うと、頭を下げてきた。


「はは......、いいから。さ、早く入りなよ」

「うん......」


 返事をすると、手に持った買い物袋を持ちながら、純一と一緒に先ほどまで居た雄哉の部屋に向かっていった。

 途中で相田家の両親との挨拶をして、そのまま2階に上がって行った。





川本 美菜(かわもと みな) 21歳で大学3回生。


 実は川本家の第3女で、純一とは美菜が高校時代から交際をしている。だが、この事は雄哉(相田家の家族)以外にはまだ報告していない。なので、昨日の様に美菜以外の女性から言い寄られても、当然その相手に対しての良い返事は出来ないと言う事なのだ。




「さてと、昨日の事、美菜は知っているのか?」

 純一と美菜が雄哉の部屋に入るといきなり雄哉が美菜に訊いてきた。



「こんにちは。その件は、昨日のうちに純一から聞きました。雄クンはもう聞いてるんだよね、ウチの姉たちの事」

「ああ、聞いた聞いた。さっき事の顛末をすべて聞いて、済まないが、大笑いしてしまったところだ」

「ひっど~い! 雄クン。 いくら姉でも私が純一の彼女なんだから......」

「分かったわかった、悪かったな、笑って」

「分かればいんで~す」


 いつもの様な会話の運びが進んで行く。


 純一と美菜にとって、雄哉と言う存在は、気兼ねなく付き合え、相談も親身になって聞いてくれる唯一の友人だ。


「でも、いつまでも黙っている訳にはいかないぞ、二人とも。 しかも、ちゃんと公表しないから、昨日のような事態になってしまうんだぞ。 分かってたのか? 美成がお前(純一)の事に好意を持っているって事」


 若干の溜息をつきながら、純一が。


「まあ、昨日ハッキリとオレに対する気持ちを聞いたが、あんないつもと違う態度で、言われると、流石にコイツ(美成)も女子だったんだなって思ったな」


 この言葉に、美菜が反応する。

「それって、お姉ちゃんの事少しは気にしているって事なの?」

 慌てた純一が。


「違う違う!」

 言い直し、更に。

「美成でもああいう態度をとるんだなって思っただけなんだ」


 少し頬を膨らませる美菜。


「だったらいいけど。 いくらお姉ちゃんでも私にとっては恋敵になるんだから、何があっても純一は私のモノだから、ソコ分かってるよね! じゅ、ん、い、ち、さ、ん」


「はい!!」

 敬礼をしながら純一の心中では、こんな自分を好きになってくれた美菜に感謝していた。





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