第52話
今の俺の攻撃を見たヴェスパの反応。
「いや、うん。まあ、そういうのもアリかもね。蟻だけにね」
いや面白くねえし? そしてちょっと憐れみを向けてくれるな。
さらにちびっこの反応。
「おお、人力で風魔法の真似事とか、さすがナノマシン人間」
こっちは目をキラキラさせている。純粋に感心してるっぽいけど、なんだかなあ。そしてお前もナノマシン人間になっている事を忘れるな。
まあそれはともかく、蟻人間としては俺の攻撃とヴェスパの魔法が脅威と判断したようで、隊列を組みなおして俺達に対峙してきた。
しかしそれを崩しにかかるのが、側面に回り込んでいたジェンマ先生。
「いやっ! もう、虫は嫌いなのよぉーっ! 死ぬのよ! 死になさい!」
いや、その……
ゴブリンの時と違って、めっちゃ積極的に蟻人間に襲い掛かっている。手にしたグレイブを小枝のように振り回し斬り付けていく。あのパワーとスピード。紛れもなく先生もナノマシン人間として成長しているようで何より。でゅふふふ。
それで気付いたんだけど、蟻人間の表皮はかなり硬い。ジェンマ先生のフレイブの刃じゃ完全に斬り裂けず、刃が当たった部分がベコッという音を立てて陥没しちまってるんだよ。
それでもダメージは相当なものらしく、攻撃を喰らったヤツは戦線を離脱していく。
それを考えると、俺のシャムシールってすげえ切れ味なんだな……
ジェンマ先生が参戦してくると、俺の『盾を団扇にして毒霧を吹き飛ばそう作戦』も迂闊に使えなくなった。それでも、蟻人間が俺を警戒している事には変わりないので、先生がグレイブで叩きつけた所をちびっこが狙撃して相手の数を減らしている。
『パーティ戦闘をやろう』とは言ったけど、向こうの方が数は多い。一番前に出て敵を引き付ける役目の俺は必然的に一人で相手をする数も多くなるし、同時に三体くらいを捌かにゃならんケースも出てくる。
そうなると、流石に毒霧を完全に遮断するなんて事は無理な訳で、少量だけど肌に触れたり吸い込んだりしちまった。
うん、なんだか肺が痛いような気がするし、目もヒリヒリする。それでも我慢出来ない程じゃないから、なるべく毒霧を浴びないように折れかけた盾で払いながら蟻人間の攻撃を生身で受け止め、シャムシールで斬っていく。
他の三人も、俺に注意が向いている蟻人間を確実に仕留めていった。
「もう、なにやってるのよ!? バカなの? 死ぬの?」
「……ごめんなさい」
軍隊蟻人間たちを倒したあと、俺は絶賛正座でお説教をされている。生徒に説教するのは当然先生であり、制服を着ていなくても非常にしっくり来るものがある。
いや、説教されているのにそんな事に感心するのはどうなんだって話だけども。
実を言えば、最後の蟻人間を倒したのは俺なんだけど、その際にわざと毒霧を受けた。もちろん、体内のナノマシンに学習させて、毒に対する耐性を手に入れる為だ。
ゴブリン階層での戦いでも分かるように、キングですら俺の身体には傷ひとつ付けられなかった。暫くの間は物理攻撃に関しては心配はいらないだろう。だけどここは虫の階層だ。アイツら、何気に毒持ってるやつ多そうじゃん? だからこの階層の初戦で毒の耐性を手に入れておきたかったんだよ。
ところが、衣服や防具に守られていない露出した部分や、目や鼻、喉などの粘膜、そして肺などの呼吸器官。それがもう痒いやら痛いやらつらいやら。
『即死しない限りは生かそうとする』のがナノマシンの特性の一つだという事を信じ、俺は治療を拒否してひたすら耐えた。
その間、ジェンマ先生もちびっこも滅茶苦茶心配してくれた。いやほんと、申し訳ないって思うくらいに。普段は感情の起伏を見せないちびっこですら、涙を流して取り乱したくらいだ。
そして無事に回復した俺は、ジェンマ先生のお説教を受けている訳だ。ちょっと先生の目が赤く腫れている。だからごめんて。
「アンタらのトコから来た召喚者は、みんなそんな能力を持ってんのかい?」
恐らくヴェスパは、蟻人間の毒が死ぬようなものではない事を知っていたんだろうな。それほど取り乱す事なく様子を見ていた。
そして、武器攻撃や魔法攻撃を受ける度に強化されていく俺の身体を見てきて、そういう疑問を抱いたらしい。ただ回復力が高いってんならまあまあ有りそうな話だが、一度受けた攻撃は二度目は効かないとか、どんな反則な身体だって事になる。
ジェンマ先生やちびっこにも俺の
「まさか。こんなバケモノじみた人間がたくさんいたら気持ち悪い」
おいちびっこ、言い方。しかもそれだとお前も気持ち悪い側の人間だぞ。
「まあアレだ。騒がせたお詫びに、毒持ちとやり合うのはなるべく俺が受け持つから、みんなは後方からチクチクやってくれよ」
毒耐性を身に着けた俺は、この後の蟻人間を蹂躙し、第六階層を抜けた。
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