第45話

「うえぇ~、ホントにコレとやんの? 俺一人で? マジで?」

「まさか男に二言はねえよなぁ?」

「あるよ? いっぱいあるよ?」


 だってさ、扉を潜ったその先に待ち構えてたのは、めっちゃ強そうなゴブリンの親分みたいなヤツと、それの取り巻きがいっぱい。

 親分みたいなヤツはもうフル装備。ヘルム、アーマー、シールド、ソード。体格も他のゴブリンより二回りは大きい。俺の身長が180くらいだけど、目線は少し上を向くくらいだ。

 取り巻きもいい装備だ。しかも盾持ちの剣士が三体、弓持ちが一体、杖を持った魔法使いっぽいのが一体。バランスいいじゃん。


「ねえヴェスパ、あれってもしかしてゴブリンキング?」

「おお、ラン、よく知ってんな! 後は盾持ちがナイト、弓持ちがアーチャー、杖持ってるのがヒーラーだな」

「むう、タクト一人でだいじょぶ?」

「一応、プラギーの冒険者でここを突破できるのは全体の二割くらいって聞いてるぜ。ちなみに上級冒険者ゴールドは全体の一割もいねえんだ」

「つまりタクトの冒険者ランクは上級ゴールドだから、この程度は突破出来て当たり前ってこと?」

「そうそう」


 何やらちびっことヴェスパが勝手を話を進めているんですが。


「タクト君、危なくなったら助けにいくかもしれないから安心してやって来ちゃって!☆」


 かもしれないってなんすか先生……

 はぁ、もういいや、行きますよやりますよコンチクショー。






 メイスを右手に持ち、盾持ちの三体目掛けて突っ込んで行く。その間にも敵のアーチャーが矢を射かけてくるが、頭だけを左腕でガードしながら突っ込む。数発命中したみたいだけど、思った通りノーダメージ。ちょっと何かがぶつかったかな? くらいの感触だ。

 取り敢えずアーチャーは無視していい存在なのは分かった。


「オラァ!」


 一番近くにいたナイト目掛けてメイスを打ち下ろす。それを盾で受けようとするナイトだが……


「ゲギュッ……」


 勢いを止める事が出来ずに、盾を持った腕は折れ、そのまま盾ごと顔面を潰されて死んだ。うーん、俺のバカ力ったらしゅごい。

 残るナイト二体が俺の左右から挟み撃ちを狙ってきた。やはり同時に斬り掛かってる。さて、どうするか。うん、どうにもならんね。そもそも俺達は対複数の戦闘経験なんてなかったんだからさ。この迷宮に入って初めて体験したんだぞ。

 仕方なく左から来たヤツの剣の刃を左腕で受け止める。なんだかガキィンって、人間を辞めた音を立てて剣が止まる。そのまま弾き返し、右から来たヤツのどてっ腹にメイスをフルスイング。更に振り向きざま、左のやつの股間を蹴り上げ、蹲った所にメイスを叩きつけて頭を潰す。

 多分、右から来たヤツは内臓が破壊されたんだろう。血を吐いて動かなくなったし、頭を潰したヤツはスプラッターな感じで即死だ。やだもう、のーしょー飛び散るし。

 しかしそこで悲劇。なんと俺のメイスの柄が折れてしまった。


「あちゃあ……かなり酷使したからしゃーないか?」


 こうしている間にもアーチャーがチクチクと矢を放ってくるし、ゴブリン親分も殺気を振りまきながらゆっくりと近付いて来る。仕方なく、俺は倒したナイトの剣を二本拾い、両手に持った。


「くっくっく……タクトもぶっ飛んでるねえ。ぶっつけ本番でキングの親衛隊の剣や矢を直接受けるなんてさ」

「ああ……死ななきゃ勝ちっていうとんでもないチートだから、彼」

「ん。トラックとぶつかる経験をしただけの事はある」


 女性陣が何やら俺の事を絶賛してるけど、今は後回しだ。


「絶賛してねえぞぉー」


 ヴェスパ、心の中を読むな。

 まずはチクチクと鬱陶しいアーチャーを片付けるべく、そちらに向かって駆けていく。ヤツを守るナイトはもういない。スピードもパワーも俺が圧倒してるから、あんなもん、近付きさえすれば……


「あーもうちょこまかと!」


 中々捕まらない。ちっくしょう。単なるスピードなら俺に分があるんだが、フットワークで負けてるって事か。奥が深いぜ。

 何だか面倒くさくなった俺は、ちょっとプチッて切れてしまって、ついつい右手に持っていた剣をアーチャーに向かってぶん投げた。


「おおっ!?」


 するとその剣は、ブンブンと縦回転しながら物凄いスピードでアーチャーに飛んで行き……


「うわあ、剣を投げて突き刺すとかなら聞いた事あるんだけど、真っ二つにしちゃうとか新しいわね……」

「多分160キロ以上出てた。ショータイム」

「しかもちょうど両手に持ってて二刀流だし……」


 なんかジェンマ先生とちびっこが感心しながらちょっと引いてる。


「アンタらの言ってる事はよく分かんないけど、いまのは凄いね。投擲用のナイフや短剣ならともかく、ワンハンドソードをあんな風に使うのは珍しいよ! アハハハ!」


 そしてヴェスパは大笑いだ。彼女の言うように、サブの武器ならともかく、メインで使うような武器を敢えてぶん投げて手放すとか、ちょっと正気の沙汰じゃないらしい。

 んー、でもなぁ。こんな拾いものの剣なんざ俺の武器にはなりえない。ほとんど剣術とか習ってないし、ただのハッタリにしかならんよ。



 さて、残るはゴブリン親分とヒーラーだな。どうせだから目障りなヒーラーから先に倒しちゃおう。

 イッツ! ショータイム!

 再び俺はゴブリンヒーラーに向かってぶん投げる。やはり剣はヒュンヒュンと縦回転で飛んでいく。いや、俺は糸を引くような真っ直ぐを……もとい、剣先が真っ直ぐに敵に飛んで行ってグサッと刺さるようなキレイなヤツを狙ってたんだけど……


「グギャア!」


 ゴブリンヒーラーは一歩も動く事が出来ず、辛うじて持っていた杖で受けようとしたが、杖ごと真っ二つになってしまった。どうやら縦回転が切れ味を増していたらしい。

 ……何はともあれ、残るはゴブリン親分だけだ。そろそろ俺も奥の手を出しちゃおうかなー?

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