第40話

 とは言ってもな。ギルドの方に過失があるとは言え、やっぱり迷宮フリーパスを発行するというのは前例がないだけに、冒険者ギルドの一支部が独断でやっていいものかどうか悩ましいって話で。


「アタイがなんでコイツらのパーティに入れてもらったか分かるかい?」

「「?」」

「アタイと同じだからさ」

「――召喚者か」


 ハーレイさんが難しい顔で俺達を見た。

 十年前の大平原の事件は、召喚者だけじゃなくて冒険者にも多くの犠牲者を出した。運よく命を拾った者も四肢欠損などで冒険者稼業を引退せざるを得ない状況に追い込まれた者も多かったという。

 しかし聖都の騎士団は召喚者と冒険者より先に撤退を開始したため損害は軽微だったそうだ。その事から、表向きは中立な冒険者ギルドもアプリリーを筆頭とする宗教勢力にはいい印象を抱いていないらしい。

 今までヴェスパが大きな顔で活動出来ていたのも、冒険者ギルドが組織的にバックアップしていたんだろうな。実際にヴェスパ達召喚者の犠牲によって、少なくない数の冒険者が命を拾ったのも事実なんだろうし。


「そしてコイツらも猊下のヤツには借りがある。一泡吹かせてやりたいのさ。分かるだろ?」

「……なるほどな。冒険者ギルドはヴェスパに恩義を感じている。いいだろう。許可しよう」

「おお! すまねえ――」

「ただし!」


 俺達の要望を通りそうになった所でハーレイさんがヴェスパの言葉を遮った。


「好きな時に迷宮に潜り、好きな階層まで行くという要求は飲む。だが君達が戻って来なくても捜索隊は出せない」


 ははっ。どんな条件が出されると思えばそんな事か。これには俺だけじゃなく、ヴェスパやジェンマ先生、ちびっこも不敵な笑みを浮かべた。


「あのな。タクトには治癒魔法を掛けていないんだ。気休め程度の鎮痛魔法は掛けたがな」

「なんだと! ではあの回復力は一体……」

「言ったろ? 召喚者だって。それに他の二人もタクト程じゃないが近い能力は持ってんだぜ?」


 得意気なヴェスパにハーレイさんもウラルさんもあんぐりだ。こっちの世界風に言えば超回復持ちって事らしい。普通なら有り得ないんだろうが、召喚者っていう冠を被るとあら不思議。大抵の事は『召喚者』だからな、で納得させちまう。


「そんな訳で、アタイ達は滅多な事じゃ死なねえから心配いらねえよ。早いトコ迷宮のお宝を集めて強くなって、アプリリーの糸目でいやらしいツラをぶん殴ってやりたいからな!」


 最後に、『アタイは十年も待ったんだ……』っていうヴェスパの呟きが聞こえた。


***


 プラギーの市街地を出て一泊二日の距離に迷宮がある。プラギー市と迷宮のちょうど中間付近に宿場町があり、多くの冒険者がそこで一晩の宿を取る。俺達もそこで一泊した。

 迷宮に着いたのは翌日の昼頃。森の奥に大きな岩山があり、そこの麓に洞窟があるらしい。それが迷宮の慰霊口って訳だ。

 迷宮に入る前に受付所があり、そこで手続きをするんだと。ただし、その受付所までにかなりの冒険者が列を作っている。


 首尾よく俺達はギルドが発行した正式の『迷宮優先フリーパス』なるものを入手した。ざっくり言えば、このフリーパスを持ったパーティは他の冒険者よりも優先で迷宮に潜る事が出来る上、スケジュールなども報告する必要がない。

 通常、迷宮に入るには順番待ちをする必要があり、しかも何日間の予定で、どの階層まで行くのかなど、結構細かい予定を受付所で記入しなければならない。勿論その事前スケジュールより早く帰還する分には問題ないが、それを超過してしまうとギルドから捜索隊が出る事になる。その資金はスケジュールを守らなかった冒険者の負担となる。


「つまりこのフリーパスを持ってる俺達は、この行列をすっ飛ばして迷宮に入れると」

「ん。しかも無期限で潜り放題」

「でもあたし達が危険な状態になっても誰も探しに来てくれないって事ね」


 まあね。一連の会話から分かる通り、俺達のパーティは特例扱いだ。その理由はメンバー全員の出自のせいなんだけど、それだけに俺達は第三者を黙らせるほどの実績を上げて来なくちゃならねえって事だ。

 ヴェスパは召喚者としても一流の冒険者としても名前が売れている。だけど俺とちびっこ、ジェンマ先生が召喚者だと知っているのは今まで立ち寄った冒険者ギルドの一部の人間だけだ。そういう意味で、ヴェスパの顔に泥を塗らないように頑張らなくちゃな。

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