プラギー迷宮ゴブリン層

第41話

「てめえなんざゴブリンに刺されて死んじまえ!」

「ンだコラオレンジ色の頭しやがって舐めてんのかおおう!?」

「ロリコンか! ロリコンなのか羨ましいぜちくしょう!」

「なんでアイツが! なんで俺じゃなくてアイツがぁぁぁ!」

「くっ……この世に神様はいないのか!」

「あらイイ男ね。ウホッ」


 ……なんでこうなった。

 迷宮への入場待ちの冒険者達を横目に受付目指して通り過ぎる俺達――正確に言えば俺一人に対して、如何にもモテそうにないヤロー共がばっちり聞こえるように言葉の刃を飛ばしてくる。約一名おかしなヤツもいるけどな。


「ちょっと殴ってくる」


 そう言って動きかけた俺の両腕にしがみついて引き止めてくる柔らかいモノとそうでもないモノ。


「まあ待ちなさいって」

「ジェンマ先生? なんか当たってますけど?」

「当ててんのよ」


 恐らくとっても柔らくて大きいモノが俺の腕に押し付けられている。ただし、皮鎧を着ているので感触もクソもあったモンじゃねえけどな。


「で、お前まで何やってんの?」

「当ててんのよ……?」

「ごめん、分からん」


 いや、さすがにちびっこのは、『ああ、本当に平らなんだな』くらいの感想しか出ない。そもそもジェンマ先生のワガママボディに張り合おうとするのが間違いだって。

 まあそれでもね、トラブルを阻止しようとしてくれたんだから感謝はしとくか。


「うおぉぉぉぉぉ! 見せつけやがって!」

「しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねし……」

「あんなようじょにうらめやましいぃぃ……」

「あらん、見せつけてくれるわぁ。でもいつかアタシが奪ってみせるわねん」


 前言撤回。火に油を注いでどうするのかねキミタチ。






「これは……間違いなくギルドマスターが発行したパスですね。分かりました。既にご存知かと思いますが、これだけ自由が許されているのですから迷宮内部の活動に関しては全て自己責任になります」

「ああ、承知の上だよ。じゃあアタイらは入っていいかい?」

「ええ、お気を付けて」


 迷宮の受付所でのやり取りは、顔と名前が売れているヴェスパに任せた事によりすんなりと済んだ。さあ、迷宮へと突入だぜ。ちょっとワクワクすんぜ。


 岩山にポッカリと空いた洞窟の入り口へ入ると、下に向かって石段が続いていた。


「迷宮の中には上へ続くタイプもあるんだが、ここはオーソドックスに地下へ潜るタイプなんだ。今まで確認されているのは地下16層だね」


 入口から下るにつれて外の光が弱くなり、段々暗くなってきた。そんな中、ヴェスパのガイドで進んでいく。


「随分暗くなってきたけど、明かりとかはどうすんだ?」

「ああ、明かりか。まあ行けば分かるさ」


 ヴェスパに言われるまま階段を下って行くと、やがて行き止まりにぶち当たった。入口から差し込む光はかなり少なくなっており、辛うじて近くの人物を識別できるくらいの暗さだ。ただし、ナノマシンによって鍛えられた俺達の視力はかなりのレベルで暗視が利く。もっとも、ヴェスパは自前の魔法か何かで夜目が利くらしいけど。

「扉、かしら?」


 突き当りは岩壁だが、その中の一部が鉄製の扉になっているように見える。その鉄の部分を触りながらジェンマ先生が呟いた。


「その通り。この先からが、本当の『迷宮』さ」

「でもどうやって開くのかしら?」


 ヴェスパが言うにはやはり扉らしい。だけどドアノブとか開閉用のスイッチみたいなものは見当たらない。


するのさ。こうやってね」


 ヴェスパが背中の剣を抜き、扉に斬り掛かる。そんなに力を込めたようには見えなかったけど、扉は重厚な金属音と共に向こう側に倒れていった。


「「「は?」」」


 あまりと言えばあまりな開け方に俺達三人は思わずポカンとしてしまう。


「あー、つまりコイツはな、一定以上の威力があれば迷宮内に扉なンだよ」


 赤髪をポリポリと掻きながらヴェスパが適当な説明をしてくれた。


「ヴェスパ、kwsk」

「あん?」

「もっと詳しく、だってよ」


 ちびっこの文化はこっちの人には中々伝わらねえから俺が通訳してやったぜ。

 ヴェスパの話を要約するとだ、この迷宮内に現れる最弱の敵を倒せるレベルの攻撃力の有無を判定するのが、あの重そうな金属製の扉なんだそうだ。どんな魔法が掛かっているのか知らねえけど、バケモンを倒すウデもねえヤツが、一攫千金を夢見て命を落とす事がないようにしているってトコだな。

 

「迷宮に入りたけりゃ、この扉を開かせる程度の力を付けて来いってこったな! さあ、行こうぜ!」


 妙に張り切っているヴェスパがウキウキしながら俺達に先立って迷宮へと足を踏み入れた。

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