第37話

「あっ、あのっ! ギルド内での揉め事は困ります!」


 あわあわした感じで受付のお姉さんが仲裁に入ろうとするけど、絡んで来た連中はお構いなしだ。


「揉め事じゃねえよ、ラヴヤちゃん。ここに来たって事はどうせ迷宮のお宝目当てだろ? それに見合った実力があるかどうか試してやるってんだ。先輩冒険者の俺様達がよォ?」


 ほう、受付のお姉さん、ラヴヤさんっていうのか。


「むう、モブだと思ったけど名前が出てくるとは……まさか重要人物?」


 ちびっこがなんか呟いてるけど深くは聞くまい。どうせメタな事に決まってる。突っ込んだら負けだ。俺は学習したんだ。


「で、では! こんなところで揉めないで、ちゃんと地下の修練場の使用許可を取って下さい! もちろん、ギルドから監視は付けますからね!」


 ほう、修練場が地下にあるのか。というか、もうやる流れには抗えないみたいだ。






 地下の修練場に移動する。すり鉢型のスタジアムっぽい形状は、カーブレの冒険者ギルドにあったものと似たような感じだ。


「今回の模擬戦は私が立ち合います。死に至るような攻撃は禁止。『ナノ』からは上級冒険者のタクト、『トレイル』は四人全員という事でいいですね?」


 立ち合い人はプラギー冒険者ギルドの副ギルドマスターで、ウラルさん。丈の長いスカートに、ギルド職員っぽいジャケットを羽織っている。手にはワンドを持っているので、多分魔法をメインに使う人なんだろうな。

 それで、俺が一人で向こうが四人っていうハンデキャップマッチになったのは、向こうの申し出をこっちの女性陣が受けちゃったからだ。


「ゴールドのタグ付けてんだぁ、あんちゃん一人で俺達四人に稽古をつけてくれるだろ?」


 そう言って嗜虐的な視線を向けてきた。しかもだ。


「俺達が勝ったら、そっちの女三人、俺達のパーティに入ってもらう」


 そんな訳分かんねえ条件まで付けてきた。当然女性陣が断ってくれると思ったんだが……


「ん。タクト、殺ってよし」

「拓斗君、再起不能にして差し上げるのよ!」

「こりゃ引けねえなぁ、タクト? アンタからも何か条件出してやれよ?」


 はい、むしろイケイケでした。ちびっことジェンマ先生の視線には殺気が籠っていたけど、ヴェスパは悪戯っ子みたいな顔してたから、多分俺の実力でも何とかなる相手なんだろう。それならそうだな……


「じゃあこっちの条件は、俺が勝ったらお前らの全財産よこせ。あと、冒険者も引退しろ」

「なんだとこの野郎ォォォ!」

「死ねコラァ!」

「ぶっ殺す!」

「舐めんじゃねえ! 隻眼の腰巾着のクセしやがって!」


 俺の一言に激昂した四人が、手にした武器を持って襲い掛かってきた。おいおい、訓練用の武器とかじゃなくて実戦で使ってるやつかよ。


「あっ! こら、まだ初めとは言ってn――」

「いいからいいから」


 ウラルさんが慌てて止めようとするのを、ヴェスパが阻止しているのが目の端に見える。まったくあの人は……


***


「大丈夫なのかい? ヴェスパ」


 ウラルが心配そうに語り掛けるが、ヴェスパは相変わらず悪戯な笑みを浮かべたまま。それにジェンマとメグという二人の女性も心配している風でもない。


「素行に問題はあるが、あの四人はここのギルドでも腕利きの部類だ。しかも武器だって実戦用のものだ」

「心配いらねえって、ウラルっち。アイツは強いよ。中級冒険者なんざ束になって掛かっても、傷一つ付けらりゃしねえって」


 ヴェスパ程の実力者が太鼓判を押すタクトという青年。彼自身も委縮しているとか緊張している様子もないし、仲間であるジェンマもメグも全く心配している様子はない。

 これが冒険者にありがちな『戦えば勝つ』という根拠のない自身から来るものなのか否か、ウラルは自分の立場も忘れて俄然興味が沸いてきた。


 いざ修練場に目を向けてみれば、そこに広がるのは自分の目を疑う光景だった。

 四人の冒険者の攻撃を全て素手で受け止め、痛い顔一つせずにいるタクト。いくら斬ろうが殴ろうが突き刺そうが全くダメージを与えられない事に、『トレイル』の面々は恐慌を来す。


「ひいっ……」

「バ、バケモノ……」

「ち、近寄るんじゃねえ……」

「た、助けてくれ」


 四人は怯えながら後ずさるが、タクトはゆっくりと追い詰めながらにこやかに語り掛けていた。


「センパイ冒険者の皆さんが、俺に色々教えてくれるんだろ? ほら、どうした? 手加減はいらねえからどんどん来いよ?」


***


「少々やりすぎじゃないかな?」


 模擬戦が終わったあと、俺達はウラルさんと面談する事になった。

 結局、奴らは俺が出した条件を呑もうとしないので、仕方なく、うん、本当に仕方なく連中の利き腕を握り潰してやった。その代わり全財産よこせとか、冒険者を引退しろってのはチャラにしてやったんだけどな。

 まあ、怪我が完治するまで冒険者活動は出来ないだろうし、そもそも完治するかどうか分からないくらいにはお仕置きして差し上げた。


「十分に譲歩したし、そもそもヤツらの出した理不尽な条件に比べれば優しいいくらいだと思うんすけどね。それに、ああいう連中をのさばらせとくギルドにも問題があると思うんだ俺は」


 なぜか俺を叱責するような言い方のウラルさんに、俺もちょっとカチンと来ている。ぶっちゃけ、お前らの管理が悪いんだよと正面切って言っちゃうほどには。


「あれでもプラギーにとっては重要な戦力なんだよ」

「だから知らねえって。こっちは仲間に危害を及ぼそうとしたバカにお仕置きしただけっすよ。そんなにあんなクズ共が大事なら、しっかり首輪付けといてくださいよ」

「君は……生意気だね。いちいち言う事は尤もではあるが、些か目上の人への態度がなっていないようだ」

「そりゃどうもすみませんね。で、もういいっスか? 早く宿に行きたいんスけど」


 ホントにめんどくせえ。


「心配しなくても特上の宿を紹介する予定だよ。それより、私とも一戦いかがかな? 中級冒険者程度じゃ準備運動にもならなかっただろう?」


 あ、これは断れないやつだ。目がね、もうやる気なんだもの。

 

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