迷宮フリーパス

第36話 

 俺とちびっこ、ジェンマ先生が召喚されたのはモータル聖教国っていう異世界の国だ。何でも異世界人は手っ取り早く強力な戦士に育て上げる事が出来るため、自分達の野望の手駒にする為にクラスごと召喚されたらしい。

 召喚を行った張本人はアプリリー猊下ってヤツなんだが、自分が国王に変わって国を牛耳りたいとか、そんな感じらしいぞ。で、俺達は見事にそれに巻き込まれた訳だ。


 とりあえずの目的は、ジェンマ先生はクラスメイトを助ける。ちびっこは、う~ん、天才の考える事はよくわかんねえけど、俺達に対する仲間意識ってヤツかな?

 俺は、そうだな。ジェンマ先生もちびっこも、俺と同じナノマシン人間になる事を決意してくれた信用できる人間だと思ってる。だから彼女達に協力して、守ってやるかな。


 そしてもう一人、ヴェスパ。

 彼女は俺達に先んじる事十年前、やはりアプリリーによって集団召喚された中の一人だ。その時の仲間達は全員死亡し、生き残ったのは彼女だけ。それからはアプリリーに復讐する為に冒険者として腕を磨き、今では聖教国の中でも数人しかいない、特級冒険者だ。

 どうやら彼女は地球とはまた別の世界から召喚されたみたいだけど、ジェンマ先生の目的であるクラスメイトの救出と、自分のアプリリー殺害という目的は利害が一致するので俺達と行動を共にしている。そんな感じかな。

 まあ、そのあたりは多くを語ってくれないんで、推測の域を出ないトコもあるんだけど。


 そんな俺達が訪れているのはプラギー市。人口一万五千人くらいが集まっていて結構デカい。この国じゃ一万~三万くらいで中小都市、五万以上になると大都市って事らしい。ちなみに聖都が二十万人、王都が四十万人だそうだ。


 で、俺達はこのプラギー市を拠点にして冒険者活動をしようって事にしたんだが、それは少し離れた場所にある迷宮ってやつが主な理由だ。

 迷宮には強力な人型のバケモノや魔獣が出る。そこで冒険者としての腕を磨くのと、あともう一つ。お宝だ。どういう訳か分からねえけど、迷宮の中にはお宝がたくさん眠っているらしい。質はピンキリで、そこらで売ってるようなモノから国宝級まで様々だ。ヴェスパが持ってる魔法鞄も、迷宮で手に入れたらしいな。

 俺達も上質な武器や防具、それにお宝を求めて迷宮に潜りながら、腕を磨くって訳だ。何しろアプリリーに対抗するってんだから強さはいくらあっても足りないし、アプリリーを潰す為に国王派を味方に付ける為にもそれ相応の実力は必要だからな。





「パーティ『ナノ』ですね……え?」


 プラギーの冒険者ギルドへ寄った俺達は、まずはここを拠点に活動する為にギルドへ面通ししに行ったんだけどさ、そこの受付のお姉さんが俺達の名簿を見て二度見。


特級プラチナ上級ゴールド、それに中級シルバーが二人ですか!?」


 そんなデカい声でお姉さん……

 ほら、ホールにいる他の冒険者達の視線が集まっちゃうじゃん。


「しかも『隻眼のヴェスパ』さんじゃないですか!」


 ヴェスパの名前を聞いて冒険者達がさらにざわつく。


「え? でもヴェスパさんがリーダーじゃないんですか?」

「ああ、アタイがお願いしてこのパーティに入れてもらってンだ。リーダーはここにいるタクトだよ」

「タクトっす。よろしく」


 ここでもまた冒険者達が騒ぎ出す。隻眼のヴェスパと言えばかなり名の知れた存在のようで、そんな彼女がお願いしてまで加入するパーティって一体何モンの集まりだ、と。

 そんなハードル上げんなよヴェスパ。俺たちゃまだ素人に毛が生えた程度なんだからさ。


「それでさ、この辺りでいい宿紹介してくんねえかな? アタイらが定宿にしたいんだ。それなりのクオリティで頼むよ」


 手慣れた感じでヴェスパが話を進めていくので、完全に俺達はお任せして様子を見ているだけ。その間にギルドの中を眺めてみる。

 作りはカーブレのギルドとそう変わらないけど、窓口が多いとか依頼掲示板が多いとか、全体的に規模が一回りか二回りくらい大きい。それだけ冒険者の数が多いって事だろう。


「タクト、テンプレきた」


 そこへちびっこ曰く、『テンプレ』を持ち込んで来る連中が近付いてきた。どいつもこいつもムキムキのマッチョで、歴戦のベテランって感じを醸し出している。


「よう、ヴェスパ。久しぶりじゃねえか。しばらく見ねえと思ったら、こんなガキ共を従えて大将気取りかぁ?」


 ギラギラと好戦的な空気を発散させながら喋る先頭の男は、言葉だけはヴェスパに向けているけど、視線は明らかに俺達を見ている。ジェンマ先生もちびっこもムッとした顔で睨み返してるな。俺は到着早々、面倒事は勘弁なんだが。


「あん? 誰だいアンタらは?」

「おいおいおい、つれねえじゃねえか。俺達が散々誘ったのに袖にしやがって。そのくせこんなガキ共と――」

「つまり振られたのに未練タラタラな上、存在すら記憶に残らない気の毒な人達」


 ヴェスパからまさかの『知らない人』認定された上、ちびっこにトドメを刺された男達は顔を真っ赤にして激昂する。


「てめえ! 俺達に喧嘩売ってんのか!」

「ん。先に失礼な事を言って来たのはそっち」

「そうね。少なくともあたしはガキじゃないし、これでも中級冒険者なんだけど」


 怒り狂ったムキムキなマッチョに少しも怯まず、むしろ煽るとかやめてくれませんかちびっこと先生?


「どうせヴェスパのおこぼれで昇級した腰巾着なんだろうが!」

「おら、おめえもスカしてねえでなんとか言えよ」


 他の男も興奮して、俺の肩をドンと突いてきた。


「タクト。先に手ェ出してきたのはそのバカの方だ。殺さねえ程度にな」


 わあい、やっぱり俺がやるのね。奥歯のスイッチをカチッとしとこう。

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