第34話
野営の番は二交替。先にジェンマ先生とヴェスパ。遅番が俺とちびっこだ。
「……」
左腕のデバイスを装着している部分から、ほんの僅かにチクリという刺激を感じた。デバイスのアップデートが完了してから、定期的にこんな感じで刺激がある。
「どう? タクト」
「ああ、もう少しでレベル3のゲージが満タンになるぜ」
「チャージに時間が掛かりすぎるけれど、ここ一番の必殺兵器にはなる」
「ああ、そうだな」
このデバイスのアップデートが終わったあと、デバイス本体からアップデートの内容に関して色々と情報が頭の中に流れ込んで来た。
あの備毛田の爺さんは、俺達が異世界でも生き残れるようにデバイスを武器に変形させるっていうロマンな改造を施してくれたんだ。俺は初めてあの爺さんを見直したね!
例えばレベル1のナノソード。デバイスが剣に変形してくれるらしい。ソードなんて言ってるけど、実は剣だけじゃなくて槍の穂先やナイフなど、任意の形態に出来たりする。その強度は俺の現在の身体強度と同等って言うからかなり硬いはずだ。そして俺の身体がダメージに耐えてさらにナノマシンが学習すれば、剣の強度は更に上がっていく。
まさに俺と共に成長していく武器なんだが、その変形する為の材料というかなんていうか。デバイスから剣に変形するには当然それに見合った質量が必要だ。で、それを補うのが俺の血液中のナノマシンだ。そのナノマシンが自己増殖して質量を蓄えておいて、いざって時は剣になるってスンポーな。
チクリと刺激があるのはデバイスが俺のナノマシンを吸っている。その吸ったナノマシンを増殖させて、どこに保管してんのかまではちょっと分からない。
ちなみにレベル2になるとナノガン、レベル3はナノキャノン。レベル4はナノシリンジ。この辺までは何となくどんなものか想像出来るんだけど、レベル5のナノディジェネレイトっていうのはちょっと分からんな。レベル5が最終進化形態らしいんで、きっととんでもない威力なんだろう。
「でもタクトの武器問題は深刻」
「そうなんだよな」
俺のパワーでデカくて硬い魔獣をぶん殴ると、鋼鉄製のメイスがひん曲がるという事態になってしまう。それでも敵は倒せるし、多分ゲンコツで殴った方が強い。だけど俺には格闘術というか、そういう技術が無いしリーチで負ける戦いはやっぱり怖いんだよ。
いくら俺の身体がナノマシンで強化されてる上に、痛覚も鈍化してるとは言え、デカいバケモノや刃物なんかは怖い。だからできればこっちから先に攻撃したいし攻撃されたくはないんだなぁ。
「迷宮でいい武器が見つかるといい」
「ああ。ありがとな」
青髪になって美少女度が俄然アップしたちびっこは、時折だけど俺に対して優しい笑顔を向けるようになった。今もちょっとばかしドキリとしちまったぜ。
多分切っ掛けは、ギルドで魔力測定をした後だと思う。俺だけが奇跡の魔力量ゼロ。もちろんその噂はカーブレの町中を駆け巡り、俺は奇異の視線に晒された。まあ、そりゃそうだよな。生き物である限り、必ず魔力が内包されてるってのがこの世界の常識。いや、むしろ異世界人の方が膨大な魔力を持っている。
なのに俺はゼロ。生き物認定されてねえ。まるでゾンビか人形でも見る目だったぜ、みんな。
「お前、結構優しくなったよな。どうした?」
「う……」
「?」
「タクトは強い。ちょっと尊敬してる」
ぽつりぽつりとちびっこが語り始めた。
ちびっこは、幼少期より神童と呼ばれた天才だった。同じくらいの歳のハナタレのガキ共と話が合う訳もない。彼女は天才としてだけではなく、『変わった子供』として奇異の目で見られて生きて来た。
「そんな視線から逃げるように、ボクはケンブリッジへの留学を決意した。でもやっぱり、日本での学生生活を謳歌したかった」
だからちびっこは、年上ばかりがいる俺の高校に編入してきたって訳だ。俺の通ってたトコはそれなりに偏差値も高くて、ここならそんなに奇異の視線を浴びずに済むんじゃないかと思ったそうだ。
「だけど現実は違った。やっぱりボクを普通の女の子として見てくれる人はいなかった」
そうか。ジェンマ先生は天才故にコミュニケーションに難があるって言ってたけど、そんな事はなくて。俺も接してて思ったけど、コイツは多少生意気な所はあるけど、滅茶苦茶頭がいいだけのタダのヲタク少女だ。
「ボクはそんな周囲から逃げたし、自分から殻に籠った。だけどタクトは違う。どんな目で見られても、どんな陰口を叩かれても、正面から受け止め笑い飛ばしちゃう。たまに殴っちゃう時もあるけど」
「ああ、俺さ、一回死んでるんだよ。ぐちゃぐちゃになってさ。で、訳の分からねえもの注入されてさ。もう人間辞めてるだろ?」
「ん」
「なんて言うかなー……人間じゃない何かになっちまったショックと比べれば、大概の事は些細な事なんだよな。それに悪意を跳ね返すだけの力も手に入れたしな!」
「ん……」
それからは、パチパチと焚き木が爆ぜる音のみが響く時間が過ぎた。
「あー、あのさ」
「ん?」
「お前も、ジェンマ先生もなんだけど」
「ん」
寝袋で寝入っているはずのジェンマ先生がもぞりと動いた。ちょっと声が大きかったか。
「二人が、互いに自分を傷付けて、俺のナノマシンを摂取したじゃん?」
「ん」
「感謝してるんだ。お前らにはお前らの考えがあっての事だろうが、それでも俺は心の中では嬉しかった」
「なぜ?」
「俺と同じ存在になってくれたからさ」
ハッキリ言えば、俺ってバケモンじゃん。それをだ、いくら自分の身を守る為とは言え、人間離れした俺と同じ存在になるなんて、余程の覚悟がないと無理だろ。
「んふ」
「な、なんだよ……」
「じゃあ責任とって嫁にする」
「そういうのはもうちょっとおっぱい膨らましてから言え」
「むう」
ちびっこが両手を胸に当ててしょんぼりしている。あと二年もすればボクだって、とかブツブツ言ってるけど、じゃあせめてあと二年は様子見だ。
――ガバッ!
な、なんだ? ジェンマ先生が急に寝袋から跳び起きた。
「話は聞かせてもらった! じゃああたしは大丈夫だよね!?」
先生ェ……盗み聞きはよくねえぜ。たしかにおっぱいはたわわだけどさ。
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