第32話

 そんな訳で、ちびっことジェンマ先生は道中で魔法について勉強する事になった。そして俺の方はと言うと……


「ヤダヤダヤダ!」

「ふっふっふ。問答無用だよ、タクト。いくぜ!」


 俺はパーティの中でも敵の攻撃を一手に引き受ける前衛職タンクを引き受ける事になっている。そのタンクに必要なのは何よりタフさだ。体力、気力という意味でもそうだけど、何より頑丈さだな。


「ちょ、待って待って! それって魔剣じゃん!」

「ふっ。今日のヤツはよく燃えるヤツだ。あっついから覚悟しろよ?」

「あぢっ! あぢぃ! あづいってんだよちくしょう!」

「おら、避けるんじゃねえタクトォォ!」


 普通の武器。剣や槍、斧や弓矢……そんな武器の攻撃は、俺のナノマシンで強化されたチートなボディには全く効かない。ヴェスパの攻撃ですら跳ね返せるようになった。

 ――もちろん、そこに至るまでは剣で腕を斬り落とされたり、槍で足を貫かれたり、モーニングスターで拳を潰されたりしたんだけどな。


「タクトなら即死しない限り蘇る」


 ちびっこがそんな余計な事を言ったおかげだぞバカヤロウ。それにそれはお前もジェンマ先生も一緒だろが。


 魔剣の攻撃っていうのは厄介だった。今回ヴェスパが使ったのは炎の魔剣らしいんだけど、普通に剣として斬られても熱くて痛い上に、中距離から魔法も放ってくる。

 剣から炎が噴き出したり、炎そのものが斬撃として飛んで来たり。普通の斬撃に対してなら耐性がある俺の身体も、魔法に対しては一切耐性が無い。

 受けどころが悪くて炎の斬撃で腕を斬り落とされたり、脚に重度の火傷を負ったり。それでも、『痛み』というものには耐性があるらしく、滅茶苦茶痛いはずの傷も麻酔を打たれたような、痛みがやわらげられている気がする。


「タクト。魔法の練習してもいい?」

「もう勝手にしてくれ」

「ん」


 ヴェスパとの訓練で満身創痍の俺は地面に横たわっている。その間にも斬られた手首より先はナノマシンによる再生が始まっているし、火傷を負った皮膚も綺麗になり始めていた。


「氷で冷やす」


 ちびっこは俺から見れば複雑そうな魔法陣を宙に描く。そしてそこから氷が突然出現して……


「おフッ!?」


 人間の頭くらいの大きさの氷の塊が俺の股間に降ってきた。


「ごめん、失敗した。おわびに縞々見せる?」

「いらねえから早く何とかしろばかやろう……」


 どうも、かき氷みたいな細かい氷で俺の下半身を冷やそうとしたらしいんだが、どこをどう間違えたらでけえ塊を股間に落とす事になるんだよ……


「ん、ごめんタクト。さすさす……」

「やめろおおおおおお!」





 幸いにもおっきする事なく、俺の身体の再生は終わった。斬られた部分も火傷を負った場所も綺麗なモンだ。さっきまで重傷だったとは思えない。その代わり、俺の衣服は悲惨だけどな。


「完治したかい?」

「ああ」

「じゃ、試してみっか」


 ボウッ! と魔剣の赤い剣身から炎が発せられた。俺の身体は業火に包まれる。


「ああ、ちょっと暑いくれえだな」


 熱さは感じる。と言っても身体は全く燃えていない。そうだな、真夏の日向で直射日光を浴びているくらいか。


「よし! 火の魔法に対しての防御はこれで大丈夫だな! 次は風魔法の耐性を付けるか!」

「やああああだあああああああ!」

「ふっ、逃がすかい!」

「ああっ……」





 結局俺は火、水、(氷含む)、風の攻撃魔法を受け、三つの属性に対して耐性を付けた。いや、無理矢理付けられた。

 ヴェスパ曰く、上級冒険者や軍人の中でも腕利きのヤツは魔法の心得があるヤツもそれなりにいるし、魔獣の中にも魔法やそれに類似するスキルを持つヤツもいるらしい。


「だからアンタがパーティのメンバーを死ぬ気で守りたいならこういう荒療治も必要なのさ」


 物理攻撃相手なら無双できるほど硬くなった俺だけど、魔法で来られたら不安しか無かったからなあ。だからパーティの中に魔法を使えるヤツがいて、安全……? いや、全然安全じゃねえけど、死なない程度に加減されながら魔法の耐性を鍛えられるのは有難い。

 斬ったり凍らせたり燃やしたりなんてのはやりすぎじゃねえかって思うけどな。


「せんせいは ひのまほうを おぼえた」


 俺がヴェスパにやられたダメージを回復させている間、ちびっこはジェンマ先生に魔法を教えていた。ヴェスパ曰く、この世界の人間はスキルによって魔法を覚えてしまうため、ジェンマ先生のようなまるっきりゼロの状態の人に魔法を教えるのは困難らしい。少しでも心得のある人間に対してのアドバイスなら出来るそうだ。うん、よく分かんねえな。

 とにかく、先生と生徒の立場が逆転しちまった訳だが、ちびっこのいかにもわざとらしいアナウンスによれば、先生は火の魔法を覚えたって事だ。


「ねえ、見て見て、拓斗君!」


 やけにご機嫌なジェンマ先生が俺の前に来て、なにやら指先で宙に図形を描き始めた。実際にその図形が見える訳じゃないけど、指の動きの軌跡を見れば、それが魔法陣である事が分かる。


「燃えろ!」


 なにそれ呪文の詠唱かなんか?

 突然目の前に蝋燭くらいの火力の火が。


「イメージしたものを顕在化させるには、詠唱という手段は極めて有効」


 なるほどなあ。ちびっこが研究を重ねた結果がそうだって言うんなら、そうなんだろう。

 でもこれで、旅路が随分便利になるな!



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