次なる目的地
第31話
俺達『ナノ』は旅の準備を終え、町の出口で冒険者ギルドの職員と対面している。
「お前らが一気に全員いなくなるのはこの町にとっては痛えんだが……まあ、頑張れよ!」
ギルマスのビューエルが、ギルド職員を代表して俺に声を掛けた。
マンモスボアを討伐してから半年ほど、俺達はこのカーブレの町で冒険者として活動し、多くの魔獣を倒した。聖都からカーブレまでの道程はかなり安全になったんじゃねえかな?
そんな感じで、頃合いだと思った俺達は、更なる強さを求めて拠点を移す事にしたんだ。
だけど、そもそもそれはビューエルのアドバイスもあっての事だったんだよな。
この国はざっくりと言えば、アプリリーを頂点とした宗教勢力と、国王を中心とした勢力に分かれているらしい。
「宗教勢力を敵に回すんなら、国王に接近しといた方がいいぜ。それに見合った実力を付けた後にな!」
イケメンエルフのクセに粗野な物言いでビューエルがそう言っていた。
それならばという事で、俺達のパーティは王都を目指す事になったんだ。
カーブレの町へ別れを告げ、王都へと向かう街道を歩く。王都は遠く、途中で冒険者ギルドがある大きな都市がいくつかあるらしい。そして魔獣が蔓延る危険地帯や、国宝級のお宝が入手出来るかも知れないダンジョンとか。
「当面の目的は俺達のレベルアップって事でいいよな?」
これには全員が賛成。マンモスボア討伐の後も魔獣を狩って経験は詰んだけど、まだまだ熟練冒険者には技量じゃ敵わない。そして対人戦の経験が圧倒的に不足している事もヴェスパから指摘された。
王都に行ったからと言って、国王派が味方になるとは限らないし、そもそも国王だろうがアプリリーだろうが、どっちの天下になっても一長一短。
ただ俺達としては異世界から人間を召喚……いや、拉致して戦いの駒として扱うアプリリーの非道さに反吐が出るからヤツを潰す。それだけだ。それには国王派の協力があった方がいいだろう?
「最悪、クラスメイト達が敵となる可能性もある」
ちびっこがそう言った時にジェンマ先生は絶句したけど、経験者であるヴェスパによればそれは十分可能性があるという事だ。
「それでも、あの猊下とかいうヤツを倒せばみんなを救える可能性はあるのよね?」
もはや哀願とも言っていいほどの切羽詰まったジェンマ先生の表情に胸が締め付けられる。そんなしがらみを振り捨ててしまえばもっと楽に生きられるだろうにとも思うけど、教師ってのは辛い生き物なんだな。
「いや、タクト。教師とかそういう職業の問題じゃない。本当の大人っていうのは、ジェミーのようであって然るべきなのさ。願わくば、アンタもメグも、ジェミーのような大人になって欲しいモンだね」
俺の表情を見て何かを察したのか、ヴェスパにそう諭された。そしてそれを聞いていたちびっこも考え込む。大人の責任とかそういうのはイマイチまだ分かんねえけど、ジェンマ先生やヴェスパがお手本になってくれるんなら見習っていきゃいいか。
ちょっと重たい話になったので、俺は話題を切り替えた。
「よう、魔法については何か分かったのか?」
スキルを貰った訳でもないのに自力で魔法を使えるようになったちびっこ。流石の天才だよな。
「魔法と言うとオカルティックなイメージがあるから普通じゃ使えない思い込みがある」
「ああ、そうだな。俺達からすると『そんなん無理』って思うな」
「ん。でもその実、殆どの魔法はサイエンスで説明がつく」
ほう……そりゃ興味深い。
「魔法陣はボク達の世界でいう公式、計算式みたいなもの。解析したから間違いない」
ちびっこが言うには、起こしたい現象の公式を魔法陣に変換して準備したところに自分の魔力を注ぐ。これで発動するそうだ。もちろん、難しい魔法ほど公式は複雑になるし、大きな魔法ほど使う魔力は膨大になる。
それでは十五歳から十八歳までに得るスキルというのは何かというと、魔法の現象を解析して魔法陣にする。その複雑すぎる工程を直観的に出来るようにアシストしてくれるソフトウェアみたいなモンらしい。
逆に言えば、スキルはなくても発動させようとしている魔法の公式を正しく理解し、それを魔法陣に変換できる知識があれば大丈夫だって事だ。だけどそれはこの世界の人間には分からない事らしいな。スキルがある者は使える、そうじゃない者は使えない。それが常識になっちまってるからだろう。
「もちろん、魔法以外のスキルも同じ。剣術のスキルなら剣の振るい方やどこの筋肉を鍛えたらいいかなんていう知識が直観的に分かるようになる。だからスキル持ちの方が強くなるのは道理」
で、その肝心な魔力ってヤツなんだけど、冒険者ギルドに魔力測定器ってヤツがあったんだよ。ちびっこが言ってたテンプレ通りだな。
結果はまあ、残念だった。
生き物である限りは多かれ少なかれ魔力は保有しているそうだ。異世界人は特に多い。ちびっこもジェンマ先生もそれなりに魔力を保有してた。
「おめえはホントに生きてんのか? もしかしてアンデッドじゃねえだろうな?」
ギルマスに言われたよ。俺は世にも珍しい魔力なしだそうだ。これはこれで希少なデータらしいんだが、世の中に知れると俺が獲物として狙われる可能性が高いらしい。主に研究対象として。
「言うなよ? 絶対言うなよ? フリじゃねえからな?」
俺はギルマスの胸ぐらを掴んで懇願した。まあ、噂まで完全に止められるとは思ってねえけどさ。
「ふふふ。魔力なしもテンプレとしてアリ。流石タクト、期待を裏切らない」
ちびっこが( ´艸`)←こんな顔で言う。あんまり嬉しくねえからやめやがり下さい。
真面目な話をすると、俺が魔力を持たないのはナノマシンのせいじゃないかってちびっこが言ってた。それを言ったらちびっこもジェンマ先生もナノマシンが注入されているんだが、考えられるのは日本で注入されたかこちらで注入されたかの違いではないかと。詳しくは分からんがね。
尚、魔力を持たない俺には無理だけど、ジェンマ先生なら公式や数式を魔法陣に変換する法則さえ覚えれば、魔法を使えるだろうって話だ。簡単な魔法、例えば火を起こすとか水を作るとか、そういうのだったら高等教育を受けて来た俺達なら可能だそうだ。いや、俺はそれを覚えても魔力がないから無理だった。スン……
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