第27話

 開戦の口火を切ったのはちびっこの狙撃。暗がりで放たれた超速のボルトは、先頭の一体の眉間を貫いた。


「今のを除けば全部で十二体ね」


 うん、ジェンマ先生もしっかり見えているようだ。これなら昼間と変わりなく動けるだろ。


「じゃあいきますか、先生。ちびっこ、援護よろしく」

「ん、任された。でもちびっこ言うなし」

「了解だ!」


 俺とジェンマ先生は並んで駆け出した。

 自分達に向かって来る存在など今までいなかっただろうか。イノシシ共が戸惑っているのが分かる。


「だよなあ! 今まで狩る側だったお前ぇらが今度は狩られるんだぜ!」


 大平原に入ってからは、全員で休憩している時以外は常に奥歯のスイッチはオンだ。

 俺が狙いを定めた一体が我に返ったように頭を下げ、戦闘態勢を取り、突進してきた。さて。お前らは40~50キロのスピード出してた11トントラックとぶつかり合いして勝てるのか?

 俺自身も走るスピードを緩める事なくメイスを両手で持ちフルスイング。頭蓋が潰れるイヤな感触が伝わってくる。巨体のマンモスボアが跳ね返され、たたらを踏んだ後、ブクブクと泡を吹きながら倒れた。よし、残り十一体。

 ほら見ろ。牛が来ようが象が来ようが、大型トラックに轢かれても大丈夫になってる俺の身体は強えだろ。仲間をやられて激怒しているのか、六体くらいが俺をロックオンしたみたいだな。よしよし、どんどん来いや!


***


 横目で拓斗君の戦いを見た。何あれ……あんなでっかいのと正面衝突して逆に跳ね返すとか、大概よね……

 流石は大型トラックに轢かれただけの事はあるわね。

 

 ……あたしは学校では明るい女教師で通ってた。男子も女子も、成績の良し悪しも関係なくフランクに接してきた。おかげで生徒達からの印象は良かったと自負しているわ。

 でも、この異世界に召喚されてからは教師という仮面を被らずに済む。本当のあたしはあんなに明るい人間じゃない。この見た目で随分と差別されて生きてきた。良くも悪くも。

 だから必要最低限の人間とだけ関わっていればいい生活は自分を曝け出せる。本当のあたしは人間が嫌い。


「でも!」


 あたしに向かって突進してきた一体にタイミングを合わせ、ジャンプ。そして落下しながら首のあたりにグレイブの刃を落とす。

 あたしは拓斗君みたいにトラックとぶつかっても大丈夫な程ナノマシンは学習していないから、避けながら戦わなくちゃならない。

 でもなんであたしはあんな辛くて痛い訓練を重ねてまで強くなろうとしているんだろう?

 もちろんこの世界で生き残るため。どこにいようが死にたくないもの。でも、聖都に召喚されたあの時、誰一人助ける事が出来なかった。あの瞬間までは間違いなく生徒を守るべき教師だったのに。

 あの時あの場に残った生徒達は、もしかしてこの先幸せな人生を送れるのかも知れない。何も蘭ちゃんが言うようなテンプレ通りの展開になるとは限らない。

 だからあたしは、生徒達がどうなったか確認するまでは、少なくとも教師であり続けるし、生き抜かなきゃいけない!


***


 ボクは接近戦が怖い。敵は大きいし、強いから。だからボクはクロスボウを選んだ。


 ――カタカタカタ


 弓弦を引く為のハンドルを回す。ハンドルを回すと歯車によって弓弦が引かれる簡単な機構。こっちの世界の技術はあまり発展していない。だからハンドルを回すだけでもかなりの膂力が必要。


 ――カシュッ


 小さな音を立ててボルトが射出される。矢の事をボルトと呼ぶ。普通の弓を使う時は矢と呼ぶのに、クロスボウの時はなぜボルトと呼ぶのか、そこはあまり興味がない。


「残り九体」


 続けて弓弦を巻き上げる。この強弓を撃てるのはタクトのおかげ。彼の身体の中にあるナノマシンは死なない為に自己を癒し、次からはそれに対抗出来るように身体を強化する。

 ボクは非力。でも訓練を繰り返す事で普通の筋力トレーニングでは不可能なパワーと耐久力、持久力と回復力を手に入れた。


「残り六体」


 元々ナノマシンを体内に飼っているチート野郎のタクトは別としても、ジェンマ先生も順調にマンモスボアを倒している。彼女は勇敢だ。タクトのナノマシンを受け入れる提案をした時、彼女はどんな方法であれ、タクトの細胞を受け入れる覚悟をした。

 正直ボクは怖かった。辛い事はイヤだった。でも死ぬのはもっとイヤ。でも覚悟が決まらない。だからボクはジェンマ先生にナノマシンを受け入れる提案をした。共に苦しみ、慰め合う存在が欲しかったのかもしれない。


「あと四体」


 ボクは自他共に認める天才。でもボクを超える天才が日本にいた。ナノマシンを開発した備毛田博士。はかせだけど名前も博士ひろしとかふざけてる。

 その超天才が作ったナノマシンに興味を惹かれた。そしてその超天才の研究成果を全てその身に宿すタクト。彼も研究対象として実に興味深い。だからボクは彼を死なせない。そして死なせない為にも、ボクは強くなる。


***


 十数体のマンモスボアがあっという間に殲滅されようとしている。全く、驚いた子達だよ。

 ギルマスから話を聞いた時は信じられなかった。冒険者でも軍人でもないモヤシみてえな三人が、マンモスボア四体を持ち込んだって言うんだからさ。で、その子達が冒険者になるから面倒を見てやってくれと。

 話によれば、タクトって子はギルマスの攻撃を耐えきったらしい。流石に素人相手に派手な魔法は使わなかったみたいだけどね。

 それすらも半信半疑だったんだけどさ、いざ立ち会ってみるとその異常さはすぐに分かった。攻撃は素人そのもの、防御にしても技術も何もあったもんじゃない。なのに恐ろしく硬い。

 それにも増して、もっとダメージを喰らうような強い攻撃をしてくれって頼んでくるんだよ。単なるマゾヒストの変態野郎かと思ったね。でもそれは違った。

 ヤツは一旦ダメージを喰らった攻撃は、次からはノーダメージで凌ぎ切るんだ。攻撃を躱せるようになった訳じゃない。まともに喰らって尚、ダメージが通らない。流石にアタイもプライドが傷付いたねえ。

 まあ、そんなタクトの謎はヤツの『血』にあるって事は分かった。その血を取り込んだジェミーとメグもおんなじようになっちまったからね。

 それにしても成長速度が異常だけどな!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る