第24話

 マンモスボアの討伐依頼を受ける事になった俺達『ナノ』は、商店街で食料や寝具、水や酒などを調達し、町を出て大平原へ向かった。

 重いものはヴェスパの魔法鞄に入れてもらっているので、そんなに荷物が邪魔って事はないな。俺も欲しいなあれ。ああ、俺は日本から持ち込んだ愛用のバックパックだぜ。


 この一ヶ月の訓練で、俺以外の二人もかなり頑丈になったし、パワーも上がっている。もちろん、ナノマシンに勉強させる為に血反吐を吐くような訓練も続けてきたし、誰も弱音を吐く事もなかった。

 そんな俺達をずっと見てきたヴェスパは何も詮索しない。ああ、イケメンギルマスから俺達が召喚者だって事を聞いているんなら、そんなに不思議な事でもないのかも知れないな。


 俺は俺自身の打撃力に武器が負けないように選んだ頑丈なメイス。

 ジェンマ先生は柄が2メートル程のグレイブだけど、先端の方がかなり重く出来ているヤツだ。大の男でも取り回しに苦労するような重量なんだけど、それを小枝のように振り回すパワーも身に着けた。ぶっちゃけ叩いただけでも相手は大ダメージだろう。

 ちびっこは大型のクロスボウ。弓弦を引く時にハンドルを回すんだけど、これがかなり重い。それだけ威力のあるボルトを射出する事が可能って事なんだけど、まともに扱えるヤツがいなくて武器屋のデッドストックになっていた代物だ。それを格安で売ってもらったんだが、ちびっこもそれを易々と引ける筋力を得ている。射程も威力も申し分ない遠距離アタッカーだね!


 そして防具類の方だが、持っている武器の尖り具合と比べれば、一言で言って普通。もちろん、それなりに上質ではあるんだが、本当に普通の革装備だ。胸当て、グローブ、肘当て、膝当て、ブーツ。そんなモンだ。これはそもそも俺達の生身の身体が既に金属鎧なんて目じゃない硬さなので、ハッキリ言えば防具なんて必要ない。

 でも、最低限の装備をしていないと、冒険者として見咎められたり舐められたりするから、仕方なくって感じだな。

 この辺は、ヴェスパも了承済だ。彼女の『普通』の攻撃はもはや俺達には通らない。彼女によれば、これはもう上級魔獣並みの耐久性であり、中級冒険者や騎士団の連中ですら、特殊な武器でも使わない限りは傷一つ付けられないだろうという事だ。


「よし、この辺でいいだろ」


 大草原のど真ん中、周囲には何もないし、スポーク村とカーブレ町を繋ぐ街道もかなり遠くになる。そこでヴェスパは荷物を下ろし、休憩を始めたので、俺達もそれに従う。


「マンモスボアを探さなくていいの?」

「ああ、奴ら……というか魔獣はどこからか人間のニオイを嗅ぎつけて寄って来るんだよ。こうやってのんびりしてりゃ、直に向こうから現れるさ」

「ふ~ん」


 ジェンマ先生とヴェスパはかなり打ち解けているみたいで、言葉遣いも女友達に対するそれだ。なんでも、ヴェスパの方がちょっと年上らしいけど、大人の女性同士の話でよく盛り上がるみたいだな。


「タクト」

「おん?」


 ちびっこが俺の隣に座って左腕を覗き込んで来る。

 

「例のデバイスのアップデートは終わった?」

「おお、ちょっと見てみるか」


 あの爺さんはアプデに一ヶ月くらいかかるって言ってたから、もうそろそろ終わる筈だ。

 左腕の怪しいデバイスをタップする。すると『いんすとーるちゅう』という文字と横に長いゲージが網膜に移される。青がアプデ済の領域、赤がまだって感じだ。まあ、パソコンとかでよく見るだろ?

 てか、なんでひらがななんだよあの爺さんめ……


「もう殆ど終わってるぜ。もう少しだ。そのあと更新作業みたいのがありそうだけどな」

「ん。たのしみ」


 俺の隣にぴとっとくっついて、体育座りでこっちを見上げて来る。最近一番俺と話しているのはちびっこだ。俺に懐いているというよりは、ナノマシンに関連する諸々に興味があるんだろうな。

 ああ、ちなみにジェンマ先生もちびっこも、無事に奥歯にスイッチが出来たらしい。食事の時は大変だってボヤいてた。


「おや? おいでなすったようだねぇ。ほら、イチャイチャする時間はおしまいだよ!」


 魔獣の気配を感じたのか、ヴェスパが立ち上がる。


「むぅ、無粋」

「ば、バッカ! イチャついてなんてねえし!?」

「はいはい、ほら二人共立って! やるわよ!」


 年長の二人に急かされて俺とちびっこが立ち上がる。ちびっこは何故か著しく不満そうだ。

 そして俺達の視界に入ったのは、犬っぽいなんか。大型犬くらいの大きさだけど、牙がヤバい。サーベルタイガーみたいににょっきり2本、鋭いヤツが。


「こういう魔獣もいるのね」

「ん、数も多い」


 ジェンマ先生がグレイブを構え、ちびっこがクロスボウにボルトをセットする。俺はメイスを弄びながらも周囲を油断なく見る。


「あれはサーベルファング。お察しの通り犬族の魔獣さ。1匹なら初級魔獣に分類されるが、これだけの数だと中級パーティでも厳しいかねえ……」

「そっか、んじゃあ俺が様子見てみるから、フォローよろしく」

「分かったわ」

「ん。任せる」

「じゃあ背後はアタイが守ってやるよ。遠慮なくブッ飛ばしてきな!」


 俺達のパーティの中でも役割分担がある。敵の攻撃を一手に引き受ける前衛職、タンク。敵へ攻撃を加えてダメージを与えるのがアタッカー。ジェンマ先生は近距離アタッカー、ちびっこは遠距離アタッカーに分類されるか。他には支援職や回復職なんてのもあるけど、俺達にはあんまり必要性を見出せないかな。


「おっしゃ! 来やがれ犬っころ!」


 俺は敵の注意を引き付け攻撃を受けきるタンクだ。両手持ちのメイスを構えてサーベルファングを挑発する。へへへ、俺は硬えぞ?


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