第23話

「ああン? 誰だあいつら?」

「お、おい! 奴ら、一ヶ月くらい前にマンモスボアを4体も倒したっていう……」


 久しぶりに冒険者ギルドの扉を開けた途端、不躾な視線と騒めきが俺達にぶつけられてきた。


「ここはいつもこんな感じなのね」

「ん。まさに冒険者ギルドって感じ」


 呆れ半分のジェンマ先生と、何故か満足気なちびっこ。

 あれから一度も依頼を熟していないので、俺達は相変わらず初級冒険者のままだけど、素人丸出しだった一ヶ月前とは違い、絡んで来るヤツはいない。身に着けている装備も訓練でだいぶ馴染んだし、風格みたいなものが漂ってるのかな?


「お、おい、隻眼のヴェスパだ。なんだって奴らと一緒に?」


 違った。

 俺達の後ろにいるヴェスパに気後れしてるだけだった。


「あら、お久しぶりですね、ナノの皆さん、そしてヴェスパさん」


 そこへ声を掛けて来たのはイケメンギルドマスター、ビューエルの秘書であるベルーガさんだ。


「やあ、ベルーガ。アタイが派遣されてもう一ヶ月だ。そろそろ依頼を受けさせようと思ってね!」

「ああ、もうそんなに経ちましたか。では指導期間も終了という事ですね」

「フッ。じゃあアタイらは依頼を探してくるよ」


 うん? 

 ヴェスパがなんか意味深な笑顔を浮かべてた気がするんだけど、気のせいかな?

 ま、いいか。

 俺達は依頼表が貼り付けてある掲示板へと向かった。

 掲示板にはそれぞれ初級用、脱初級用、中級用、上級用、超級以上用と分れている。中でも依頼が多いのが脱初級用と中級用だ。

 理由はシンプルで、初級用っていうのは危険が少ないため、わざわざ冒険者に頼まなくても一般人でも何とか出来てしまうものが多いからだ。それ以上になると、ちゃんと訓練を受けた冒険者じゃないと命の危険があるって事だな。


 俺達が依頼表を眺めて選んでいる間、ヴェスパは一歩下がって俺達の事を見守っているように見えた。授業参観で後ろから母ちゃんから見張られてるみたいだぜ。


「なあタクト」


 ビクッ!


「今なんか無礼な事考えてたか?」

「いえ、滅相もないっす! まず、その殺気を引っ込めて話し合おうじゃないか!」


 怖い! 怖いよヴェスパ! もしかして母ちゃんみたいっていうの、読まれたのか?


「ん? アンタ、その依頼受けるのかい?」


 ん?

 ビックリして掲示板から引っぺがした依頼表。それは上級のやつだった。


「あら、いいんじゃないかしら」

「ん、ボク達の成長を見るにはいい相手」


 ジェンマ先生とちびっこに言われて手にした依頼表を見ると、そこには【マンモスボアの駆除】と書かれていた。

 へえ、あいつら上級依頼なのか。オイシイ依頼だな。中級魔獣って聞いてたけど、依頼は上級?

 ああ、奴ら、群れてっからかな? 確かに単体を相手にするより格段に大変そうだ。


「でもなあ、ナノはまだ初級パーティだしなあ。実力はともかく、ギルドとしては許可は出せねえんじゃねえか?」


 俺は至極当たり前の事を言った。

 ちょっと、そんな意外そうな顔をするの止めて?


「確かにタクトの言う通りだな! けどよ、物事には何でも抜け穴ってヤツがあるのさ」


 ヴェスパがそう言って、俺の手からスルリと依頼表を持ち去り、そのまま受付窓口へと向かった。


「よぉ! この依頼を受けるぜ!」

「ヴェスパさん、こんにちは。これは……ソロでお受けになるのですか? いくらヴェスパさんでも……」

「いやいや、ちゃんとパーティで受けるさ。アタイがこいつら『ナノ』をパーティに入れる。これでいいだろ?」


 上級の依頼を上級冒険者が受けるのは制度上問題はない。けど、中にはパーティで対応する事を推奨されているものもある。マンモスボアってのはそういう括りに入ってるヤツって事か。


「ははぁ……ナノの皆さんだけでは受けられない依頼ですからね。なるほどです」


 受付のお姉さんがニヤリと笑う。


「それでは、依頼表にサインを。マンモスボア1体あたりの報酬は固定でこの金額、あとは当ギルドに売却する際は状態によって査定額が変わります。もちろん、市場に伝手があってそちらに売却でも構いません」


 ほー、そうなのか。俺達は伝手なんてものはねえからな。ギルドに売却一択だけど。ホントはそういうのは商売として健全じゃねえんだろうけど。


「あの、ナノの皆さん? 皆さんはこれが初めての依頼です。マンモスボアは中級魔獣とは言え、基本的に群れで行動するので危険度は上級、またはそれ以上になります。ヴェスパさんがいるかと言って、決して油断されないようにして下さいね?」

「はい。ありがとうございます。俺達も勉強のつもりで頑張ってきますよ」


 受付のお姉さん、心底俺達を心配してくれてるみたいだ。こっちは1ミリも油断するつもりはねえけど、そんな心配は杞憂だって事を教えて差し上げましょうかね。


「フフフ……ボク達は最強無敵のパーティになる。心配ご無用」


 ちびっこは(`・ω・´)←こんな顔でそんな事言ってたけどな。もちろん受付のお姉さんは半笑いさ。ははは。

 そしてもう一人、ジェンマ先生は闘志を内に秘めたような、そんな表情をしていた。

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