ヴェスパ
第22話
装備品を揃えた際に結構な額を出費したが、マンモスボアの売却額もあってまだまだ経済的には余裕がある。なので俺達はギルドの依頼を受ける前に、徹底してヴェスパの訓練を受けていた。そうだな、このカーブレで冒険者になってから、かれこれ一ヶ月が過ぎようとしている。
その間にもいろんな事があったよ。
例えば、俺の身体は斬撃、刺突、打撃に対して完全な耐性を持っていた訳じゃなかった。今までの耐性は、過去にダメージを受けた際の攻撃エネルギーとでもいったらいいかな。その威力に対して防ぎきるだけの耐性を持つだけの話だった。
例えると、初めに100の威力で斬られて怪我をしたとする。ナノマシンはその100に対して耐え得るだけの強度を持った身体に進化させてくれるけど、次に200の威力で攻撃されてしまうと、そのうちの100の分を相殺する事は出来るけどそれ以上は普通にダメージを喰らってしまうって事だ。
調子に乗った俺はヴェスパと模擬戦をして、あっさり怪我しちゃったんだよね。その時にその事実が判明したと同時に、ヴェスパの攻撃はどれ一つとってもえげつない威力だという事も分かった。
まあそのおかげで、ヴェスパに鍛えられてきた俺達は、並の冒険者では傷一つ付けられない防御力を手に入れたんだけどね。しかも生身で。これにはさすがにヴェスパも呆れていたし、夜になるとナノマシンを求める彼女の誘惑が激しくなった事を付け加えておく。
それからもう一つ。魔法に関してだ。
このファンタジーな世界ならではの魔法によるダメージに関しては、ナノマシンで強化された身体も最初は全く無力だった。もっともそれも最初の一撃だけで、ナノマシンはしっかり耐性を付けてくれたけど。
火の魔法の火傷によるダメージや、氷の魔法による凍傷、雷の魔法による電撃ダメージなどは苦しくて痛い思いをしながら耐性を付けていった。
ただ、土や水、風の魔法による物理的なダメージにはしっかりと耐性が出来ていた。あくまでも物理ダメージに限るが。
真空にしたり水没させたりしたら普通に窒息死するし、大量の土砂で押し流されたり気流で吹き飛ばされたり、そういった魔法には対抗出来そうになかった。
更には毒や麻痺、暗闇などの魔法。これはヴェスパも扱えないのでちょっとどうなるか分からない。ただ、毒に関してはナノマシンが解毒しちゃうか、毒に冒されても平気な身体に進化しちゃう気がする。
というか、武芸百般とは言うけど、まさか魔法もこれほどバラエティに富んだ手札を持ってるとか凄いなヴェスパ。
「何言ってんだよ。アンタらは一撃必殺で仕留めない限り、次に会った時にはもう勝てない存在になってるんだ。アタイに言わせりゃよっぽどアンタらの方がバケモンだね!」
ヴェスパはそう言うけど、この人だって全力でやってる訳じゃないのは分かる。俺達を即死させる手段だっていくつも隠し持ってるだろう。これはちびっこがこっそり教えてくれた話だけどな。
「それよりさ、拙いとは言えスキルの恩恵も無しに魔法を使えるメグには驚いたよ。アンタ、天才かい?」
「ん、ボクは天才」
こっちの世界の人々に言わせると、生き物ならどんなものでも魔力というものを持っているらしい。俺達の世界で言うなら生命力とか、そういうものになるらしいんだが、それだってあるのかないのか怪しいモンだと思ってた。
だけど、俺達召喚者はこっちの世界の人間と比べて魔力の保有量が多いそうだ。そして魔力が多い程優秀な戦士や魔法使いになりやすいらしい。なるほど、クラス毎まとめて召喚して、手っ取り早く強い駒を作りたいって思惑だった訳だ。この辺もちびっこが言ってた物語のテンプレってヤツと合致してるな。
そもそもの話、魔法ってヤツは何がどうやったら発動するのか、学術的に解明されている訳ではないらしい。じゃあ魔法使いはどうやって魔法を使っているかっていうと、神様とかいうヤツからスキルを貰うと本能的に使えるようになるっていう、どうにもふわっとしたものだった。あとはイメージする力と魔力の量によって威力や種類に個人差が出て来るそうだ。
「ボクは魔法のメカニズムを理解した。だから発動自体は何とかなる。でもスキルのアシストは重要だった。本職の魔法使いのようにはいかない」
ちびっこ、天才。ちなみにその魔法のメカニズムを発表して商売したら大儲けするんじゃないかって話をしたら、目立ったら刺客が来るのが分からないのかバカと言われた。ちくせう。
それからジェンマ先生。この一ヶ月、一番必死だったのは彼女かもしれない。学校で教師だった時の明るさは保っているけど、それは表面上だっていう事が分かる。とにかくストイックに強さを求めている。そんな感じだ。
ヴェスパに言わせると、戦闘技術で一番伸びたのはジェンマ先生だそうだ。実際、先生と手合わせすると分かるんだが、彼女のグレイブ捌きは見事だ。俺がメイスを持って模擬戦しても、一本取るのは殆どジェンマ先生だよ。
「あたしは生徒達を守りたいの。もちろんあんた達もよ。蘭ちゃん、拓斗君」
大人ゆえの、そして教師ゆえの責任感というヤツか。
あ、ちなみに俺達の間で模擬戦する時は、いつも実戦仕様の武器を使う。ナノマシンで魔改造された身体という事もあるけど、その強化された肉体を超える程の攻撃力を得る事、そしてその威力に対する耐性を得る事も目的にしているからな。
「ヴェスパだってそろそろ指導期間が終わるだろ? 俺達もいつまでもあんたに甘えていられないからな」
多分俺達は駆け出しの冒険者としちゃ異常な強さになっているはずだ。主に耐久力において。だけどそう望んだのは俺達自身だし、こんなファンタジーな世界で生き延び、且つジェンマ先生みたいな国家を敵に回しても、みたいな覚悟があるなら尚更な訳で。
そこにヴェスパを巻き込んじゃいけない。それが俺達の思いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます