第11話
会話の内容は理解出来なかったけど、ちびっことジジイの間では情報交換が行われたっぽい。
爺さんからはナノマシンの情報。ちびっこからはこちらの世界で知り得た情報。その上で、この窮地をどう切り抜けるかの案なんかも出されている。
だけどなあ、相談もいいけどあんまりモタモタしてると村人が集まってきて、より脱出が困難になりそうな気がするんだが。
俺一人ならそう危険はない事が分かったけど、ジェンマ先生とちびっこは改造手術が施されていないか弱い普通の女の子だ。今自分で改造手術とか言ってちょっと涙が出た。普通の人間の俺、さようなら。
「拓斗よ」
「あん?」
どうやら爺さんとちびっこの話が終わったようで、爺さんが俺に話しかけて来た。
「お主のデバイスはお主自身の生命力を動力源にしとるでな、お主が死ぬまで機能は持続するじゃろう。しかし、こちらからお主に通信できるのはしばらく無理になりそうじゃ」
「な、なんで!?」
「儂個人で異世界まで通信を飛ばすのはちと大変なのでな。それに、こちらに残っているソースもギリギリなのじゃ」
「……」
ソースってなんだよ。
「細かい事は蘭に聞くのじゃ。今からそのデバイスのアップデートファイルを送る。それを取り込めばこの先3人くらいならどうにかなるが、アップデートが反映されるまでいささか時間が掛かる。この場はお主の才覚でどうにか切り抜けろ」
「おまっ、また勝手な事言ってんじゃねえぞ!」
「アップデートは凡そひと月ほどは掛かるじゃろ。ではの。達者でな」
「おい! おい!」
だめだ。切れちまった。
通信を終えて肩を下ろした俺を、ジェンマ先生とちびっこが心配そうに見つめる。はあ、そんな顔で見られちゃ、弱気を見せる訳にはいかねえじゃねえか。
「さて、二人とも行こうか。これから村長と『お・は・な・し』をして、旅に必要なものを譲ってもらうからさ」
俺に思いついたのはこれだけだ。村長と、取り巻きのゴツい男が二人。おそらく奴らがこの村の最高戦力のはずだ。何しろ村長を守ってるくらいだからな。
そいつらをあっさりブッ飛ばした俺が脅せば、案外交渉は出来るかも知れない。もし話にもならない時は仕方ない。俺が暴れていろんなモノを強奪していくしかねえだろうな。
――たとえこの村のヤツを殺してでも。
ジェンマ先生とちびっこを助け出した俺は、村長達がいた部屋へと戻った。もうかなり明るくなっており、この集落の人間が起きて動き出している気配も伝わってくる。
当の村長と言えば、自力で刺された足の手当をしていたし、俺にブッ飛ばされた二人は意識を取り戻しはしたようだが、まだ蹲っている。
「よう」
「ひぃっ」
俺に声を掛けられた村長が短く悲鳴をあげ、蹲っていた二人は息を飲む。うん、完全に俺達が主導権を握ってる状態だな。
「なあ、あんたら、いつも旅人を殺したり売ったりしてんの?」
持っていた剣を村長の首筋にピタリと当てながら訊ねる。
「し、仕方ないんじゃ……この村は貧しい上に平原には恐ろしい魔獣もおる。生きていくためには……」
うん、ギルティ。しかも常習犯だね。それぞれ事情はあるにせよ、同情の余地なしだな。それよりも気になるワードがあった。魔獣って何だ?
村長に訊ねると、次のように答えてくれた。
「魔獣とは、野生の獣よりも遥かに大きく狂暴で、人間を見れば好んで襲う厄介な連中じゃ。この辺りにはイノシシの魔獣の群れがおり、畑を荒らし、家畜を、そして人をも喰らってしまうのじゃ」
「で、お前らは旅人を喰らって生きてるのか? 魔獣となーんも変わらねえな」
「……」
それにしても、あのイノシシって魔獣なのか。群れたら厄介かも知れねえけど、一体だけならどうにでもなるんじゃねえかな?
まあ、それはいいや。その事よりも情報も欲しい。俺達はどこに召喚されて、ここはどこで、どこへ向かえばいいのか、とかな。
「タクト、その剣を貸して」
俺があれこれ考えていると、不意にちびっこがそんな事を言う。何に使うのか分かんねえけど、とりあえず剣を手渡した。
「村長からはボクが色々と聞き出しておく。タクトはその男を二人の首根っこを摑まえて、村中から食料、着替え、武器、水、それから荷物を運べる馬か何かを貰ってきて」
ああ、なるほど。
「んじゃ、任せるわ」
「ん、任された」
「さて、てめえら、いつまで座ってやがる。とっとと立て」
蹲ってる男達にひと睨み。さらに拳を握って見せると、怯えた顔で立ち上がる。
「これから旅に必要なモンを徴収する。お前らの持ってるモンよこせ。無かったら村のヤツらからブン取ってこい。お前らの事情は一切考慮しない。文句がある時ゃ言え。全力でブッ飛ばす」
我ながら悪党だなとは思うんだけど、殺してまで奪おうってんじゃないからこいつらよりは良心的だろ?
て言うか、スイッチが入ってる状態の俺が全力を出したら、どれくらいのモンなのか、いつか検証しなくちゃいけねえよな。
村の連中は、怯えた顔で俺の前を歩く二人を見て、それ以上に怯えてやがる。この感じからすると、こいつらやっぱり村の中でもかなりの実力を持ってたんだろうな。
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