第12話
食料や水なんかはこのヤロー共の家や村長の家で徴収出来た。あとはちょっとした食器とかな。俺の服は刺された時に破れちまったし血塗れになっちまったから、こいつらの程度のいい服は全部没収だ。あとはジェンマ先生とちびっこも、今の制服やスーツは悪目立ちしそうだから、ここで用立てていかなくちゃいけないんだけど、女子供の物を無理矢理に奪っていくのはなあ。
それでも無いよりはマシだろうから、村人の家を回って古着を数着もらい受けた。粗末なモンだけどね。
「さて、あとは武器だな。短剣二本と俺用の剣か槍、持ってこい」
「へ、へい」
武器の品質なんか全然分かんねえけど、俺の注文通りの品を持って来た男達からは、早く解放してほしいオーラが漂ってきてる。
「あと、旅に必要なものってなんだ?」
「そ、そうっすね、火を起こす着火石とか、野営の時に鍋を使ったり、あとは馬とか……?」
「あ、そ。じゃあそれもな!」
「……へい」
ぐぬぬぬ、って顔で男二人が準備に向かう。しかしそこで騒ぎが起こった。
「た、大変だ! マンモスボアがウチの畑を! 4体もいる!」
マンモスボア? ゾウなのかイノシシかはっきりしろって名前だけど、今の一報が駆け巡ってからの村の騒ぎは尋常じゃない。まるで火事場みたいな大騒動になっている。
女子供は逃げる準備、働き盛りの男達は武器や武器になりそうな農具を持ちながら駆け回る。俺は急いで村長の家に戻った。
「おかえり、拓斗君」
「おかえり」
「おう。ジェンマ先生、ちびっこ、これを」
俺は剣帯と短剣をそれぞれ手渡す。別にこれで戦えっていう訳じゃない。でも持ってるだけでハッタリにはなるだろ?
「ところで爺さん。マンモスボアってヤツが来たらしいんだが」
「……アレが2体も襲ってきたら、村は全滅じゃ。それが4体も……もうこの村は終わりじゃ」
そんなにおっかねえバケモノなのか。俺達も早く逃げた方が良さそうだ。幸い、着替えと水、食料は揃った。何とかなるだろ。
「二人とも、見た目はちょっと悪いが着替えてくれ。そんなヒラヒラしたのじゃ大変だろ」
そう言って入手してきた古着を渡すと、何やらキャイキャイ言いながらファッションショーが始まった。さすが女子。でもな、ちょっと急いで欲しい。
「なあ、もう少し急がないとバケモンが――ブフゥ!?」
「ちょっと着替えてるんだからこっちあっち向いてて!」
スーツを脱ぎ、ブラウスのボタンを外していたジェンマ先生に張り倒された。痛くはないけどな。ちなみに上も紫だった。大人だ。
「もういいわよ」
ジェンマ先生のお許しが出たので振り返ると、金髪を緩く三つ編みにして右肩に流した上品さとは裏腹に、地味な薄手のセーターにコットンのような生地のパンツ。それに剣帯という、ハッキリ言って違和感が服を着て歩いているような感じだ。
ちびっこの方はもっとひどい。どうやらサイズの合うものが無かったようで、長袖Tシャツっぽいものとオーバーオール。袖も裾も長すぎて、折り畳んでいるのにブカブカだ。さらにジェンマ先生と同じく剣帯を巻いているのがまた……
「まあ、動きやすいのが優先だしな。うん」
「「……」」
俺の反応に、二人とも無言だ。自分でもイマイチなのが分かっているんだろう。でも縞々ぱんつを晒すよりはマシだろう。次の街に行くまで我慢して欲しい。
「――ッ!?」
その時、蹄の音と地響き、さらには何かが激突して崩れるような音が鳴り響いた。同時に、集落のあちらこちらで悲鳴が。
「二人ともここにいろ!」
俺は村長の家を飛び出して、集落の様子を見る。すると、昨日殴って気絶させたやつと同じようなイノシシが4体、好き勝手に暴れまわっている。人を追いかけ回したり納屋に体当たりして破壊したり。
武器を持って応戦しようとしている男達もいるが、腰が引けててどうにもなりそうにない。
というか、村長が諦め顔で言ってたバケモンってアレの事か?
確かに毛が長くて、マンモスみたいなイノシシだけどさ。ああ、マンモスボアとか言ってたっけな。
「ったく、どんなバケモンが襲ってくるのか思えば……」
俺は、蹲っている女の人に襲い掛かろうとしているイノシシに石をぶつけて注意を引いた。
「オラ、俺が相手してやる」
予想通り、挑発に乗ったイノシシは、まるで闘牛のように突進してきた。最初はビビったけどさ、二回目ともなればなんか大丈夫だよな。そもそもコイツはワンパンで倒せる事が分かってる相手だし、油断してたって負ける気がしない。
「オラァ!」
両拳を握り合わせ、イノシシの脳天に叩きつけるように振り下ろした。
今回は全力だ。何しろコイツは人を襲う魔獣らしい。生かしておいてもいい事なさそうだし。
『ガフッ……』
イノシシは白目を剥き、そのまま地面に顔をめり込ませて動かなくなった。さっき貰った剣でトドメを刺そうとしたんだが、その必要はないみたいだ。
その様子を見ていた、襲われそうになった女がポカンとしてこっちを見ている。でもこの人に構っている暇はなさそうだ。今も集落のあっちこっちで悲鳴が上がっている。
俺は悲鳴の元へ駆けて行った。
俺の後ろには4体のバカでかいイノシシが山積みになっている。
俺の両脇には、ジェンマ先生とちびっこが微妙な表情で立っている。
俺の眼前には、集落の人間が全員正座している。
つまり、ここの連中が災害の如く恐れていた魔獣とはこのイノシシ共の事であり、それをワンパンでぶち殺し、一人でここまで運んできた俺に対しては、災害以上の恐怖を抱いてこうした状況になっている訳だ。
何しろ、村長と腕自慢の二人は俺を殺して女は奴隷商人に売ろうとしていたクズ野郎だし、村人もそれを公然の秘密として受け入れていたそうだ。今までどれだけの旅人が犠牲になってきた事やら。
で、村人達は俺の報復を恐れてサ・土下座をする他にない訳で、俺もどうしたものか悩んでいる。
「う~ん、どうしたモンかな?」
「どうしよう?」
「殺るべき」
ちびっこが物騒だった。
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