第10話
刃物を持った男二人を相手に無傷で圧倒した俺を見た村長が、目を見開いて驚愕している。
俺は、俺を殺そうとしたゴンザの頭を掴んで村長の前に引き摺って来た。
「貴様、腹を刺され、腱を斬られたというのになぜ生きて動ける? まさか召喚された戦士か! そうだ、そうに違いない! きっと治癒魔法で生き延びたのじゃ!」
なんか一人で勝手に解釈しちゃってるけど、色々と気になるワードが出て来た。
「俺が何者とかどうでもいいだろ? 仲間はどこだ?」
「し、知らん! 何の事じゃ?」
はあ、しょうがねえなあ。俺って面倒な事が嫌いなんだけど、そうも言ってらんねえよな。
「なあ村長さん。人間って腹を刺されたら死ぬんだよな? でも俺はどういう訳か生きている。だから試してみようじゃねえか。村長さんもそうなのか、アンタの腹でよ?」
俺はさっきぶん殴ったヤツの剣を拾い、刃を村長に向けた。
「き、貴様! 村長である儂を殺す気か! 生きてこの村からは出られぬぞ!?」
「だからさ、腹を刺したくらいじゃ死なねえって。この通り俺はちゃんと生きてるしさ」
「ぎゃ、ぎゃああああ!」
はは。やっぱりまだダメだ。ビビっちまった。俺が刺したのは村長の腹じゃなくて、足の甲だ。ここに転がってる奴らは躊躇なく俺を殺しに来たのになあ……
「おい、仲間はどこだ?」
「ひい、た、助けてくれ……」
「仲間はどこにいるって聞いてるんだけど?」
刺した剣を更に深く突き刺しながら訊ねる。
「ぐ、ぐあああ……う、裏じゃ、裏の納屋に……」
「あ、そう」
俺は剣を引き抜きそのまま右手に持ち、村長が言う裏の納屋とやらに行ってみた。剣を持って行ったのは、また見張りとかがいたら厄介だなって思ったからだ。
しかし見張りの類はいなかった。納屋の扉を開けたその先には、ジェンマ先生とちびっこが猿轡を噛まされた上に手足を縛られて転がされていた。何が丁重にだあのゴンザのクソ野郎。もう一発ブッ飛ばしてやる。
「二人共、大丈夫か?」
「ん~ん! ん~~!」
「ん! んん!」
二人は目に涙を溜めて何かを訴えてるが、何言ってるか分かんねえからちょっと待ってくれ。
俺が猿轡と拘束していたロープを解くとまずジェンマ先生が飛びついてきた。
「拓斗君! 拓斗君! 良かった! 生きてた!」
涙で顔をぐしょぐしょにしながらきつく抱きしめられた。うん、かなり感触が素晴らしいんだけどちょっと自重してください、先生。
次いでちびっこの方に目を向けると、彼女も瞳に涙をいっぱい湛えながら抑揚の少ない喋り方で言う。
「もうタクトは殺したって言われた。ボク達は奴隷として売られるとも言われた。もう絶望しかなかった」
「ああ、マジで死ぬかと思ったぜ。メチャクチャ痛かったしな」
俺がそう答えると、抱き着いていたジェンマ先生がガバッと離れ、おでこが接触するほど顔を近付けながら低いトーンで言う。
「拓斗君、何されたの? あたし、自分の生徒に危害を加えるなんて許さない」
「ああ、ちょっとな。ブッスリと腹に剣を刺されて、両足の腱をバッサリ斬られた」
「「……どうして死なないの?」」
……おい。その反応はどうなんだよ?
「どうやら即死しないかぎり、ナノマシンが俺を生かそうとするみたいなんだよ。ちなみに、生き残りさえすれば俺の身体がアップデートされるのは確認した。もう剣で斬られようが刺されようが、まったくの無傷だぜ」
「やはり資料に書いていたのは本当の事……」
ジェンマ先生はあんぐりだけど、ちびっこは思案顔だな。天才少女が何を考えているかなんて俺には分からねえけど、異世界に放り出されたこの状態だ。彼女の頭脳が大きな助けになると信じたい。
そんな時、耳によく馴染んだメロディが左腕のデバイスから流れてきた。
競走馬が擬人化して美少女になって、ぴょいぴょい歌ってるあの曲だ。
「あん?」
アラームかな?
でもこんなん設定した覚えはないけど……
「拓斗君、着信じゃない?」
「そんなバカな、ハハハ。ここ異世界っすよ?」
「でもタクト、その腕輪みたいなヤツの小さいディスプレイに、
備毛田? だれだっけ?
「あーっ! もしかして!」
俺は急いでデバイスのディスプレイをタップする。すると、あんまり聞きたくないけど今の状況だとなんとなく嬉しい気もするしわがれた声が聞こえた。
「ほっほっほ。どうやら無事だったようじゃの」
そう、通話の相手は、俺にナノマシンを注入したあのイカれた爺さんだった。
命の恩人である事は間違いないんだが、素直に感謝はしたくねえんだよな。
「おう、おかげ様でな。で、どういう事だよ?」
この爺さんはに聞きたい事が山ほどある。だけど何から聞いたらいいか分かんねえからざっくりしすぎた質問になっちまった。
「うむ、お主の学校のクラス丸ごと行方不明になったというニュースが駆け巡ってな。急いでお主に連絡しようとしたのじゃが、圏外におるとなってしまう」
まあ、そりゃそうだ。こっちには携帯の電波の基地局なんてありゃしねえからな。
「じゃが、お主の生体反応はちゃんと届いておる。途中で何度かデータに乱れがあったがの」
ああ、イノシシぶん殴ったり殺されかけたり、いろいろあったからな。てか、圏外なのに生体反応は届くのか。どうなってんだよ。
「それで、お主の生体データがどこから送信されておるのか逆探知した訳じゃ。随分と変わった所におるのう?」
そこで俺は今までの経緯を説明した。クラス全員召喚されたが、俺とジェンマ先生、それにちびっこの三人が年齢不適合って事で無資格者として追放された事や、おっかねえ獣がいる事、更に村人に殺されかけたり奴隷にされそうになった事など。
「なるほど、異世界に召喚か。なんとも興味深い。代わりに儂が行きたかったくらいじゃが、仕方あるまい。お主の他の二人は一緒なのかの?」
「ああ、一緒だ。ただ、取り敢えずの危機は脱したが、今は絶賛敵のど真ん中だな。どうやって脱出するか思案中だ」
「そうじゃのう……そこにおる飛び級の少女というのは目黒 蘭という子じゃな?」
「ああ、知ってるのか?」
「うむ、有名人じゃ。少し話をさせてくれんか」
そんな訳で、マッドサイエンティストと天才少女、二つの頭脳が接触した。
俺ら一般人が聞いて理解できる話ではなさそうだけどな。
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