第4話
「貴様等! ここで降りろ!」
護送車が止まったのは市街地を遥かに離れ、周囲には何もない場所。草原、さらに遠くまで見渡せば森が見える。
御者席には三人の衛兵がいたようだが、そいつらは俺達三人を護送車から叩き出すと、そのままUターンして戻ってしまった。
さて、これからどうするかね。
俺と蘭ちゃんは学校の制服。ジェンマ先生は膝丈のタイトスカートにスーツ。城からここまでの道中でいろんなものを注意深く見てきたが、俺達の服装はかなり目立つな。
なんていうのか、街で見かけたこっちの人が着ている服は、一言で言えば地味。明るい色で染めた服もあるにはあるが、殆どが単色で、様々な色を組み合わせたようなカラフルさがないんだよな。
あと、デザインもそうだ。凝ったものはほとんど見なかった。
顔立ちはみんな西洋風で、ジェンマ先生に限っては違和感はないけど、俺や蘭ちゃんみたいな純日本風な顔立ちははっきり言って目立つ。
とは言っても、着替えなんかある訳ねえ。俺は運よくバックパックを背負った状態だったけど、ジェンマ先生と蘭ちゃんは手ぶらだ。運が良ければポケットに何か入っているくらいか。俺のバックパックだってそんなに大したモンは入ってねえんだけどさ。
「ねえ蘭ちゃん。こういう時ってありがちなのはどういう展開?」
いかにも物語っぽいこの展開に詳しそうな蘭ちゃんに、ジェンマ先生が訊ねている。何か打開策でもあればいいんだがなぁ。
だけど、彼女の話は希望的観測すら持てない感じだった。
まず第一の分岐点である魔法陣の中にいた生徒達と弾かれた俺達。
俺達が無資格者と言われた都合上、彼等の事を有資格者と呼称しようか。その有資格者たちには往々にして強力な能力が付与されたり発現したりするらしい。そのため、一般的なこの世界の住人を遥かに凌駕する能力を持つに至るという。
「でもその場合は、強力すぎる力が自分達に向かないようにするため、魔法などで従属されてしまうケースが多い」
蘭ちゃん曰く、最悪奴隷にされたりするらしい。俺達を召喚したやつらは、飼い犬に手を噛まれないように予めそういった手段を準備してるだろうって事だな。
「でも、なぜそんな事をする必要があったのかしら?」
「それはいくつかのケースが考えられる。自分達だけでは対処しきれない強力な敵を倒させるため、もしくは敵対する勢力を滅ぼすため、など。いずれにしても、兵器扱いされるのは間違いない」
ジェンマ先生の問いに対する蘭ちゃんの答えは、たとえ
では、無資格者である俺達の場合はどうか。
「普通なら、何か隠されていた能力なんかが発現したりして物語的には主人公ルート。だけどこれは物語じゃなくて現実。野垂れ死にエンドの可能性が高い」
しかも、こうやって捨てられた場所は危険な場合が多く、高確率で賊やバケモノに襲われるんだと。
「隠された能力ねえ……ねえ、蘭ちゃんや拓斗君はなんかないの? そういうの」
「ボクはちょっと小さくて可愛くて頭がいいだけ。そんな便利なチートなんてない」
「先生こそ、ようやく交通事故から復帰した高校生とちびっこに何期待してんすか」
「そうよねえ……」
相手が街の不良少年ならともかく、人殺しを何とも思ってねえ犯罪者とかバケモノを相手に丸腰でどうしろと。先生が生徒を頼るなって話だ。
「取り敢えず街なり村なり探して移動しません? ここでぼーっとしててもベッドも飯も出て来ねえんだし」
「ん、このおにいさんの意見に賛成」
なんだろな。俺の意見がこのちびっこに同意されるとすげえホッとするんだよな。もしかしてこの中で一番頼り甲斐があるのはちびっこじゃねえのか?
ここにこのまま突っ立っていても、全く建設的ではないのはジェンマ先生も同意のようなので、俺達はてくてくと召喚された城がある方向とは反対側に歩き始めた。
行けども行けども未舗装の道。そして草原。草原にはたまに木が生えてたり大きな石が転がってたりするけど、基本的には変わり映えがしない景色だな。
それでもちびっこの意見としては、猊下と呼ばれるほど高位の人物がいたのだから、召喚されたのは首都かそれに準ずる大きな都市だろうという事。そして馬車で半日程度の距離ならば、近隣にそれなりの規模の集落があってもおかしくはないという。
そんな時、俺の後ろを歩いていたちびっこから声が掛かる。
「おにいさん」
「あん? どうしたちびっこ」
「ちびっこじゃない。蘭」
「そうか、蘭。俺は拓斗だ。で、どうした?」
「タクト。疲れた。おぶって」
……
いきなり呼び捨てもどうかと思うがそれはまあいいだろ。でもおぶってってさ、歳頃のお嬢ちゃんなんだからもっと恥じらいとか慎みとかあってもよくねえ?
「あー、蘭ちゃんはね、この通り天才ちゃんだから周囲の子と中々馴染めなくて、コミュニケーションがちょっと残念な子なのよ」
それを面と向かって言っちゃう先生もちょっと残念だぞ?
蘭ちゃんもそれを気にしていないのか、その場にしゃがみこんでこっちを見上げている。てか、縞々のパンツが見えてるから一応隠せ。
「ったく、しゃーねーなあ。お前も勉強ばっかしてねえでちっとは身体も鍛えろ」
そう言いながら蘭ちゃんの前に屈む。
ぼすっ。
なんかもの凄い軽い物体が背中にのしかかってきた。なんだこれ。中学生とか言ってたけど、ホントは小学生じゃねえのか?
「……」
そして更に。女の子をおぶっているというのに、感動とかドキドキとか、そういうのが全くない。
柔らかいとかプニプニした感じとか、ないんだ……
「なぜがっかりされているのか」
背中で蘭ちゃんがそう呟き、更にその後ろでジェンマ先生がクスクス笑っている。
「じゃあ、蘭ちゃんの次はあたしをおんぶしてね♪」
からかってやがるなジェンマ先生。
でもあれだ、得体の知れない世界に放り込まれて不安な気持ちでいる中で、こうして笑いが起こるだけまだマシかな。
でもそんな和やかな雰囲気は、唐突に終わりを告げた。
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