第6話 国の分割

「国王陛下の遺言によりますと、このリーグラード王国を4つに分割せよとのこと」

 とんでもないことが提案された。

 王の間に集った多くの人間が言葉を失う。

「1つ、この首都クロービスを含むリーグラード東地区。33州、350万石を長男メイソン王子に与える。国名を東リーグラード王国とする。2つ、南西部28州、280万石は次男イライジャ王子に与える。国名を西リーグラード王国とする。首都はチェスターに置くこと」

 ここでどよめきが起こる。誰もが……いや、一部の大貴族しか知らない陰謀が明らかにされているのだ。

 ちなみに「石」とは生産される米の量。リーグラードの主食は米である。1石はおよそ150kg。

 およそ貴族と呼ばれ体面を保つ生活を送るには、最低でもおよそ米が1000石は取れる領地が必要だ。

 もちろん、領地によっては米以外の農産物や商業などから得られる収入もあるが、この国では米の取れ高で領地の裕福度は図れる。

「リーグラード南東部。貿易都市カリフを含む4州、35万石を四男ローランド王子に与える。国名はカリフ公国とする。首都はカリフ。そして……」

 三男のケント王子をあえて飛ばしたのは理由があった。陰謀の一番の肝であったからだ。

「三男ケント王子には、リーグラード北西部。2州の5万石を与える。国名はノースサンドリア公国とする。首都は……未定」

(み、未定ってなんだよ!)

 北西部に大きな都市など存在しない。ほぼ村しかない。ケントは心の中で虚しい突っ込みをしたが、天を仰ぐしかない。そしてケンジントン公を見る。

 宣言したケンジントン公爵はケント王子をにらむ。

 その眼光は勝利者の目だ。

 ここまで周到な準備をして100%の勝利を確信している目だ。

 王の間は沈黙に包まれた。誰も意義を唱えない。

 意義を唱えようにも中小貴族はこの展開についていけない。

 自分たちがどうなるのか分からないのだ。

 意義を唱えるべき大貴族は何も話さない。

 彼らはケンジントン公爵に十分な根回しを受けているのだ。

 恐らく、本領の安堵にそれなりの地位の保障。

 国が4分割されるのなら、役職も増える。

 驚いて声も出なかった中小貴族も本領安堵でさらに役職に就けるのなら、文句は言わないだろう。

 現にディップ侯爵はイライジャが治める西リーグラード王国の宰相に任命された。

 彼が何も言わなかったのは、すでにケンジントン公爵と手を結び、貴族中心の国の運営に賛同しているからだろう。

 ケンジントン公爵はメイソンが治める東リーグラード王国の国の宰相だ。

 この国は一番豊かな領土をもつ。分割された4つの国の盟主として君臨することが宣言された。

「ち、ちょっと、待て!」

 たまらずケント王子は意義を唱えた。

(4分割する……しかも4兄弟でどうして俺がへき地のたった5万石なのだ!)

 あまりにもの冷遇にケントは怒りでいっぱいである。これは明らかに自分の排除を目的としている。

「国を4分割するとは何事か。これは明らかな反逆である。ケンジントン公爵、お前は反逆をしていると気づかないのか!」

 ケントはケンジントン公爵を指さし、大声で怒鳴りつけた。

 明らかに国の乗っ取りだ。しかも遺言を盾に取った合法すれすれの乗っ取りである。

 王家の代替わりの混乱に乗じて、有力貴族が一挙に王族を追い出すお家騒動だ。こういうのは歴史上、たびたび起きることだ。

「おやおや、ケント王子は御不満ですか?」

 とぼけた口調でそうケンジントン公爵はケントに尋ねた。

 大貴族の中から苦笑がもれる。

「不満も何も、めちゃくちゃだ。宰相ごときが王家の跡継ぎ問題に関わるな!」

 ケントは勇気を奮い立たせて、反撃に出る。今、リーグラード王家が一人の貴族に乗っ取られようとしているのだ。

 ケントは兄であるメイソンとイライジャを見る。

 彼らだって怒ってよい場面だ。

 4分割にされてそれぞれの王になるとはいえ、王家に仕えるべき貴族が勝手に国を割るのだ。

「おやおや、このことは前国王陛下、ドナルド・アルテッツア・リーグラード8世陛下のお言葉。ここに陛下の署名もありますぞ」

 そういってケンジントン公爵は遺言がしたためられた紙を掲げる。

 ケントは駆け寄り、それを見る。そして凍り付いた。

(ば、ばかな……この署名は……明らかに本物……)

 信じられないケント。父は間違いなく後継者を自分と考えていた。こんなへき地へ追いやることに同意するはずがない。 

 しかし、書類は父がこの裁定に同意したことになっている。

(父上、これはどういうことですか。俺は何か期待に沿えないことをしましたか?)

 ケントは改めて書類を見る。偽造を疑う。しかし、現実は残酷だ。

 見慣れたサインである。偽造されたとしても、ここまで近づけるのは困難だろう。しかも国璽が押してある。

 国璽を押す行為は国運を左右する重大な決定をするときだけに限定される。それ以外はサインだけだ。

 その行為は(1)次期国王の指名(2)他国への宣戦布告(3)その他国体に関する重要事項とされている。

 国璽を押す行為は、国王の命令を受けて、行政、司法、軍の3長官の立ち合いの元に宰相が行う。

 仮にこの遺言が偽物だったとしても、国の中枢が認めているということだ。

 これを覆すことはいかに王族でも不可能だ。

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