叔母の友達 3
「んなわけねぇじゃん」
一人で抱えるのに限界を迎えて、友達に言ってみたらこれ。
「でも、そうじゃないと説明できなくない?」
教室には私と友達。
最終下校時刻までは時間がある。
「母親の顔なんて残された写真でしか見たことないし、確かに微妙に似てなくもないとは思うけど、でもそれよりも何よりも、叔母ちゃまとそっくりすぎでしょこの顔」
「はいはい美人さんだな」
「キモい。でさ、ちょっと何回かふざけてお母さんとか、ママとか、マミーって呼んだりしたことあるんだけどさ、そのたんびにフリーズしちゃって、私は叔母だって不機嫌そうに言うからさ、怪しいなって」
「びっくりしただけだろうし、何回もされて嫌だったんだろ」
「……牡蠣沼君、真面目に聞いてる?」
溜め息混じりに、もう一度彼に言ってみた。
「本当は私、叔母ちゃまの娘なんだよ」
なんか似すぎじゃないかと思った頃からの疑問。
今や、そうであってほしいとすら願っている。
なのに、
「妄想乙」
呆れ顔で友達は言うのだ。
「母親よりも叔母に似る、なんて、探せばどこにでもあるだろうし、それならどうして、普通に親子として暮らさないんだ?」
「叔母ちゃまが結婚してないから、配偶者のいる母親に私を渡したんじゃない? 両親揃ってる方がいいとかで。結局どっちも物心ついた時にはいなかったけど」
単なる事実。
だけど友達は、一瞬目を細めた後で、肩をすくめてみせた。
「戸籍は? 見たの?」
「……どうやって見たらいいの?」
「役所に行けばいいんじゃね? ……いや、分かんないからスマホで一旦調べてみろ」
「うわー。自分だって持ってるくせにー」
代わりに調べてとか言いながら、思わず机に突っ伏してしまった。
気持ちを打ち明けてすっきりできれば、と思ったのに、かえってもやもやが増した。
「いっそ、訊いてみたら」
心底面倒そうに友達は言う。
「誰に?」
「叔母さんかお婆さん」
「……」
ちょっとだけ、顔を上げる。
友達と目が合う。
すぐに逸らされたけど、大丈夫? って言いたそうな顔してた。
「……あのさ」
我ながら、子供みたいな声が出た。
「怒られないかな、そんなこと言って」
「それは気にすんのかい」
そんな話をした数日後に叔母は眠り。
真東さんが出入りするようになり。
牡蠣沼君とは仲違い。
真東さんのことも相談したかった。
物心ついた頃からずっと、叔母から友達の話なんて聞いたことがないし、誰かに会いに出掛けていたこともない。それに年賀状も叔母宛の物はなかった。
だからお葬式も密葬で済ました。
なのに火葬が済んでから、うちに来て、何かと助けてくれる真東さんは、すごく怪しい。
本当に、友達だったの?
本当は、違うんじゃないの?
──本当は、私の、
「違う」
車が停まる。
赤信号、ではなく。
いきなり止まって、しばらくしたら後ろからクラクション鳴らされて。
真東さんは無言で、車を路肩に移動させる。
「……」
「……」
何も、言ってくれない。
いや、言ってくれた。
違うって。
「あ、の」
何か、言おうと思った。
でも、何て言えば。
「……嬢ちゃん」
声を掛けられる。
真東さんは前を向いたまま。
私は見えない後頭部を凝視する。
「……俺じゃない」
首を横に振り、静かに、真東さんは話した。
「俺は君のお袋さんのことは知らない。藤宮としか付き合いはなかった。何でそんな風に繋がるのかは知らないが、そんなこと言うもんじゃない。君のお袋さんと親父さんに失礼だ」
「……」
否定、された。
──ゴツン、と大きな音。それに頭が痛い。
思いっきり、窓に側頭部を打ち付けていた。
「嬢ちゃん!」
「あ、お構いなく」
焦ったように振り返ってくれた真東さんに答えながら、痛む箇所を撫でる。
真東さんは私を見たまま。
すごく心配そう。
何でだろ、何でだろ──見返してたら、助手席から箱ティッシュを取って、私に渡してくる。
「え……?」
「まぁ、拭けよ」
「何をですか?」
「……その、目元を」
目?
空いている手で触ってみたら、濡れていた。
何でだろ、何でだろ──あぁ、そっか。
無性に恥ずかしくなってきて、遠慮なくティッシュをたくさん取らせてもらった。
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