第19話 【ギルド襲撃】
そうしてもう一つの夜が明けた。さっさとチェックアウトを済ませ、彼女達は宿を後にした。
三人とも口数は少く、緊張感と緊迫感が漂う。ほぼ会話も無いまま、いつもの地下室の前まで辿り着いた。
「じゃああたしはシューくんとここで待っているから」
「ああ」
「二人とも、気をつけてね」
アンナとレイはうなずき、ティアとは別れてギルドの塔がある方へと向かう。
ギルドに近づくにつれて街の賑わいが増していく。大企業の冒険者ギルドは当然のように街の中心部に位置しているのだ。さらには職場に行くのであろう冒険者のような風貌の人も多く、周辺は沢山の人でごった返していた。
「好都合だ。人がいればいるほど、騒ぎが大きくなりやすい」
塔の近くまで行くと、彼女達は一旦人目から隠れるために路地に入る。アンナは変装を落とし、レイは件の剣を腰につけた。
「はいこれ、ダイナマイト」
予備含めた二本の爆薬をアンナに渡す。手のひらに収まるような小型の物で携帯しやすいような物だ。今回は火力は必要ないので、持ち運び重視とレイがフライドに頼んだのだ。
「火をつけたら十三秒で爆発するから気をつけろってさ」
着火用のマッチ箱も彼女に渡した。
「わかった。しっかりと引きつけるからお前も手筈通りにやれよ? 失敗は許されない」
「アンナも気を付けてね。一番危険なのは君なんだから」
彼女は頷き、昨日買った三本の槍を背中に背負う。
「武器もあるし大丈夫。一時間ぐらい逃げ回るなんて余裕だ。だが逆にそれ以上は持たないかもしれない。迅速に頼むぞ」
「頑張るよ」
二人は無言で握手を交わした。彼らはもう運命共同体だ。互いの命運は互いに握っている。
「よし、作戦開始だ」
レイはフードを深く被ってギルドの入り口の方まで歩いていき、扉の近くに立った。
彼がスタンバイしたのを確認すると、アンナも路地から出ていく。彼女は塔の壁目掛けて一直線に走る。
街中を全力で走る彼女に注目が集まっていく。
「なんだなんだ」
「おい。あの赤髪の子、王様を殺した奴じゃないか?」
「えっ⁉︎ あの指名手配中の⁉︎」
彼女の読み通り、騒ぎはすぐに広まった。後はパニックを起こすだけだ。
「うォォォォッッ」
アンナは叫び火をつけた爆薬を道のど真ん中に投げる。同時、レイがギルド内に駆け込む。
ドガァァァァァァァァンっっ。
「何の音だ⁉︎」
レイは室内に向かって大声でこう叫ぶ。
「大変です! 外で指名手配犯が爆発テロを起こしています!」
「何ぃ⁉︎」
「冒険者の皆さん! 早く外に行って捕まえてください! 捕まえたら報酬も出るらしいですよ!」
レイに急き立てられ、一階のホールにいた冒険者達は慌てて表に飛び出して行った。レイはそれに乗じて、受付の目を盗んで階段まで瞬間移動した。
(例え室内でも、その先が目視出来ていれば移動は簡単だ)
彼は静かに、しかし迅速に階段を駆け上がる。
一階は広々としたホールだったが、二階は様子が全然異なっていた。フロアの大半は閉ざされた部屋になっているようで、階段からは縁から縁までの壁しか見えない。壁には扉が二つだけあり、それぞれ「倉庫」「金庫」と書かれている。
まさかギルド長はここには居ないだろう。よっぽどのお金好きなら金庫に入り浸っているかも知れないが、鍵もかかっているようだし、レイは三階へと上がることにする。
三階の間取りは二階と全く同じだった。今度は「スタッフルーム」と「医務室」だ。
スタフルームを捜索するべきか一瞬迷うが、ギルド長以外の人に見つかる可能性は出来るだけ減らしたい。それにギルド長の人相を知っているわけでもないのでどうせ見分けられない。それならあるかどうかは分からないが、「ギルド長室」というのを探しに行った方が賢明だろう。
それに塔の高さ的にフロアはまだまだありそうだ。偉い人は普通高い場所を好む。
レイは三階もスルーして四階へ登ろうとしたが、そこで障害に阻まれてしまった。
四階へ続く踊り場が壁で遮られていたのだ。扉はあるが、鍵がかかっている。
壁には「関係者以外立ち入り禁止」と書かれている。きっと関係者しかここの鍵は持っていないのだろう。
「困ったなぁ…。多分この上にいるんだろうけど」
一応扉に体当たりしてみるが、当然びくともしない。
「瞬間移動するしかないか。向こうがどうなっているか分からないからちょっとリスキーだけど」
しかしこうしている今もアンナは命懸けで逃走劇を繰り広げているはずだ。ここで日和ってはいられない。
「えーいままよ!」
剣の能力によってレイの姿が一瞬にして消え、壁の向こう側にその体が現れる。
「くっ、しまった」
高さの調整を間違えたようだ。レイの両足は床に埋まってしまっている。瞬間移動する時は元々そこにあったものを押し出す形で移動するらしい。一ミリの幅もなくピッタリ埋まっているので、ジタバタしてもびくともしない。
仕方が無いのでブーツは脱ぎ捨てていくことにした。じゃないととても抜け出せそうにない。
(センリさんフライドさん、ごめん。折角選んでくれたのに)
裸足になって階段を再び駆け上がっていく。
そしてたどり着いた禁断の四階。鍵までかけられたここには何があるのか。
「ビンゴ」
外壁に沿って円形になっている赤い絨毯の廊下。その中心は円形の壁になっており、いくつかの扉がある。そのうちの一つ、そこに書かれた文字を見てレイは喜びのガッツポーズをした。「ギルド長室」確かにそう書かれている。
扉に耳を当てると中から物音が聞こえる。どうやらご在宅のようだ。
レイはノブに手をかけ、深呼吸する。ミスは許されない。迅速に任務を遂行するのだ。
もう片方の手で剣を抜き、そして突入しようとノブを回したその瞬間、
…彼の意識が何者かに奪われた。
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