第14話 【ティア・夕焼けの再会】

大きな街には必ず光と影がある。王宮や商店が栄える一方、仕事も明日食べるパンすらも無いような生活難の人々が住む地帯も存在しているのだ。

そこは「ヴァエネ街」と呼ばれる、王都の北東に位置するテントだらけの集落。テントと言っても、それはゴミやボロ布を使いどうにかそれっぽい形にパッチされているだけの粗末なものだ。そんなテントが数十平方メートルの砂地のエリアにぎっしりと建てられていた。

そこには老人も居れば乳のみ子も居る。家を失った貧しい人々が肩を寄せ合って生活しているのだ。

そんなヴァエネ街に一人の少女がやってきた。少女は髪から服まで全身ピンクで、茶と灰の色をしたこの集落には不釣り合いの女の子だ。

来客自体は珍しいことではない。他の国民からはその存在をわざと見てみぬフリされているヴァエネ街だが、冷やかしや施しに来る者は変わり者はたまにいる。

しかしこのピンクの少女はそのどちらでもない。住人達には目もくれず、連れている鹿のような生物と共に集落の奥へズンズン進んでいく。

彼女がここを訪れるのは初めてだったが、まるで慣れ親しんだ地元かのように、入り組んだテント間の小道を迷わずに一直線に進んでいく。というよりは、連れている鹿が彼女を案内していた。鹿はクンクンと鼻を鳴らしながらとある方向へと向かう。

そうして一つのテントの前で鹿の生物は止まった。少女もそこで足を止める。

「ここにいるんだね」

彼女は入り口にかかっている布に手をかけ、それをバッと開け放つ。

外に光がテントの中に差し込み、中の人物の姿が露わになる。

「アンナ。迎えにきたよ」

涙でびしょびしょになっているアンナ・ミロスフィードが、そこには横たわっていた。


日は沈み始め、辺りは暗くなりだす。

二人の少女はヴァエネ街にあるゴミ山のてっぺんに座って沈む太陽を眺めていた。

「来てくれてありがとう。おかげで少しは楽になった」

ティアにもたれかかり、アンナは弱々しく呟く。そんな彼女の頭をティアは優しく撫でた。

「アンナはいつも頑張りすぎなんだよぉ。いつも誰かのために戦っているんだもん」

「悪いことをしている奴が咎められないのがムカつくだけだ。そんな立派な人間じゃない」

「そういうことにしとく。今回はアンナも被害者だもんねぇ」

ティアはもう一度アンナの頭を撫でる。優しく、優しく。

「子供扱いすんな」

「だってアンナは私にとって妹みたいなものだもーん」

「従姉妹だろ。少し年上だからって偉そうに。大体見た目でいったらお前なんてティーンエイジャーかどうかすら怪しいだろ」

「気にしてるのにぃ! アンナひどーい」

ティアはほっぺを膨らませてぷんぷん怒ってみせる。あまりにいつも通りのティアに、アンナは少しだけ口角をあげた。

「そうだよな。くよくよしてる暇、ないよな」

彼女は目を擦り、立ち上がる。服の汚れを払い、長い髪に指櫛を通す。

その様子をティアはどこか嫌そうに見つめる。

「…あたし、アンナの無理をするところ、きらい」

「ティアや他の人たちが苦しんでる。これ以上黙って見ていられない。誰かが…やらないと」

「でもアンナ自身はどうなるの? これまでに何度も、何度も酷いことされたのに。ハルトくんだって、サイガさんだって殺されたんだよ⁉︎」

「だからこそ、もう止まれない。二人の魂の意味を、取り戻さなきゃいけないんだ。死なせてしまった罪は、その後でいくらでも償うさ。何をしてでも…」

「アンナ…」

ティアも立ち上がり、アンナの両手を握りしめる。

「あたし、アンナのこと大好きだよ。死んで欲しくなんかない。苦しんで欲しくなんかない」

潤んだ目で彼女は必死に訴える。しかしその言葉はアンナには響かなかった。

「やめろよ。お前は変異歹を守りたい、私はギルドが許せない。それでいいんだ」

ティアは、それ以上何も言い返せない。

「私はギルドを滅ぼす。絶対に滅ぼす。破壊する! 完膚無きまでに! 私の人生全てを使っても‼︎」

天に吠える彼女に、夜と暗闇が訪れる。

「今度こそギルドと決着をつけるっ! 全面戦争だっ‼︎」

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