第8話 【アンナ・国王直談判】
「そうだったのか…」
アンナから話を聞き終えたハルトはヘトヘトになり、頭を抱えて座り込む。
「そこにどんな理由があれ、ギルドの行いは間違っている。ソモの民の中には冒険者に虐殺された者も何人もいるんだ」
アンナは懐からその記録の書かれた紙をハルトに渡す。
「そうだね。許されないことじゃないし、僕がそんなの許さない。しかしギルドがそんな迫害行為を行っていたなんて…」
「お前国王だろ。私はてっきり知っていて当然だと思ったが」
「アンナちゃんの言う通りだ。これは完全に、王でありながら気づけなかった僕が悪い」
「お前も大変だったのはわかるけどな」
二十にもならない少年が突然国全体の責任をその肩で背負うのがどれだけ大変なことか想像はつく。彼は彼なりにこの三年間、国のために一生懸命努力してきたのだろう。
「アンナちゃんは三年間もずっとこれを調べていたの?」
「まぁ、そんなとこだ。おかげで証拠も沢山手に入れられた」
そう言うとアンナはもう一枚、別の紙をハルトに渡す。
「こ、これは⁉︎」
そこには、「国王サイガ暗殺計画」と書かれていた。
「サイガ…父さんの名前…」
ハルトは恐る恐る、続きの文字を読み始める。
「サイガ・ウォーカー現国王は、どうやら我々ギルドの動きを探っているようだ。公表されるのも時間の問題。確かに我々は国民から莫大な信頼を得ているが、何かしらの証拠を掴まれればいくら頭の悪い民衆でも我々を非難するようになるだろう。だから国王の迅速な暗殺を命じる。実行役はヤツに任せれば堅いだろう。いつでも構わない、最速のタイミングで行うように。成功を祈って、M」
と、書かれていた。ご丁寧に印も押してある。完全にギルドの暗殺依頼書だ。
「そんな…父さん…」
「サイガさんは病死と発表され、実際私たちもそう思っていた。しかし実際はギルドの仕業だったんだよ。つまりギルドは思ったより広く、そして深く、その影を伸ばしていると言うことになる」
「アンナちゃん…僕、本当に自分が情けないよ。アンナちゃんに頼りっきりで…」
「お前はサイガさんの意思を継いで立派な国王になるために頑張っていたんだろう? なら別に悔やむことはないさ。ギルドの事を調べたのも旅に出たのも全部私の意思だったからな。それに…」
「それに?」
「……いや、何でもない」
その時、コンコンとノックの音が部屋に響く。
「きっと大臣だよ。僕が呼んだんだ。どうぞ、入って」
「大臣? そんな奴城にいたか?」
扉を開けて、一人の中年の男が部屋に入ってきた。
「お呼びでしょうか、陛下」
栗色の整った髪に同色の口髭。背はそこそこ高く、体格もいい。厚い胸板がタキシードを持ち上げている。
「紹介するよアンナ。彼はデドダム・ニックス大臣。未熟な僕の手伝いをしてくれている優秀な男だ」
「勿体無いお言葉です。初めましてアンナ・ミロスフィード殿。当局はデドダムと申しまして、僭越ながら陛下の手助けをしております」
彼はアンナに向かって丁寧にお辞儀をする。
「アンナ殿、お近づきの印にマジックを披露してもよろしいでしょうか? 実は当局、とっておきの人体大切断マジックがあってですね…」
「ふざけろ。そんな暇は無い」
「そ、そうですよね。失礼致しました…」
デドダムはわかりやすくガックリ肩を落として落ち込んでいる。アンナはそんな大臣を冷たい目で睨みつける。
「あはは。少しだけ変わった男だけど仲良くしてあげて」
「うぅ…。それで陛下、御用というのは?」
「ああ。実はデドダム大臣に頼み事があって…」
ハルトは先の書類を差し出す。
「実はここにギルドの悪事の証拠が載っているんだ」
それを聞いた大臣は目を丸くする。
「ギルドと言うとあの有名な冒険者ギルドですか⁉︎ 国民のヒーローである、あの⁉︎」
「驚くのも無理は無いよ。でも事実だ。アンナちゃんが調べてくれたんだ」
「なるほど…わかりました。勿論信じますよ」
「大臣にはそれを国民に公表する準備をしてほしいんだ。国民を集めてこの真実を伝えなくてはいけない」
「その通りです。早速そのように致しましょう。明日にでも城の隣の噴水広場に集まってくれるよう、手配と通達いたします」
「頼んだよ」
デドダムは深くお辞儀をし、書類を持って部屋を後にした。
「私も帰るよ」
「えっ。お城に泊まらないの…? 昔みたいに」
「まだやることがあるんだ」
「そう…、分かった」
本当に彼女はさっさと出ていってしまい、ハルトだけが部屋に残される。
三年ぶりの再会だったのに、要件だけ伝えてさっさと去ってしまう幼馴染の背中をハルトは一人寂しく見つめていた。
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