3話:終わりの始まり

自身を裏切った神様を冒涜し続ける神父様を見守っていた私に、一人の女性が声を掛けてきた。その女性は白い髪を二本に纏め、銅色の下地に赤と紫の刺繡が入ったローブを羽織っていた。

「愚かしいですね。第三次世界大戦が始まった時、神は既に死んでいたというのに神を恨むとは。誰かのせいにしなくては気が住まい……それは人間がやることであって、神に仕える者がやっていいことではないでしょう」

愚痴るような言い方に私は戸惑いを隠せなかった。ただ私は彼女を見上げ、金色の瞳を仰視した。すると彼女がこちらを見たため目が合い、咄嗟に私は目をそらした。しかし彼女は私から目を反らず、金色のナイフを私の胸元に差し出して言った。

「このナイフであの涜神行為を犯した者を殺しなさい」

「……嫌です」

そうですか。と彼女は言ったが、ナイフは相変わらず差し出されたままだった。

「この作品世界はもう収取がつかない失敗作です。ある作品世界に対比する様に紡いだこの作品は、残念ながら最後まで紡がれることはないでしょう」

「……何が言いたいのです?」

わかりませんか?と私に問いかける彼女の表情は、ゾッとする程凍てついた嘲笑とも取れる笑みだった。

「私はこの作品世界における"本物の神様"のことを言っているのですよ♪」


 *


私は昔から賢った。5歳でアラム語、8歳でヘブライ語が話せるようになった私は、両親から期待と羨望の眼差しを向けられて育った。常に最善を考え、自分より大きな大人たちの考えを読み行動しなくはいけなかった。だからだろうか、白髪の彼女の言わんとしていることが分かった。

私は彼女から金のナイフを受け取ると、そっと神父様の背後に歩み寄りその首を切り落とした。初めて切り落とした親しい人のその首は、ペーパーナイフで紙を切ることより簡単だった。

神様は死に、神はこの世界を捨てた。しかし滅ぶことはない。永遠という変化のない時間がこの世界を停滞させる。しかし神に気に入られた私はもう少しだけ、生きることができそうだ。そのために私とこの作品の縁を切る為に、今ここで私を知る者に退場を願おう。後引きをしないためにも……。

蛆虫シャルソー。白髪の彼女はそう名乗った。ざらめ屋敷の主人に仕える者であり、神学者であると。私はしばしの間、眠りに着くことにしよう。呻く死者たちのいないこの屋敷で、しばしの間……いや最も長いかもしれないが、休息をとることにしよう。すべては神の、この屋敷の主人のさじ加減次第だ。

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