2話:引き金

「なぜ私は死んだのかやっと分かりました。エラル嬢、貴女は知らないかもしれませんが、1969年7月20日20時17分。それは人類が初めて月に足を着け、神を否定した瞬間です」

「………………」

「詳細は省きますがその月面着陸後、各国は遅れまいとロケット開発に尽力を尽くし始めました。結果、私の母国を含め色んな国が月面着陸に成功しました。しかし……一部の国はロケットを開発するフリをして、別のものを造っていたいました」

「………………」

「エラル嬢、大丈夫ですか?」

「……えぇちょっと夢のある話だなと思って、夢想に耽っていたわ。ごめんなさい」

「いえいえ構いません。しかし現実は非情でして、一部の国が造っていたものが公になってしまったのです。そのためこれまでロケット開発に勤しんでいた国はその作業を中止し、ロケットを開発するフリをして造っていた別のもの……言わばICBM(大陸間弾道ミサイル)ですが、そちらに興味を持ち始めました」

そこで神父様は口を堅く閉じ、何か思い出したのか胸元のロザリオをぎゅっと強く握った。私はその握った手が微かに震えていることに気づいた。

「もしかしてロケット開発をしていた国々が、ミサイルでも開発し始めたの?」

「えぇ……その通りです。国防のための迎撃ミサイルだと言って開発していました。そして事は置きました。緊張が高まっていく国際社会の中で、遂にある国からミサイルが発射されたのです。それは国を狙ったものではなく、あくまでけん制、技術力を見せつけるためのものでした。しかしある国はミサイル発射の報告を聞き即刻、迎撃ミサイルを発射しました。結果、迎撃は失敗し、あろうことか友好な関係を築いていた国に落ちてしまいました」

遂に泣き出した神父様を見ても私は憐れむ気は起きなかった。実を言えば現実で何が起きているかは、死者たちの呟きを聞けば自然と知ることができる。そう……第三次世界大戦が勃発したことも。

「エラル嬢、もし神が死んでいなければ戦争は、大戦は勃発しなかったのでしょうか?……いえわかっています。こんなこと貴女に尋ねても仕方ない。しかし神の死に立ち会った者として、どうかこの神父に託宣をいただければと……」

「……人間の行動、善悪関係なく全てが美しいものとして、神様は見て聞き受け入れる」

「旧約聖書……確かにそう記されていますが、それはあまりにも残酷すぎます。すべてが美しい?いやそんなわけがない!」

神父様はそう怒鳴り散らし、深紅のローブを放り投げると永遠に沈まぬ太陽へ向かって叫んだ。それは神への不満、冒涜、そして怒り……神父様は第三次世界大戦を生き残った。しかしその結果、家族を失うことになった。なぜ神父様が生き残れたのか。それは敵国に出兵していたからであり、神に仕える神父ではなく、父親として家族を守る為に出兵した結果であった。

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