1話:再開
神様に変わり死者たちの相手をすることになった私、ヴィズ・エラルが主である神様の願い通りに振舞えているか、それはわからないし確かめようもない。
だから私は全ての選択権を死者に与えた。旧約聖書において人間の行動、善悪関係なく全てが美しいものとして、神様は見て聞き受け入れると記されている。それは事実であり、神様は善人悪人問わず、全ての死者の魂の記憶を天使たちに記録させ迎え入れていた。
でも私は神ではない。だから神様の基準ではなく、人間の基準で審判を与える。しかし私は何もこの死後の世界イル・ディーヴに、法律の様なルールを作ろうというわけじゃない。極力死者には関わらない。それが私が神様の変わりに死者を相手にすることになった時、自身の肝に銘じたルールだ。
私がその死者を消滅させるか、新しい生者の肉体を与えるか、決めてしまっては人間の基準ではなく、私の基準で決めてしまっていることになる。だから全ての選択権を死者に与える。
全てを他人のせいにして自身の罪を認めずこの世界で永遠に焼かれるのも、自身の罪を認めこの世界の太陽や私に贖罪するのも、勝手にすればいい。どうせ私は死ぬことも許されず、彼ら死者をどうこうする力も持たないのだから。
と言いつつも私は自らそのルールを破りつつあった。自ら黙想に励み、罪を認め、転生の準備をする元宗教家であろう死者たちを日の光から守ってあげたり。焼け焦げた躯体に耐え切れず、叫び続ける死者を殺したり。勿論そんなことをすれば魂魄諸共、完全に消滅する。しかしこうして完全な死を与えられた死者たちは皆、どこか幸せそうな笑みを讃えていた。
*
死者たちの焦げる肌の臭いにも慣れ、死者たちの苦痛のうめき声を子守歌代わりに睡眠をとっていたある日。沈まぬ太陽の光を少しでも遮るために被っていた深紅のローブをめくってきた不届き者がいた。私はその不届き者を睨みつけたが、その焼け焦げた死者が誰かわかると私は口を開いた。
「貴方はもしかして神父様?」
身体の殆どが黒く焦げ肌色は一切見えないが、その済んだ青い瞳と銀色のロザリオには見覚えがあった。日曜礼拝と学校帰りの際に通っていた教会の神父様だ。
「如何にもヴィズ・エラル嬢。あの教会で神父を務めていた者です……今はこの様ですが」
フランス訛りのその話し方は間違えようもない、通い続けた教会の神父様のものだった。
「貴方も死んでしまうなんて……残念だわ」
「それは貴女もですよエラル嬢。幼くして亡くなってしまうとは……私がこの様なことを言うのは非常にいただけないでしょうが、神は非情ですね」
「えぇ全く……その神様も死んでしまったけど」
「……その話、詳しく聞いても?」
それから私は神父様を横に座らせ、深紅のローブを被らせた。元々ローブはかなり大きかったため、神父様と小さい私が被ってもスペースには余裕があった。それから私は神様が如何にして死者を迎え入れていたか、どの様にして神様が亡くなり、私に何もを託したのかを話した。
神父様は相槌を挟みながら黙って聞き、話が終わるとしばらくの間黙り込んでいた。
*
目の前に先ほどまで話していた神父様の躯体が転がっている。首が胴体から離れたその躯体は、荒野に吹く風によって塵へ変わっていった。
「さようなら……そしてありがとう神父様」
右手に銀のナイフ、左手に分厚い羊皮紙の洋書と羽根ペン、そして身体を覆うローブ。神の代理人ヴィズ・エラル。彼女のその黄色い目に迷いはなかった。
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