第44話 月が昇るまでに(15)
「それだったら、その年も、わたし、これの受け渡ししたんだから、その舟で会ってるはずじゃない、
「あ」
相瀬が軽く頷く。
「この舟ってさあ、もっと大きな船から来てるんだよ。その大きな船はもっと遠くに泊まってるんだけどさ。そこまで行ったわけ。遠くて、さすがに苦しくて、もうこのまま溺れるかと思ったけどね、でも、何とか。だから、
「いまも変わるかも知れないよ」
笑って、それから。
「そうだ。つらい話だけど、あのお姫様、死んじゃったよ。それも」
「知ってる」
相瀬も、厳しい、沈んだ声でこたえる。
「だって、わたしがあれ突き止めたんだもん。あのときにあの讃州が姫様のことをどんなに悪く言ったかまで、ぜんぶいろんなところできいてさ。まったくもう! あのお姫様が
「え……?」
真結は、よくわからなくなった。
「あ?」
しはらくして、何がよくわからなくなったか、わかる。
讃州がお姫様を「稀代の醜女」などと書いていたのは、あの「
「あれ?」
あれは、探索役の役人が讃州の部屋を探すまで、だれも知らない日記だったはずだが?
「じゃあ、あの、日記って?」
「もちろんわたしが書いた」
相瀬が言う。
当然のことのように!
讃州の日記のはずなのに……。
相瀬さんが書いた、って。
どういうこと?
相瀬は続けて言う。
「でも、うそは書いてないよ。讃州が、そのときそのときに思っただろうってことを書いた。だから、あれは讃州が書いたものだって言ってもいいんだ。あいつが、
「あっ……」
あまりにあきれすぎて、「あきれた」の「あ」のあとが出てこない。
「あたりまえだよ。姫様なぶり殺しにしてさぁ。まあ、姫様も覚悟はしてたんだけどね、そうなるっていう」
そうか。
その、姫様のことを書いた部分の字が震えていたのは、
「あの
「うん。それはきいたよ」
真結が暗い声で言う。
「きいたんだ」
「うん」
相瀬は、目を瞬かせた。
「それでさ、讃州が
「まぁ、そうだけど」
真結は、もうひとつ、きいてみようと思った。
「じゃ、
「そのことはさ」
相瀬はもの
「知らないほうがいい」
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