第12話 二十三夜(1)
日が沈んだと見て、
――長い夜が始まる……。
二十三夜様の月待ちだ。
二十三夜、真夜中ごろに月が昇るのを、寝ないでみんなで待つ。
昔は、ただ、村人みんなで、村のお社に集まってただ月が昇ってくるのを待ったという。せいぜい、眠くならないようにお茶を立てて飲むくらいだった。そして、神主さんやお寺のお坊さんのありがたいお話をずっと聴いていたのだという。
しかし、相瀬が知っている限りでは、この夏の祭りの二十三夜様は、村人みんなが集まってお酒を飲んで話をする、ときには大騒ぎをする夜になっていた。
いや、「ときには」ではないな。最後のほうはずっと大騒ぎをしている。
相瀬の参籠は二十五日の朝まで続くが、村人にとってはこの二十三夜様が最後の夜だ。次の二十四日は物忌みの日で、村人は昼も夜も仕事はしないし、できるだけ外にも出ないことになっている。
それは海女の娘組の頭にとってはありがたいし、村人にとってもありがたい。ただそのありがたさの理由が違う。
村人にとっては、二十三夜に夜中まで起きるので、二十四日は起きられないし仕事にもならない。そんな日が、仕事を休むのがあたりまえの物忌みの日だと、とても助かる。
相瀬は、この二十三夜様には、子どものころは母親に連れて来てもらっていた。
夜なのに明るくて、人がいっぱいいて、友だちの房や萱も来ていて、楽しかったのを覚えている。
でも、かんじんの月が昇るときには、もう眠ってしまっていた。
しかたがない。子どもだったのだから。
ほんとうに月が出るまで起きて月待ちしたのは、海女になった最初の年からだった。その年には父も母も来ていたけれど、海女の娘組のいちばん下に連なって、いっしょに月待ちをした。最後のほうは、眠くて、歳上の海女たちの話もよくわからなくて、月ってなんでこんなになかなか昇らないのだろう、いや、どうしてそんななかなか昇らない月を待つんだろうと思った。
それからは夜が遅いのにも慣れていって、楽しく仲間や若い漁師どもと話したりふざけたりしながら時間を過ごすようになったのだが――。
去年からは立場が違う。
海女の娘組の頭として
その前は、座っているのも庭のほうだったし、娘組でも立場が上のほうになると、疲れたら家に帰ってひと休みしてまた出てくる、ということもできるようになった。
でも、去年と今年は、それもできない。話をしたい相手がいても、向こうからこちらに来てくれないと話ができない。だから、娘組の海女たちとも自在に話をするというわけにはいかない。
もちろん寝るわけにも行かない。横になることもできない。
お酒も勧められる。相瀬は酒に弱い。でも、それは
「いま飲んで酔ってしまうと、あとで月の出のご合図に差し支えますから」
と言えば断れると
「じゃあ、月が出てから、たっぷり飲もうな」
などとにこにこ笑いながら言うので、去年は覚悟を固めた。
でも、月が出るころには、そういう人たちはもう十分に酒が回っていて、相瀬に酒を勧めることも忘れてしまっていた。
――太鼓が鳴らされて、月待ちが始まる。
最初に神主さんが長い
かしこまって座っていなければいけない。
次に名主様のお話があり、それからお寺のお坊さんのありがたいお話がある。
やっぱりきちんと座っていなければいけないので、疲れる。
あのお姫様だったらずっとこうやってお行儀よく座っているのに慣れているのだろうな、と思う。
いや、お姫様でなくても、美絹さんもそうだったか。
それに後ろのほうで娘組の海女たちがうるさい。とくに
名主様は、お姫様のことには触れないで、殿様のギョーブ様がお倒れになり、ごカイユをお祈りするとか、昨日の嵐で畑が何枚か流されたけれど、いまからならば作付けをし直せば十分に毎年よりも豊作にすることができるとかいう話をした。
ああ、やっぱり畑が流されたりしたんだ、と思う。
昨日の海での難船のことは話さない。あまり不吉な話はしないことになっているのだと、去年、美絹さんからきいた。
法話をするお坊さんは三人いて、最初の
そんなことはできないけど。
あとの二人の若いお坊さんは遠くのお寺に修行に出たときの話をした。川止めに
「すべては
で結べば法話になる。騙されたような気になるけれど、最初の住持さんの「因果応報」の話は、この二人の話をここに持ってくるための前置きだったのかと納得した。
村の人たちがいちばん熱心に聴いていたのはこの二人のお坊さんの話だった。しかたのないことだろう。
そのあと、太鼓が鳴らされ、神様にかしわ手を打ってから、
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