第53話『アフタヌーンパーティ』


 夏休みも終わり、新学期を迎える。

 久々の再開となりクラスメイトにはとても喜ばれた。


「王子様に会えたー!」

「よかった……王子様ちゃんといたよ~っ!」

「チャットは返してくれてたけどもしかしたら……って」


 不安の意味は先日の献精のことだろう。

 この結果次第で俺は退学となっているためそのことを言っている。


 ――早くも話が流れている。 Dクラスの男子生徒二名は×判定だったと。


 学校に現れず、名簿からも名前が消されてしまった。

 つまりはそういうことだ。


 俺自身もその一人になっていた可能性を考えると恐ろしいものだ。


 だが俺はこうして城神高校に残ることが出来ている。

 これからも頑張っていかなくては。


 クラスメイトとの会話に勤しんでいると、みくがスマホをもって声を掛けてきた。

 

「ところで王子、この記事なんだけど……」

「知らない、そんなものは知らない」

「えぇっ、今この国全体で話題になってるよ!?」

「知らない、俺はなにも知らない」


 みくが見せてきたとあるネット記事。

 そこにはこう書かれていた。


 ――イケメン男子高校生、パートナーを守るため立ち向かう!

 ――話題の彼は地元ではプリンス、学校では王子様、そしてとある喫茶店では天子様の呼び声が。

 ――今国中の女性が彼に注目している!


 あの夏祭りの日、刈り上げ男と対峙した日の出来事がネット記事に掲載されていた。


「これ目に線が入っているとはいえ王子だよね」

「王子様の後ろにいるのはちひろちゃんだね」

「知らない知らない俺は何にも知らない!」


 あのお祭りはテレビの取材が入る程大きなイベントである。

 そういう場にはネット記事とかその辺を書いてる人が見に来ていてもおかしくない。


 即ちあの騒ぎを見られてしまったということだ、こんなにも抜群の位置で。

 そこそこ人通りもある中で絡んできたわけだからしょうがないとはいえるのだが。


「ちっひーこいつ中学の時のクソ男子だよね?」

「大丈夫だった……?」

「うん、怖かったけど、でも……」


 彼女は一旦言葉を区切り俺の元へと歩み寄った。

 そしてぎゅっと腕を抱きしめ。


「恵斗くんがわたしを守ってくれたんだ『俺の恋人に手を出すな』って」


 ――大歓声が教室中に響き渡った。

 

「やっぱり王子様だぁっ」

「女の子を守ってくれる男の子……? これは本当にノンフィクションなのですか?」

「恋人ってことは佐良さんもしかして……」

「恵斗くんとお付き合いすることになりました」

「もちろん結婚を前提にね」


 ――大歓声が教室中に響き渡った。本日二度目である。


「はぁ~っ、佐良さんが王子様とお付き合いできたのは私たちEクラスにとっても悲願だったけどさぁ」

「もう王子様の3枠埋まっちゃったんだね」

「いいなぁっ、王子様好きです付き合ってください!」

「いや、あの前田さん気持ちは嬉しいんだけどごめん」

「うわあぁーん!」

「これで8回目の玉砕か、いい加減にしなよ」


 ――これは後日分かった話だが。


 先日夏祭りで絡んできた刈り上げ男は×判定を受けたらしい。

 城神は×判定男子の配慮の意味もあり退学勧告を事前に行うが、全ての学校がそうだとは限らない。


 今まで神のような振る舞いで暴虐の限りを続けていた彼だが、一気に価値がなくなり今はみじめな扱いを受けているのだそうだ。

 あの態度ではいくら男とはいえ少なからず反感を持っていた女の子も多いだろう。当然の報いともいえる。

 そのうち学校からいなくなることだろう、その後の彼の人生は誰も興味を示さずに。

 


 話は逸れたが久々のクラスメイトとの再会、また楽しい日常が始まるとの予感がするのだった。



 ――


「バンド名を決めるぞ!」


 新学期最初の授業を終え、今日は久々の部活である。

 軽音部部室にはバイト先でお世話になった三名が揃い踏みだ。


「バンド名って……城神高校軽音部じゃだめなの?」

「そんなありきたりじゃダメだ! アタシらが学外でやってる『スピリッツ』みたいに名前を付けた方が気合も入るでしょ! なによりアタシがバンド名つけたいの!」

「先輩たち外でも活動してんですか?」

「わたしたちの夢はでっかくあめりかんどりーむ」


 ぶい、とアキ先輩がピースをする。

 バンド活動かぁ、俺も昔モテたくて一時期やったなぁ。


 ――ドラムとベースばっかりモテてボーカル兼ギターの俺が全くモテなかったけども。

 ――普通ボーカルの方がモテんじゃないの?


 とても悲しい思い出である。


「ケイ興味ある?」

「そうですねー、機会があればなぁと思ってますけど」

「ふふ」

「イケる」

「?」


 二人の笑みから何か思惑があるのだろうと推測が出来るが、それに突っ込むよりも前にユリ先輩が声を上げた。


「と~に~か~く! バンド名決めたい!」

「そんな子供みたいに床に転がってやんないでくださいよ、あぁほら制服汚れちゃったし。ほら立って、今払ってあげますから」


 ユリ先輩の制服に汚れがついたので払ってあげる。

 

「これが男子に自然に触れてもらうテク……ユリやるね」

「こんなことしてくれるのケイだけじゃない?」


 そんな形でグダグダになりつつあるが今日の活動はバンド名を決めることになった。




「毎日わたしたちは放課後にお菓子を楽しむ……ズバリ放課後ティ――」

「アキ先輩それはマズい!」

「ならアタシたちのこの結束力を示して結束バ――」

「ユリ先輩消される! この小説消される!」

「小説ってなんのこと……?」


 というひと悶着もありながら、ああでもない、こうでもないと中々意見がまとまりきらない。


「なんかこうビビッと来るものが来ないですね」

「うーん、バンド名を付けるってことは名案だと思ったんだけど」

「なかなか難しいね」

「『スピリッツ』って名前はどうやって付けたんですか?」

「『わたしたちの魂を聞け!』ってノリでわたしがつけた――もぐもぐ」


 なんか絶妙に引っ掛かりそうなところをついてるけど、まぁいいか。

 てかアキ先輩既に飽きてお菓子食べてるし。


「もうお菓子パーティしよう、糖分とってエネルギー補給」

「――っ!?」

「じゃあ私このビスケットもらおっかな」

「結局いつもの流れに……」



 この流れになるともう止まらないので俺もご相伴預かろうと席へ座ろうとすると。


「閃いた!」


 ユリ先輩が声を張り上げた。

 びっくりした俺は思わず尻もち付いた。痛い。


「閃いたって、名前決まったの?」

「そうだ、聞いてくれ――『アフタヌーンパーティ』だ!」

「ぱーてぃ?」

「もぐもぐ」


 アキ先輩お菓子へと夢中になってないで聞いてあげて。


「アタシたちのこの集まりをイメージしたらパーティこそが相応しい!」

「人が集まってイベントやったりする方の?」

「じゃなくてRPGみたいな各々それぞれの役割を持った集まりのパーティ!」

「ふむふむ」

「毎日放課後、部室――ギルドに集まるパーティ、名付けて『アフタヌーンパーティ』だ」

『おぉ~』

 

 俺とカナ先輩は感激の声をあげて拍手をしていた。

 アキ先輩は手拍子の代わりにお菓子を頬張る。


「まずはアタシ! 部長でありパーティの隊長!」

「ユリ先輩は突撃隊長って言葉がすごく似合いますね」

「もぉ~ケイそんなに褒めるなって! それで次はカナ! カナはみんなのお母さん!」

「なるほどみんなのお母さんね、たしかにユリ先輩、アキ先輩を扱えるのはカナ先輩しか――お母さん!?」


 普通に流したけどお母さんってなんだよ。


「そしてアキはお菓子!」

「もはや役割でもなんでもない!?」


 ただお菓子くってるだけじゃなじゃん。

 アキ先輩も呑気に『おー』って返事しないで。

 カナ先輩も拍手しないで、お願いだから誰か突っ込んで!


「そしてケイ!」

「俺はいったい何を名付けられるんだ……」


 正直嫌な予感しかない。


「男の子!」

「ただの性別!」


 ジョブでも役割でも特徴でもなく、ただの性別だった。

 せめて王子でいいじゃん、王子呼び好んでないけどさぁ。


「こんな個性豊かなメンバーこそパーティと名付けるのに相応しい!」

「個性豊かなのはあんたらだよ」

「ケイ、ツッコミに大分慣れたよね」


 ぽん、肩に手を置かれる。

 お母さんと呼ばれるあなたが二人を甘やかせてるのが原因でもありますけどぉ!?


「我々はこれから『アフタヌーンパーティ』として活動をしていく」

「ぱちぱちぱち~」

「もぐもぐ」

「もう好きにしてくれ……」


 ツッコミ疲れたのでもう諦めた。

 とはいえ『アフタヌーンパーティ』という名前が決まったことは素直に喜ばしいことではあるが……。


「じゃあそういうわけでおやつタイムだ!」

「おー」

「お茶淹れるね~」

「あの、練習しないの?」


 結局いつもの流れとなる。

 本日もお菓子を堪能して部活は終わったのだった。

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