第48話『転生前では当たり前のこと』
献精室へと入りまず目に入ったのは大きな注意書き、絶対に読むようにと記載してあるので読み進める。
『精液を初めて出した後は動悸や吐き気等起きることが予測されます。精液を所定の場所へ提出した後は無理せず横になり十分な休息をとりましょう』
「つまり彰が呆れていたのはこの世界の男性は射精が苦痛だし下手したら動けなくなるから?」
この注意書き通りなら気楽に飯行こうぜと誘った俺が馬鹿丸出しのは理解できる。
でもさぁ、ムラムラした時どうするんだ?
――美人な母、姉妹と暮らしてムラムラ。
――理奈の無防備に出てる脇とか生足にムラムラ。
――千尋のおっぱいを眺めムラムラ。
――顔面偏差値の高いクラスメイトに囲まれムラムラ。
――まれちゃんの全てにムラムラ。
こんなにも毎日ムラムラして困っているんだが。
まぁあくまで俺は転生者、この辺りが普通の男子と違うってことだろう。
齢十六歳、健全な男子高校生が先程挙げたムラムラの起きやすい状況に加え、前の世界の考え方を持っているのである。
献精という言葉は固くて重いが、要はいつものように処理をすればいいのだろう。
ふっ、ムラムラした時は風呂場でスッキリさせる……もはやプロレベルの俺にはなんてことない作業だ。
排水溝が詰まらないように風呂掃除を毎日率先してやっているのはこのためなのさ。
そう考えたら結構気楽になってきた、要は精子が存在するかだけのお祈りだろう。
献精室の中にはもう1つ部屋があるようで歩みを進める。
部屋の中に入るとすぐ傍に『提出する精液はこちらへ』と書いてありすぐ下に穴が。
ここに献精後の物を入れ回収場所に繋がっている仕組みになっているのだろう。
完全なるプライバシーの配慮がされている。
改めて部屋の中を目にする。まず目入ったのは座り心地の良さそうな椅子、リクライニング式になっており倒すこともできるようだ。
そしてソファの前にはモニターとキーボード、マウスがある。
なんていうか白い部屋の中にゲーミングデスクと専用の椅子が用意されている。そんな印象を受けた。
「そういえばキットとやらを渡されてたな、中を見てみるか」
箱の中には説明書みたいな物、小さいジップロック、あとは……コンドームじゃねぇか!
献精ってコンドームに精子出すことなの?
まぁ、理屈はわかるけど、うん。
これってセックスで使うのでは?
――そういえば。
まれちゃんと初めて身体を重ねたあの日、さすがに避妊を考えコンドームを用意する旨を伝えたが、まれちゃんはきょとんと傾げてたな。あの仕草のまれちゃん可愛くて死ぬかと思った。
それとこの世界の女性に避妊という概念自体が存在しないので『今日は赤ちゃんできない日なの』と心底がっかりしていたのをよく覚えている。
さすがにあの時避妊すること前提で話をしたらめっちゃ泣かれるとさすがに察したので『これから何度でもまれちゃんとするから大丈夫』と伝えた。
あの後はめちゃくちゃ愛し合いました。
という愛する彼女と激しく愛し合った良き思い出を振り返りながら、説明書を開くとゴムを自分の息子へ装着させる方法が画像付きで書いてある。パラパラと捲ってみるが特に必要そうなことは書いてなかった。
何故ならコンドームの付け方など既に知っているからである。
「それでこのモニターには何が映るんだ?」
マウスに触れると真ん中の画面がパット光をともす。
映像、写真と項目があり、ひとまず写真で進めてみる。
「えーと、年齢? ひとまず同じ年にしておくか。なんか項目がいっぱいあるな……顔、髪、胸、腕、尻、足、肌の色……、おいおいまさかとは思うけどさ」
大体想像は付いてきたが中身を打ち込んでいく、内容が全部千尋寄りであるのに他意はない、決して普段からオカズにしてるからそんなんではない。
すべて打ち込み『決定』と出たためクリックをする。
そして現れたのは……。
「……千尋みたいな女の子裸だな」
なにこれ凄いな本物の女の子?
いやよく見るとCGか?
ともかくすごい再現技術だな。
ハリウッド映画のCG技術でもここまで再現できないさそうだ。
ただ裸体の女の子が立っているだけで味気ない。
しかしCGの隣へ新たに選択肢が追加されている。
「ポーズは……胸を寄せたり開脚させたり、表情も変えられて背景とかも弄れるんだな」
何か色々と弄れそうである、今度は映像を見てみよう。
映像も同じように女の子の情報を打ち込んでいく。
今度は理奈に合わせた、理由などない、昨日もオカズに使ったとかそんなんではない、本当だよ?
「何々、体位を選べとな。ひとまず正常位で」
決定の文字を押すと正常位で突かれ感じている理奈に似た女の子の映像が流し出された。
ちなみに音声はなく、突いているモノは透明仕様である。
「つまりこれで
異世界すげぇな!
こういう自分だけの空間でなら誰の目も気にせず、好みの女の子を探し出せる。そして性欲も掻き立てられるってことなんだろう。そう納得することにした。
ただ――。
「いらないな」
目を閉じ思い浮かべる。今度はそう……まれちゃんを。
いつもの天使のような微笑みのまれちゃん。
雨で濡れてしまって少し色気が出ているまれちゃん。
考え事をしている時に見た憂い顔のまれちゃん。
愛し合ったあの時の乱れに乱れまくったまれちゃん。
――完璧だ。
ズボンを降ろし、ゴムを用意しさっそく準備に取り掛かる。
この世界の男性の方々にはあまり馴染ないと思いますが、我々の世界では好きな子を思い浮かべながら性欲を高める事など他愛ない事なのですよ。
――異世界よ刮目せよ、これが我々のマスターベーションだ!
……ふぅ。
ジップロックを所定の場所へと持って行き、これにてお勤め完了。
献精所の中にはシャワールームも完備されていたので、身も心もスッキリした俺はとても清々しい気持であった。
人はこれを賢者タイムと呼ぶ。
思い浮かべた子に対して申し訳なさもセットで付いてくるのがお決まりだ。
そういえば終わった後ってどうすればいいんだろ、このまま帰っていいのかな。
受付で聞けばいいか、来た道を戻り受付へと行く。
俺の存在に気付かず受付のお姉さんは何やら事務仕事をしている。
案内された時には一人だったが、今は二人いるようだ。俺らが来た時に案内してくれたお姉さんもいる。
「あの」
「あれ、どうなさいました?」
「一ノ瀬様でしたね、何か不都合な点等ありましたか?」
「いや終わったんですけど、この後の段取りとか聞いてなかったなぁと思って」
『……え?』
目をパチパチと何が言われたのかわからないといった表情のお姉さん方。
「だから終わったんですけど」
「……終わった?」
「……え、ええと精子が出せず、検査不可で終わったということですか?」
「男性の方にはとても苦しい行為だというのは存じていますが、これは国から義務とされているものなのでなんとかこなして頂かないと……」
「も、もし実物相手が必要であれば私で良ければ……」
「あ、ずるい先輩」
なにやらとても魅力的な提案をしてもらえそうな状況であったが、すでに献精は済ませている。
そのことを簡潔に伝えると。
『え、はや』
何気ない、そう何気ないただの一言。何も悪意などなくぽっと出てしまったのだろう。
ただその一言が俺の心を深く抉った。
「そ、早漏じゃないです……本当に」
「あぁっ、申し訳ありませんそのようなつもりでは!」
「ただその、過去に一番早い方でもお昼を過ぎた後くらいなので、私たちもびっくりしてしまってっ」
そういうつもりではないってのはもちろんわかっている。
だけどこの話の流れで早いって言われるのは傷付くんだ。
「それで……この後はどうしたらいいんですか? 帰っていいんですか?」
「いえいえっ、検査結果を受け取りお帰り頂く形になっています。ただ結果まで1時間少々掛かるかと思いますし……」
「幾分今までの男性は精液を出された後はしばらく体調を悪くされる方が多いので、今日は皆様学生ですし……。一ノ瀬様お身体は大丈夫ですか?」
「えぇ、なんともないです。むしろスッキリしてますから」
「き、きいたことない……」
あれだけ注意書きにも強調されてたし、俺が転生者だから普通ではないのでこうなってしまうのは当然なのだろう。
ただまぁ、ちょうど時間は昼頃なわけで。
「腹減ったから昼ごはん食べてきてもいいですか?」
「えぇと、大丈夫ですけど……」
手馴れた行為とはいえ、一応体力を消費しているわけだし何か食べたい。
ふと、俺は突然この人たちと親交を深めておきたいなと思った。
もし、この後精子ありの判定を貰えればこれから何度もここへ足を運ぶことになるのだし、仲良くなっておくのも悪くないと思ったのだ。
というわけで一緒にランチをしに行こうと誘う事に。
「お姉さんたちも俺と一緒にご飯食べを行きませんか? この辺の美味しいお店教えてほしいな」
「えぇっ、私たちが!?」
「い、いいんですか!?」
「もちろん、あ、でも仕事中だからやっぱり厳しいですか……?」
「いえいえ、マコが残ってやりますから!」
「はぁっ!? アン先輩ズルいですよ!」
「この間デート権譲ったでしょ!」
「あんなクソ男で釣り合い取れるわけないじゃないですか!」
ちょっとした喧嘩を始めてしまった、原因は俺なんだけども。
埒が明かないので『お二人と行きたいな』と伝えると『男の人に誘われてるんだからしょうがない』『こんな仕事何時でもできますし』と納得されたようだった。
というわけでお姉さん方を連れて近くのファミレスでランチを楽しんだのだった。
そして運命の検査結果が待っている。
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