第47話『男の運命が決まる日』


 『一ノ瀬 恵斗様へ』

 『男性の義務である献精の為、貴方の精液の検査を行う日程をお知らせします。八月〇×日へ国で定められた施設へお越しください』


 リンから聞いていた定期献精、正式な日取りが決定し俺の元へと届いた。

 

 郵便配達で届いたわけだがこの書類には本人確認が必要であるため、自身で受け取った。

 コレが届いた際、母さんと姉さんは察した表情をしていたのをよく覚えている。

 

 部屋に戻り支給された書類を読み進めてみる。


『十六歳を迎える年の男子は国民の義務として国へ精液を決められた期間提出を継続して行わなければならない』

『十六歳から十八歳まで月に1回、十九歳から三十歳まで月に2回を義務とする。三十一歳からは月に1回へと減少する』

『尚、結婚し全ての配偶者に子を設けた場合のみ献精義務は免除となる』

『検査後の精子にはランクがAからEまで存在する。Eより下即ち精子無しと判定を受けた者は今後の献精義務は不要となる』

 

 『ランクが付かない……、子供を作れないってなるとその生徒は今後において見込みがないってことで城神から退学勧告を受けるらしいよ』


 リンが言っていたのはきっとこのことだ。


 入学後に鷹崎先生が『男は過剰に保護される存在であるが、あくまで優遇されるのは社会へと貢献する男のみに適用される人物に限る』ということを言っていた。

 これにもつながることだろう。


 気になってネットで調べてみると過去に城神を退学となった男子生徒と思われる証言が書いてあるスレッドを見つけた。

 退学にはなるが人生が閉ざされるわけではなく、何かしらの道を掲示しサポートをしてくれたらしい。

 ただ精子なしと判定されたこと、自身の価値が一気に低下したことを知られたくないので、親元を離れ知り合いのいない所で暮らしていると書いてあり、中にその証言の後を追うように自分もこうだった賛同するコメントが続いていた。


 男という約束されたレールに乗り続けるか、弾き出されるか。

 運命の日が間もなく迫ってきていた。



 

 そして迎えた検査の当日。


「じゃあ行ってくるよ」

「けいちゃん……」

「兄さん……」


 二人が心配そうに見つめてくる、そんな二人に思わず苦笑してしまった。


「二人とも大丈夫だって、そんなに心配しないで」

「でもけいちゃんが×判定だったら……」

「姉さんは学校で男子がいなくなるのを経験してるんだもんね」

「けいちゃんが居なくなっちゃったらお姉ちゃんどうしようって昨日からずっと……」

「……まだ検査もしてないんだからさ」


 わんわんと泣く姉さんの背中をあやすようにポンポンと摩る。

 当事者じゃない姉さんがこれだけ心配してくれるんだから俺は幸せ者だよ。


「芽美も大丈夫だからね?」

「……どんなことになろうと兄さんは私の大好きな兄さんです」

「うん、ありがとう。俺も芽美が大好きだよ」

「にいさぁん……」


 ポンと頭を撫でたら芽美まで泣いてしまった。

 参ったな、二人がここまで心配してくれるおかげで俺は逆に不安な気持ちが吹き飛んでしまったくらいだよ。


「ほら二人とも、恵斗が何時まで経っても行けないでしょ」

「グスッ……」

「まったくもう……、胸を張っていってらっしゃい、美味しいご飯作って待ってるから」

「ありがとう母さん、それじゃみんな行ってくるよ!」

 

 泣き止まない二人は心配だが背を向けその場を発つ。


 ふと、まれちゃんの家が目に入った。


 実は今日までまれちゃんや理奈から連絡は来ていない。

 多分俺が気負わないようにあえて連絡しないでくれているのだと思う。

 

 検査が終わったらすぐに彼女たちに伝えてあげよう。

 もちろん判定をもらってね。


 ――

 

 献精所の場所は城神高校からそう遠くないところにある。

 そして駅へ降りるとそこから見えるのは白く大きな建物。

 その場所へは数分で辿り着くことができて近くに寄ると『おぉぅ』思わず圧倒される。

 

 なんだろうこの、上手く言葉表せないけど神聖な場所のような雰囲気がひしひしと伝わってくる。


「よう、恵斗」


 俺が建物に圧倒されていると馴染のある声がした。

 振り向くとそこには彰とリンの姿が。


「二人も今日だったのか?」

「おう、というか城神の生徒は全員今日みたいだな」

「恵斗が着く前位にAとBクラスの男子たちが入っていったの見たよ」


 Aクラスっていうとアイツか……、いけ好かないあの眼鏡。

 あんな奴でも今日のような時は緊張しているのだろうか。


 どうかお願いしますと心から祈る。


『×判定になっていますように』と。

 切実にそう願った。


「大体の奴らがクラスメイトと一緒に行ってるみたいだし、恵斗はEクラスだから一人だろ? 可哀想なんでオレ達が一緒に行ってやろうと思ってな」

「彰……」


 お前ホント良い奴だな……。

 

「そんなこと言っちゃって、本当は自分もビビって怖いから一緒に行ってほしいだけだって正直に言いなよ」

「う、うっせーよリン! オレはビビってなんかいねーって!」


 おい、俺の感動返せよ。

 まぁ今日ここに来るまで俺もビビってたし、彰の気持ちもよくわかるよ。


「てかリンは全然緊張した様子がないな」

「あれ、恵斗知らねーの? リンは両親りょうおや持ちだからほぼ確定で精子あるんだよ」


 両親りょうおや持ち……、それは俺や彰みたいに人工授精で生まれたのではなく、父と母が性交し生まれた子供の事。

 性交によって生まれた男子は100%に近い確率で精子を持っていることが研究で現れているということだ。


「こいつ今だけは俺らよりも優位に立ってるからな、余裕なんだわ」

「精子なしでも僕らはずっと友達だよ?」

「クソ、その上から目線がムカつく……っ」

「それと恵斗に言っておくけど及川も両親持ちだよ。どうせ×判定になっててくれとか願ってそうだけど残念だったね」


 はー、ふざけんな。俺の祈り返せよ。


「さぁ、恵斗も来たんだしさっさと行こう」


 リンの言う通りこうして施設の前でいつまでもギャーギャーと騒いでるのも迷惑なので意を決して俺たちは中へと足を踏み入れた。


 施設へ足を踏み入れた時の雰囲気は外からの時と同じように神聖な場所のように感じられる。


「なんか重い雰囲気だな」

「献精って国からも言われてるように男の義務だし、精子の取り扱いも重要だから警察も近くをよく巡回してるしな」

「それに今日は人生が掛かっている男がいっぱいだしね~」

「おい、恵斗、今日でこいつとの友人辞めるぞ」

「賛成だ」

「ちょっ、冗談だってば~」


 馬鹿なやり取りを交わしながら歩を進め受付へとたどり着く。


「ご来所ありがとうございます、お宅へ充てられた書類を拝見いたします」


 それぞれ書類を受け付けの女性に渡す。


「はい確認いたしました。一ノ瀬恵斗様、二神彰様、三条リン様ですね。改めまして本日は当施設へご来所ありがとうございます。本日は精液の検査ですね。まず先にこちらをお渡しします、箱の名前があっているか確認をお願いします」


 お姉さんに渡されたのはなにやら小さめの箱、表には『一ノ瀬恵斗』と名前の入ったテープが貼られている。

 中に何かが入っているようだ。

 

「そちらは本日の献精で使用するキットとなります、それでは所定の場所へご案内いたしますのでこちらへどうぞ」


 受付の女性に先導されるがままついていく。

 受付を過ぎた後はなんだか病院の待合室みたいな雰囲気へと変わっていった。


「こちらに献精室が3つありますのでそれぞれ中へと進んでください。なお手荷物のある方が居りましたらこちらのロッカーへとしまって頂きますようにお願いします」


 受付のお姉さんはそれだけ言って踵を返していった。


「はぁ~気が乗らねえな」

「とは言ってもやらなくちゃいけないからね」

「とりあえず終わったらさ飯でも食いに行こうよ、外で待ってるから終わった奴からチャット飛ばそうぜ」


 今更緊張してもしょうがないのでもう割り切ることが出来た。

 終わった後の事を二人へ提案すると『何言ってんだこいつ?』みたいな目で見られた。


「え、なに?」

 

 何だその軽蔑したような目は。

 早く終わった奴=早漏の疑いが出るから嫌だってことか?


「お前何言ってんだ? 精液出した後で飯食いにいこうだ?」

「恵斗のことがたまにわかんなくなるよ、いやもう今更か……」

「たしかに出した後は賢者タイムに入るけどさ、え、それだけだろ?」

「なんだよ賢者タイムって」

「知らない」


 賢者タイムを……ご存じない?

 

「あのなぁ恵斗。普通精液出したら数時間は休むように言われてるし、そもそも飯食う気力さえ出ないっつうの」

「え?」

「二十代後半にもなればだいぶ楽になるらしいけどね、十代の僕らじゃまず無理だよ。馬鹿な事言ってないでさっさと入ろう、二人は精子がある事を祈るんだよ」

「余裕ぶりやがって、お前なんかE判定になるのを祈ってやるぜ」

「え? え?」


 戸惑う俺を置いて二人は室内に入っていった。


「……1回出したら動けない?」



――

〇作者から宣伝。

新しく『親友たちとエロゲ世界へ転生~原作ミリしらの俺がヒロインたちをモノにするらしい』を投稿しました。

ぜひそちらも閲覧願います!

♡、☆どちらの小説もお待ちしています!

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