第41話『彼女はいつだって天使であった』


 放課後は千尋と二人で彼女の家へ行きテスト勉強を――。

 週末は最強にパーフェクトな婚約者のまれちゃんに教えを請いながら勉強を続けていった。


 そして迫る期末テスト前日の日曜日。

 

「けーくん凄く頑張ったね」


 今日もまれちゃんと共に期末テストの勉強をしていおり、最後の仕上げとしてテスト形式の問題を行い採点を終えた彼女が結果を見て笑顔になった。


「満点だよ、これで明日からのテストも大丈夫!」


 ぎゅっと抱きしめられる。


 はぁ……心から幸せを感じる。


「まれちゃん、結局教わってばかりでごめんね」

「うぅん、私も復習になったから。それにけーくんがこんなに勉強に一生懸命なの初めてだから私も嬉しかったよ」


 彼女の言う通りこんなにも勉強に向き合ったのはこの世界に生まれ変わってからは初めてといえるだろう。

 前世でもモテるために勉強はしていたがここまでの成果はなかったはずだ。


「けーくんの唯一の弱点が勉強が苦手だったのに、克服しちゃったらもう無敵になっちゃうね!」

「それは褒めすぎだよまれちゃん」

「うぅん、そんなことないよ。それくらいけーくんはこの期間で成長したと思うよ」


 ニコニコと『凄い凄い!』と彼女は褒め称えてくれる。


 まれちゃんって天使か、天使だったわ。


「元々けーくんは勉強ができないっていうよりはやる気がないって感じだったから、それさえ克服したらぐっと伸びると思ってたんだけど……何かあったの?」

「それはもちろんまれちゃんの婚約者として見合う男になりたいからだよ」


 これは本当だ。

 だから今回のテストで成果を上げなければならないって決意していたのだから。


 けどまれちゃんは――。


「ふふ、ありがとう。でも他にもけーくんを動かした何かがあるんだよね?」

「まれちゃんには何でもお見通しだね」

「それはもちろん大好きなけーくんこのとだからね!」


 ニコッと笑うマイ天使、俺も大好きです。


 それは置いておいて勉強嫌いな俺を動かした理由を彼女へと語る。


「佐良千尋さんっていうんだけどねその子は、確か部活紹介の時に会ったと思うんだけど」

「うん、覚えてるよ」

「放課後はその子の家にお邪魔して一緒に勉強をしてたんだ。それで初日に彼女の事を強く意識するようになったんだけど……もっと彼女と一緒に居たいなって思うようになったんだ。それから毎日二人で勉強をしていくうちに彼女と過ごす空間が凄く心地良くてそのおかげなのか勉強もかなり捗ったんだよね」


 千尋も初日こそ部屋に案内した時のバタバタで恥ずかしかったみたいだけど、次第に慣れてきたみたいで日を追うごとに何事もなく家に案内されるようになっていった。


「家でも勉強をしてるとあの心地良い空間が思い出せるんだ。その影響で進んでやるようになって途中からまれちゃんの力に頼ってさらに上達で来たんだよ」


 テスト前は『まれちゃんに頼りっぱなしだから』なんて思っていたけど、この調子でやればテスト勉強がかなり捗ると思ったから結局頼ることにしてしまったのだ。


「そういうわけなんだけど……まれちゃん?」

「むぅー……」


 説明を終え彼女の顔を見るとほっぺを膨らませていた。


 なにこの子めっちゃ可愛い。


「聞いたのはわたしだけど思った以上に惚気てた……」

「いや惚気てたっていうか……」

「私じゃけーくんを勉強に目覚めさせられなかったのに、悔しい……」


 ちょっと落ち込むまれちゃん。


 なんだこの可愛い生き物……じゃなくて。

 慌てて弁解をする。


「いや、まれちゃんとの勉強では心地良くなかったとかそういう事は決して無くて、むしろまれちゃんと一緒にいるという事自体が天にも昇るような快感で勉強どころではないというか」

「わたしとの勉強では好きにならなかったんだ」

「そ、そのぉ……」

「他の子と勉強する時の方が楽しかったんだ……」


 罪悪感が……。

 こ、殺してくれ……。

 

 むしろ自分で死ぬか……。


「その……まれちゃんには教わってばかりで頼りっぱなしなのが申し訳なさ過ぎて。逆に千尋と勉強してる時は一緒に上達している感が顕著に感じられてそれで楽しくなったというか……」

「……ふふ」

「……まれちゃん?」

 

 お詫びの飛び降り自殺をする前にもう少し弁解を続けていると、彼女はふっと顔を伏せ少し笑った。


「ちょっといじわるしちゃった。佐良さんていう女の子に負けちゃったなぁって思うと少し悔しくて」

「――っ」


 びっくりした。

 

 ごめんねけーくんと舌を出して謝った彼女はなんていうかもう……この世のものとは思えない可愛さで蒸発するかと思った。


「それでけーくんはその子の事をどう想ってるの?」

「……最初は色々とあった影響で気にしてる程度の女の子だったんだけど、最近千尋は俺の中で大きくなっていってその……好きになってるんだと思う」


 気になっている、一緒に過ごして楽しい、一緒に居たい。

 千尋の事を考える時間が増えている。


 一緒に勉強していて気付くこともあった。


 彼女は心からよく笑うのだ。


 学校でも彼女は友達と話していて楽しそうに過ごしている。

 そこに嘘偽りはない。

 

 しかし、二人になってわかった。


 自分の家というスペースが彼女のバリアを緩くしているのか、いつもより表情の変化が多いのだ。


 これは俺の勝手な考えだけど。


 学校では彼女が昔受けたであろうイジメを無意識のうちに思い出されていると。

 それで彼女は楽しんでいるつもりでも心から笑えていない。

 この期間でそれを顕著に感じるようになっていた。


 だから彼女の心から出る感情を受け、俺は千尋の笑顔がもっと見たいと思うようなったんだ。


「あぁ、そうだ。俺は千尋に恋してるんだ。彼女と恋人になりたい」

「……そっか」

「気が早いけど彼女とも将来を育んでいきたいって思う、だから彼女の事を……認めてもらえるかな?」

「もう、わたしがけーくんの選んだ女の子を否定するわけないよ」

「そうは言ってもさ、未来の妻に報告してしっかりと認めてもらえないと婚約者を増やしたくないからね」


 理奈にも後で伝える、もちろん彼女の意向も尊重する。


 俺はこの先も婚約する人を決めたら将来の妻になるであろう彼女たちへまず報告をするつもりだ。

 重婚が義務となっているこの世界、将来俺の妻たちの関係が悪くなるなんてそんなの嫌な事だから。


「ふふ、本当にその子の事が好きなんだね。これはライバル出現だなぁ」

「いつも言ってるけど俺はこの先何があろうとまれちゃんが一番は揺るぎないよ」

「えへへありがとう。わたしもけーくんが一番大好きだよ!」


 チュッと頬にキスを、お返しに俺もまれちゃんの頬へ口付けた。


「ただね、けーくんが最近失礼なこと考えてるの知ってるんだからね」

「え?」


 人差し指をビシッと俺へ向け。


「勉強ができないから私に見合うわないとかそんなこと考えちゃダメなんだから、人の評価なんて関係ないんだよ。私はけーくんが大好きでけーくんも私が好きだから結婚する、これでいいんだよ」

 

 まれちゃんに見合う男になりたい、ならなきゃいけない。

 彼女には特に伝えず心で思っていた事だったが、お見通しだったみたいだ。

 

「でもまれちゃん、俺のせいで君の事が少しでも悪く言われるのは嫌だよ」

「そんなこと気にしなくていいんだよ、わたしに対して誰がどう思うと関係ないよ、けーくんがいればそれでいいんだから」

「……」

「だから必要のない心配をしてるけーくんはこの後私にぎゅっとして、なでなでして、キスして、あとそれから……とにかくいっぱい構ってもらう事をご所望します!」


 可愛いおねだりをする俺の心から大切な女の子。

 彼女に言われたら断れるわけがない。


 まれちゃんの後ろへ回り抱きしめる。

 彼女の身体は腕の中にすっぽりと入った。


「まずは明日からのテストがんばろうね」

「うん、なんとか良い点をとるよ」

「けーくんなら出来る! 自信もって!」


 天使からこの世最大の応援を受けたし、千尋への想いも決まった。


 その前にいよいよテストが始まる。


 正直前世でもないくらい前準備が出来たし自信にあふれている。


 待ってろよ期末テスト!

 

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