第3章『変化していく評価』
第38話『モテ期襲来?』
入学した当初は痴漢疑惑やら理奈と恋仲になったり、新しい友人や部活に入ったり、まれちゃんとの仲も進展したりとイベントが盛り沢山であったがそうこうしているうちに日は経っていき。
ここの所特に大きなイベントは無く学生生活を謳歌していたのだが……。
「好きです! 付き合ってください!」
目の前には頭を下げる女子生徒、事前にもらった手紙に記してあったから名前はわかるが顔は今初めて知った関係だ。
今俺は告白をされたのである。
スマートフォンが完全に定着しているこの世の中で、手紙を用いて呼び出すという手段はいつどの世界においても共通手段であるようだ。
勇気を出して想いを告げてくれた女の子に返事を待たせるのも期待を持たせるのも却って良くないので
「告白してくれてありがとう、君の気持ちは凄く嬉しいよ。でも申し訳ないんだけど俺は君の事を何も知らないし、君も俺の事を評判以上に知らないと思う。そんな曖昧な関係で恋人になることは出来ないんだ。だから……ごめんなさい」
変に期待を持たせないようにはっきりと断りを入れる。
俺の返事を受けた女子生徒は残念そうでなんとなく察していたような表情をしていた。
「わかってたけどやっぱりかぁ……」
「気持ちは嬉しいんだけどごめんね芹沢さん」
「え、私の名前覚えてくれてたの……?」
「もちろん、手紙にも書いてあるからね」
「そんな所が好き……」
うるうると感動したような表情で見つめられる。
惚れ直されるのはとても嬉しいのだが断ることに変わりは無いのでなんとも心苦しい。
その後何事もなく別れ無事告白イベントを終えることが出来て教室へ戻る。
「王子様おかえり、今日は三回目で大変だね」
「毎回断るのは申し訳ないんだけどね……」
「王子様は律儀だよ、他の男の子だと告白しようにもそもそも想いを告げる場所にも立てないし」
「告白するのも勇気が必要だし、無下にしたくないからさ」
「好き……私も今日王子様に告白していい?」
「前田さんに先週も告白されたはずなんだけど……」
「この娘四回目ですよー、いい加減懲りなさいって」
「いやだー、私も王子様と結婚したいのー!」
「みんなそう思ってるに決まってるじゃん!」
がやがやとクラス内が賑やかになった。
盛り上がる彼女たちを眺めていると『失礼するわ』と見知った顔の女子生徒、智子先輩がやってきた。
「弟くん、盛り上がってる所ごめんね。放課後少し時間が貰いたいのだけれど」
「放課後ですか? 大丈夫ですよ生徒会室へ行けばいいですか?」
「大丈夫よ、それじゃあ放課後に」
短く用件だけを告げ智子先輩は去っていき、智子先輩が去ると教室はまた一層盛り上がる。
「鹿目先輩もしかして……?」
「あの
「わたし鹿目先輩は一ノ瀬会長とそういう関係なんだと思ってた」
「うぅ~私の王子様が」
「ハイハイ、王子様はみんなの王子様だよ」
智子先輩に限ってそういう事は無いと思うけど……。
女子たちの恋バナというのはどの世界でも盛り上がるネタなんだなと改めて感じさせられるのであった。
――放課後。
約束通り生徒会室へとやってきた。
ノックをし『どうぞ』と返事が返ってきたので入室する。
「こんにちは智子先輩、用事は……そのぉ……」
「いらっしゃい弟くん、もう見てわかると思うんだけど
生徒会室に入ってまず目に入ったのが出迎えた智子先輩。
そして会長と立札が置かれた席でぶつぶつと呟いている何か……人がいた。
「ぶつぶつ……私のけいちゃんが……」
「アレはなんです?」
「あなたの愛するお姉ちゃん」
「ガルルルッ!」
そうか……、やっぱりアレ姉さんなのか。
ぶつぶつと呟いていたかと思えば急に獣のように唸りだしたよ。
「なんでこんなことに?」
「弟くんが今朝告白されてるの見掛けてからこうなのよね……」
「はぁ……」
俺が告白される様子は結構目撃されてるみたいだから姉さんの目に入っても不思議じゃないと言えば不思議じゃないが。
「でも告白されたのって今日が初めてではないですよ?」
「知ってる、ここの所色んな女の子に告白されて丁寧な対応で断ってるってね。二年生の間でも弟くんのこと評判になってるよ」
そう今日の告白もこれが初めてというわけでなく、ここ最近起きている出来事なのだった。
ちなみに最初に告白したのは同じクラスの前田さん。
今日告白してくれた芹沢さんと違って前田さんは同じクラス。
互いに知らない関係というわけではないが彼女からの告白は断りの返事をしていた。
彼女は友達として魅力的な女の子であるが恋人として付き合いたいという感情は残念ながら持ち合わせていない。
告白というのはとても勇気がいる行為だ。
特に失敗した時はとてつもない虚しさが身を襲うのを俺は実体験もしている。
だから少しでも彼女が傷にならないように、次の恋を早く見つけてほしいと願い丁寧に断らせてもらうことを心掛けていた。
それがまさかの大好評。
クラスメイト達からこの流れについて聞いた所、元々容姿は他クラスから注目を浴びていたらしい。
しかしながらEクラスというウィークポイントが足を引っ張っており付き合ってほしいという所には繋がらなかったとの事。
そんな中で入学して間もなく婚約者を二人決め、Eクラスの女子たちに対して嫌がる所か好意的に会話をしている所、クラス内に留まらず部活でも同じような感じだというのがクラスメイトや軽音部の先輩たちからその友人へ……またその友人へと伝わっていき『一ノ瀬恵斗という男子は女子と関わることを嫌がらない』という事が伝わっていった。
無関心、嫌悪、見下すといった態度をとる男子が多い中、一ノ瀬恵斗だけは自分たち女子と仲良くしてくれる、この人なら将来も良き家庭作りができるといった考えに至ったという事らしい。
そのせいかここ最近は毎日のように告白の呼び出しやラブレターを受け取っていて中には上級生の女の子も何人かいた。
思わぬところでモテを感じられ内心テンション上がりまくっているのだがなんとか表に出さず冷静に振舞っていると自分では思っている。
「俺がこうして告白されてるのを姉さんは知ってるはずなんですけどね」
最近告白されることが増えていると家族には報告済みだ。
その時の姉さんは『さすがけいちゃんだね!』と自分の事のように喜んでくれていたんだが……。
とにかく姉さんがどうしてこうなってるのか直接訪ねてみるか。
こうして俺と智子先輩が話しているのにも関わらずいつまでもぶつぶつ呟いており、正直言って物凄く不気味なのだが意を決して声を掛ける。
「姉さん、俺だよー恵斗だよ」
「……この声はけいちゃん!?」
ガバッと姉さんは起き上がる、我が姉なのになんだか怖い。
「けいちゃん……けいちゃんだぁ~!」
姉さん怖いなぁとか思っている間に抱き着かれる。
相変わらず素晴らしいボディをお持ちでとても柔らかいものが俺に押し付けられる。
しかし今は恥ずかしさを感じるよりも若干の恐怖の方が強い。
「姉さん様子が変だけど、いったいどうしたの?」
「けいちゃんが最近告白されて冷静を装ってるけど内心はウキウキしてるのがお姉ちゃんにはよくわかるの、だからけいちゃんが希華ちゃんや理奈ちゃんは兎も角知らない女の子と次から次へ恋人にしたらって思って……」
俺の心の内は姉さんにバレバレであった。
智子先輩の目がジト目に変わる。
「けいちゃんが次々に恋人をつくったら将来お姉ちゃんに子供産ませてくれる約束はどうなっちゃうの? お姉ちゃん蔑ろにされない? わたしはもうそれが心配で心配で……っ」
「えぇ……」
「そんな約束してないけどぉ!?」
姉さんに子供産ませる約束?
全く持って身に覚えがないんですけど……。
「あれはけいちゃんがまだ小さい頃だったんだけどね、毎日耳元で『お姉ちゃんに子供産ませてね』ってお願いしたら小さく『うん』って頷いたの覚えてるんだから!」
……寝言かよ。
その『うん』もきっと呪詛のように言い続けてくるものだから呻いた感じだったんじゃないのか……?
「姉弟の付き合いに口を出す気はないけど……もうちょっと付き合い方を考えたら?」
「本気でそう思っています」
女の子がしちゃいけない顔してるよ……。
さすがの智子先輩もドン引きしている。
「ふへへ……小学校に上がる前のけいちゃんはね、一緒にお風呂に入った時に……」
「何か暴露しそうな勢いだけど?」
「もうアレはほっといて帰りましょう智子先輩! 俺智子先輩と一緒に帰りたいなぁ、さぁ急ぎましょう!」
「わ、わかったから押さないでって……」
今度は何を言い出すかわかったもんじゃないので姉さんには悪いけど置いて帰ることにした。
最初みたいに呻いてる感じじゃないしもうほっておいて大丈夫だろう。
――姉さんが結構危ない領域に入っているので今後の付き合い方を考えないといけないかと思った一日なのであった。
「……あれ、けいちゃんは?」
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