第37話『ゲームをしよう』
六月。
この時期というのは世界が変わっても雨が多くジメジメした季節であった。
部屋の外を見ると大雨が降っている。
昨日も今日も雨、明日の予報も雨で毎日雨続きだ。
せっかくの週末だというのに出掛けることも出来ずにこうして部屋でだらけている。
さっきまで勉強をしていたのだが如何せん集中力が長く続かない。
ついスマホを手に取って現実逃避をしてしまう。
きっと雨のせいだろう。
こういう時はギターでも弾くか。
文化祭に向けて練習もしなきゃならないし、うんそうしよう。
はい今日の勉強はおしまい!
「兄さん、入りますね」
勉強を投げ出してギターを手に取ると芽美が部屋に入ってきた。
「あ、ギター弾いてたんですね、邪魔でしたか?」
「いや、大丈夫だよ、どうしたの?」
「えっと、ですね……」
少し恥ずかしそうに後ろで手を組んでいる。
だがあまり経たないうちに次の言葉を発した。
「一緒にゲームしませんか?」
「へぇ~、細かくキャラを設定できるんだ」
「はい、自分を動かすキャラ作りが凝ってて人気なんですよ!」
芽美の部屋にお邪魔してゲーム機のコントローラーを操作している。
画面上では芽美がハマっているというMMORPGのキャラクター設定画面が映っている。
なんでもこのゲームはヒット作らしくやっている人がとても多いらしい。
しかし懐かしいな、幼い頃はこうして芽美と二人でたくさんゲームをしたもんだ。
主に外に出るのを怖がってた男のせいでもあるんだけど。
その時の名残から芽美は今でも勉強の息抜きとしてゲームをしているらしい。
「これで完成でいいかな」
「兄さんらしくて恰好良いキャラクターができましたね!」
画面上のキャラクターは漆黒の剣士みたいな厨二病キャラが出来上がっていた。
男はどれだけ年齢を重ねてもこういう心を忘れないからね……。
「でも兄さん女の子のキャラじゃなくてよかったんですか?」
「え、俺男だしこれでいいんじゃない?」
やっぱり画面上の自分なわけだし男キャラがあってると思うんだが。
「このゲームオンライン対応してるので男の子キャラだと出会い目的で近づいて来るかもしれませんよ」
「あぁ、そういう」
たまにあるよね、ゲームを通じて結婚しましたみたいな話。
そういうのが広がってオンラインゲームを出会いの場だと勘違いしてしまう人も中に入るそうだ。
でもあれって極少数だし、実際は操作してるキャラと本人の性別が違うなんてことはよくある話で。
そもそも俺はこれまでゲームで出会えるなんて都合の良い話があるわけないと思ってた人間だから大丈夫だろう。
「案外本物の男が操作してたら『この人男に成り切りすぎ……』って引いてくれるかもよ?」
「うーん、兄さんが良いなら私はいいんですけど」
問題ないって。
いまいち納得していない芽美を押し切って俺は『ゲームスタート』を押す。
せっかく自キャラが恰好良く作れたから早くプレイしたいし、出会いを求められても断ればいいだけの事さ。
強引に物語を開始しつつもいざゲームを始めれば芽美は隣で丁寧に操作方法を教えてくれて、ある程度レベルが上がったら二人でクエストに行ったりと、この日は久々に彼女とゲームを堪能したのだった。
――
「へぇ~、恵斗くんもあのゲーム始めたんだ!」
「そうなんだよ、妹が教えてくれてね。久々にゲームにハマっちゃったよ」
翌日の学校で。
昨日始めたゲームの話題をクラスメイトに振ってみた。
すると真っ先に反応してくれたのが千尋だった。
「わたしも去年からやってるんだよ、面白いよね~」
「おぉ、そうなんだ。色々教えてくれると助かるよ」
「もちろんだよ、わたしのキャラ見る?」
「どれどれ、おぉ、凄く可愛いキャラだね!」
「そうなの、キャラメイクに一時間以上も掛けちゃって、結構頑張ったんだ!」
千尋のスマホで彼女のキャラを見せてもらっている。
このゲームはキャラの服装も凝っていて組み合わせも自由に変えられるそうだ。
芽美の使っていたキャラも中々のものだったが千尋も凄いな……。
千尋はスマホを操作して他のスクショも見せてくれて俺はキャラメイクの凄さに圧倒されていて夢中になっているのだった。
二人とも肩が密着してくっついた状態になっているのは気づかないまま……。
――王子とちっひーイイ感じ?
――千尋ちゃん楽しそうだね。
――あの、私たち佐良さん応援してるのは事実だけど、王子様とあんなにくっついてるのは羨ましすぎるんですが。
――わたしもゲーム始めようかな……。
――今始めれば王子様と同じくらいからスタートだからいっぱい遊べるんじゃ?
――ちょっと早退してゲーム屋行ってくる!
なんて会話が繰り広げられていたのも知らずに、俺は千尋のキャラに夢中になっていて授業の開始まで色んな写真を見せてもらうのだった。
――
「さて今日もゲームを始めるかー」
風呂に入り部屋に戻ってゲーム機を起動する。
最近は毎日ゲームが楽しくて日課になってしまっている。
ゲームを誘ってくれた芽美は残念ながら今年の受験勉強が忙しく毎日は共にプレイすることが出来ないが、休日は一緒にやろうと芽美から伝えられている。
そして先日話が盛り上がった千尋ともフレンドコードというゲーム内における友達システムでも繋がっており、ちょくちょくクエストを手伝ってくれている。
そういえば今日クラスメイトの何人かがこのゲームを始めたと報告してくれた。
チャットでフレンドコードも送られているので登録をしておかないと。
こうして同じ楽しみを持つ輪が広がっていくのは嬉しい限りだ。
さて今日はまだレベルも低いし、芽美や千尋に合わせた高レベルのクエストに行けないので一人でレベル上げに勤しもう。
大分操作も慣れてきたしソロでもモンスターが狩れるようになってきたはずだ。
腕試しの意味も兼ねて頑張ってみよう。
「んー、これとか報酬も中々いいんじゃないか」
とある中型モンスターの討伐クエストだ。
このモンスターはこの間
クエストを受注して準備を進めていると他のプレイヤーから声を掛けられた。
『クエストご一緒させてもらえませんか?』
ダークブルーの鎧を纏った弓使いの男キャラだ。
『さっきそのモンスターを倒しきれなくて、同行させてもらえると助かります』
『なるほど、自分は初心者なんですけど大丈夫ですか?』
『はい、オレも始めたばかりなんで!』
同じ初心者さんのようだ。
なにがなんでもソロでやらないといけないわけではないし、こういう協力プレイもオンラインでの醍醐味だろう。
『SUMI』さんというプレイヤーと一緒にクエストに行くことになった。
ちなみに俺のキャラ名は『IKETO』である。
自分の名前の順番を入れ替えただけだ、そこ単純って突っ込まない。
クエストに出発し洞窟内を走り抜けるとそこには目的のモンスターが。
俺は剣士職であるのでモンスターへ突っ込む。
『奴の尻尾の毒に注意を!』
『了解!』
尻尾に警戒しつつソードでモンスターを斬る。
後ろからは弓でSUMIさんが援護もしてくれている。
『状態異常入れます』
『お願いします!』
SUMIさんの射撃でモンスターに麻痺が入る。
痺れて動けないうちに奴の弱点である頭をひたすら斬りつける。
しかしいつまでも怯んでいてはくれず、麻痺が解けたモンスターは凶暴化して暴れまわり始めた。
『ブレス来るから気を付けて!』
『わかった!』
口からビームが薙ぎ払われる。
先に指示していたおかげか何事もなくSUMIさんは躱していた。
凶暴化してきたという事は大分ダメージが入ってきた証拠でもある。
臆せずに攻めていこう。
しかしそこで油断したわけではなかったが、敵の攻撃を食らってしまい結構なダメージが入ってしまった。
『広域入れますね』
SUMIさんが回復を入れると俺にまで影響が及び減ったHPもほとんどが回復した。
『助かりました……』
『タゲ集めてるからしょうがない!』
いやはや申し訳ない気持ちである。
これはソロで行ってたら失敗間違いなしだったな。
フォロー万全なSUMIさんに感謝せねばならない。
この後は敵の攻撃に注意しつつ慎重にダメージを入れていく。
そしてやがて……。
――QUEST CLEAR!
モンスターが倒れクエストを達成したという文字が画面に現れた。
討伐完了である。
『やったー、倒せたー!』
『おつかれさまでした!』
『SUMIさん色々とありがとう!』
『いえいえ、こちらこそ助かりました!』
キャラのレベルも上がり、クリアした報酬も良い物が出たので大満足だ。
フィールドからロビーへ戻り、改めて感謝を告げる。
『IKETOさんと組んで凄く動きやすかったんで助かりましたよ』
『いやいやSUMIさんのフォローが完璧でした』
お互いに褒めあいながらクエスト達成の喜びを分かち合う。
初めてパーティーを組んだわりにはかなり意気投合したのでそのままフレンドコードを交換し、SUMIさんがログアウトするという事だったのでそのままお別れした。
「いやー、知らない人と一緒にプレイするのも楽しいなぁ」
キャラも成長したし、
その後も2、3個クエストを進めてその日のゲーム進行は良好で一日を終えたのだった。
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